分からず魔女は助かってしまう
私は真っ白な空間に居た。
もうピンと来た、よくある転生の間に違いないとね。
ここで神様が出てきて土下座して転生させてくれたりするんだろう、そういう展開は個人的に嫌いだけどね。
いや、私のイメージする神様って見た瞬間発狂とかするタイプだからそんな腰が低いのは悪魔に違いないと思うよ。
「で、いったいなんだこの状況……えっ、私死んだ?」
なんかすごい詠唱ですごい魔法をくらってすごいことになったんだと思う。
すごいって連呼して、頭悪いなコイツと思われるが、ぶっちゃけ何されたか分かってない。
取りあえずすごいしか言えない、私が分からないんだからすごいんだ。
「ここは、私の作り出した最初で最後の魔法だ」
「うわぁ、出たな!」
声がして、急に目の前に現れた其奴に私は驚きの声を上げる。
気付いたら居た、などという心臓に悪い状況が出来上がっていたからだ。
しかし、どこかの異空間に飛ばされたとかそんなだろうか?
そんな感じはしないんだけどな、というか魔力とかそういうのも感じない。
だからと言う訳では無いが、よく分からないことは分かった。
「ここについて知りたいか?」
「いやぁ、教えて貰えるなら」
「いいだろう」
馬鹿め、などと一蹴されると思ったがそんなことはなかった。
まぁ、私も自分の魔法を人に説明したくなるタイプだから分からなくも無い。
結局、凄い魔法とか作っても自分しか知らないというのは、こうなんていうか寂しいのだ。
「元々は魔王に使うつもりだった。だが、どうせあのままでは死ぬから最善策として使わせて貰った。まぁ、結局私も死ぬ自爆魔法みたいなものだ」
「えっ、馬鹿なの?死ぬの?」
まさか、こんな所で正しい使い方が出来ると思わなかった。
相手も言われたくないことを言われたのか気不味そうな、居た堪れ無そうな顔をしている。
「私自身、成功するとは思ってなかった。なにせ、初めて使ったからな。使ったら最後死ぬわけだから練習など出来ないのだけどな」
「あっ、分かった!コイツ馬鹿だ!」
「否定はしない」
認めちゃったよ、と思わず言葉が漏れる。
でも、本当になんだこの道連れ専用の嫌な魔法はって感じである。
心中魔法ですか、ってツッコミ待ちだろうか。
「これは魔王や貴様ら神のように概念に囚われた者を殺す、形而上の生物を殺す魔法だ」
「形而上って存在しないというか、形がないって意味なのに、何言ってるんだ?」
「神などという存在は実在しているが実在していない二項対立な存在だ。そもそも言葉で表現できるような物では無い、感覚的な存在だ。そこに有りそこに無い物だ」
「お、おう」
哲学的な話なのだろうか、その辺のことは私は分からない。
そんな深く考えてないよ、もっとアバウトに解釈してるわ。
頭良すぎてこじらせてる感じだろうか。
「ここは世界と遮断し、認識によって観測する異空間だ。存在を肯定するのは自身で有り、自身以外はあり得ない」
「ふむふむ」
「神のあり方からして、信者のいな状況を擬似的に作り出せば消えるのだが自我の強い者もいる。これはそんな奴らが遂には自身の存在を疑い抹消させる、そんな場所だ」
「なるほど、よくわからん」
ようするに私が私は存在しないって思ったらアウトってことなのか?
首を傾げ、頭を抱えながら唸る私を見て奴は一言、言葉を口にする。
「貴様、実は馬鹿なのか?」
「おま、それを言ったら戦争だ!」
「怒ると言うことは図星か」
自爆魔法なんて作った馬鹿に、馬鹿認定されるという腹立たしい状況が出来上がっていた。
まったく、風評被害って奴だよ!名誉毀損だ、冤罪事件なんだよ!
「この空間は徐々に認識を失わせていく。自分を自分と徐々に認識出来なくなるようになっている。自分が世界の一部では無いといつしか認識することだろう、その瞬間が貴様の死だ」
「なん……だと……」
「貴様が喋っている私という存在は、実在しているのか?貴様が聴いている音は、見ている光景は存在するとどう証明する?全ては貴様の主観、貴様の認識だけではないのか?貴様と同じ物を認識する者がいないなら、それが存在しているどうやって証明する?」
「う~ん、なんか哲学的な事を言ってるみたいだけど私は存在するだろう」
「世界から貴様が認識されなくなっているのにか?世界から切り離されたお前は異物だ。自分の居た世界は、貴様を認識出来なくなっている。お前を肯定する存在は誰一人としていない」
恐らく、こうやって喋って精神的に追い詰める感じでなんやかんやする作戦とかなんだと思う。
というか、今までの説明も与えられてる情報であって正しいかどうかは不明だ。
奴の思い通りになったら、マジで死ぬんだと思う。
だからこそ、私は大丈夫な訳だ。
「良いことを教えてやる。私、実は転生してるんだ」
「はぁ?」
「元から私は世界の異物だから、いまさら何って感じなんだ。っていうか、元々この世界は私のいた世界じゃ無いし、というか実在するかも怪しいよね」
「どういうことだ……何故消えない」
「お前は元からこの世界が存在している本気で思っているのか?こんなに私に都合良く、勝手気ままに出来ている世界が現実だと本気で思っているのか?教えてやるよ、私の夢だぜ。こんな世界」
昔から思っていた。
なんか違和感を感じるというか、現実味のない世界ではあると思っていた。
現実だとか、転生したんだとか思ってたけど何度か実は夢じゃ無いだろうかと疑ったことはある。
今も現実の世界なのか私の夢なのか、自分の中で言い切れない。
そもそも、都合が良すぎるのだ。
「お前は色々言ってたけどさ、自分はどうなんだ?」
「私だと?」
「お前が見ている世界は本物か?お前が消えたとして、世界は存在し続けるか?」
「そんなことは……」
「断定できないよな。だって、お前が居なくなったら確かめないんだもん」
私の言葉に奴は硬直して、何やら否定する材料を探しているようだった。
でも、無意味だと思う。
「私はこの世界に転生したと思ってるし、この世界が実は中年のロリコンこじらせたオッサンの夢だとも思っている。胡蝶の夢だっけ、よくある例えのアレね。でも、どっちでもいいのよ好き勝手に出来ればさ。