略して魔女は浄化する
「ぎぃあぁぁぁぁ!?」
「……ハッ!?」
私の目の前で、さっきまで一緒にいた魔法使いが苦しんでいた。
周囲には色があり、あの変な空間でなく現実だと分かる。
助かったな、やっぱり。
「なんかセレス様に攻撃したら苦しんでるんですが……」
「もしかして見たら発狂みたいな感じなのかい?」
勇者が私のことを邪神認定してこようとしたが、そんな事はないはずである。
どうやら、私の体感と現実には誤差があり、私以外には勝手に自爆したみたいに見えているらしい。
いや、なんやかんややってたからね。
「残る四天王は一人ですね。あっさりでした」
「そうね、レベル差ありすぎたのかもね」
「ゲームみたいに……これじゃない感がすごい」
困惑している勇者を他所にさっさと先を急ぐ。
まぁ、最後の四天王というのは大体予想できてるんですけどね。
私達は魔王城跡地にやって来ていた。
見るも無惨に崖下に倒壊した石材となんかモンスターらしき死体が積み上がっていた。
そんな崖の真ん中に、待っていたぞと言う感じで誰かが剣を地面に刺し立っている。
「敵か、みんな下がって」
そう言って、勇者は剣を抜きながら敵に向かう。
敵は全身が黒い甲冑であった。
泥のように、霧のように、気化する黒いドロッとした物を滴らせた黒騎士、そう形容しやすい姿をしている。
そんな奴に武器を片手に走りだし、斬りかかる勇者を見ながら多分、奴じゃないかなと先の展開を見守ってみた。
「くっ……強い!」
「お前は、弱くなったな」
「……ッ!?」
剣と剣がぶつかった甲高い音と共に、両者が後ろに飛んで距離を空ける。
片方は驚き、片方は静かに佇む。
「そんなはずは……まさか、死体を利用したのか!魔王軍、貴様らに人の心はないのか」
「検討違いも甚だしいな」
ゆっくりと顔にあたる部分に手が添えられ、その甲冑の頭部が割れるように壊れる。
そして、そこに現れた顔はどこかで見たもう一人の勇者だった。
「久し振りだな、室伏」
「安藤……なのか?そんな、ゾンビじゃない?」
「正真正銘俺さ、俺は生き返ったんだ」
いや、知ってた。
なんだと、みたいな予想だにしない展開に固まるとかそういうのはない。
だって、分かってたじゃん。もう一人の勇者は寝返ってるって、前情報として分かってたじゃん。
「何故だ!何故なんだ安藤、どうしてそこにいる。まさか裏切ったのか!」
「それくらい理解できないとは御目出度い野郎だ」
「そうか、魔王に洗脳されてるんだな」
その勇者の言葉に、はぁと深いため息を吐く堕ちた勇者である黒騎士。
そして、その顔には憎悪に溢れていた。
何をそこまでさせるのか、一体何したんだよ。
「忘れたとは言わせんぞ、あの旅のことを」
「な、何を言って……」
「部屋が二つしか無かった時のことだ。お前と女子二人は同じ部屋、俺は一人部屋!そして、隣の部屋からアンアン!何してたんでしょうねぇ!」
勇者とアマーリアを除いた私達は、思わずうわぁとドン引きしていた。
何してたって、いやまぁ昨日はお楽しみでしたねだろうな。
「そ、そんなことで!?」
「そんなことだと!ダンジョンのトラップで分断させた時、やっとのこと合流したらお前達はヘトヘトだった」
「それは、それほど過酷だったってことだろ」
「女子二人は腰を押さえてたけどな!お前は前屈みだったけどな!ぶっ殺してやろうかと思ったわ!」
二度目のうわぁである。
まぁ男女混合の旅だしそういうことも、あるのかもしれない。
流石にダンジョンでとか馬鹿なのかなと思うけどね。
「俺が一人でモンスターと戦ってるとき、お前はご自慢の聖剣でアンアン言わせてたんだろ!俺が雑用から命がけの戦闘している間ですらな!そんな俺を最後には見捨てて殺しやがったな!」
「分かった。奴は童貞の死んだ無念から蘇ったデュラハンなんだわ!」
「どどど童貞ちゃうわ!」
私の指摘に、剣を振り回しながら文句を言ってきた。
でも、女に現を抜かさずにずっと一人だったんだろ。
宿もダンジョンもボッチでやって……可哀想。
「お前!哀れむように見るんじゃねぇ、犯すぞ!」
「えー、何言っちゃってるの?私に指一本触れられる訳ないじゃ無い?相手にされないからって、手当たり次第とかこれだから……」
「お前、それ以上言ったら戦争だ!このクソ魔女が!テメェら全員、ぶっ殺してやる!」
変な奴ながら、その発する魔力は邪悪な物があり脅威ではあった。
複数の神からの加護が一応なりとも授けられたからだ。
しかも、属性は悪だから破壊的な方面に特化してやがる。
「ところで、魔王は何処にいるんだ?」
「フッ、あの方なら崖下の魔王城だ」
「えっ?」
「えっ?」
「だって、瓦礫だよ。瓦礫の下なの?」
「……あの方はこの程度で死なん!」
いや、いやいやいや、死なないかもしれないけどだからって逃げなかったのか。
それで魔王城と一緒に崖下に……馬鹿しかいないのか、魔王軍って!
堕ちた勇者は問答無用とばかりに、剣を地面に向けて一線、そして立てるように剣を前にして構えた。
まるで騎士が叙勲式でポーズを付けるように、言ってしまえばゲームでの敵ボス登場シーンみたいに格好付けていた。
「さぁ、尋常な勝負をしようではないか!もっと、あの頃の俺とは――」
「全略、スーパーセイクリッドビーム!アンデッドは死ぬ!」
私の手から光る玉が発生し、ミラーボールのように乱反射する光が周囲を照らす。
アンデッドは問答無用で成仏する。
生き返ったとか言ってたけど、完全なる蘇生なんて悪属性の神共が出来るわけが無いのであり得ない。
多分、普通にアンデッドなんだと思う。
「ぐわぁぁぁぁぁ!?」
「き、効いてない!まったく、効いてない!」
「フハハ……この程度痛いだけで……大したことないぜ」
足をプルプル震わせながら、なんとか剣を支えに立ちながらそんなことを言い出す。
しかし、あり得ない。
普通に浄化されるはずなのに存在しているんだもん。
「効いているように見えますよ」
「だって、存在してるわよ!問答無用で消えるはずなのに」
「でもでも、痛がってプルプルしてますよ」
私達が目の前で起きた現象について、考察しているとアマーリアが問答無用で魔法を行使し戦いを始める。魔法陣が魔法陣を呼び出し、その数が数秒で数十、数百と幾重にも重なっていく。
そして、そこからゴブリンやコボルト、トロールやサイクロプス、ドラゴンからケルベロスなど小型から大型まで出てきた。
「魔術的、魔法的に対処出来ないならば。物理的に消滅させれば問題ございませんわよね」
「安藤、君を止めてみせる!」
「待て待て待て、良い感じに言ってるけどそこの魔女もそっちのも詠唱はどうした!なんだよ全略って全部略してどうする!」
「正直、私レベルになると詠唱とか雰囲気作りだから」
「私もです」
私とアマーリアの言い草に、悔しそうに顔を顰める。
そんなこと言ってもなぁ、詠唱とかで補助しなくても出来るんだもん。
補助が無くても逆上がりが出来るような物だ。
「まぁいい、どうせお前らじゃ俺は殺せない」
「試してみますか?」
「あぁ、試してみようか。だが、お前は邪魔だ」
奴が不敵に笑った瞬間、アマーリアの身が召喚したケルベロスによって噛みちぎられた。




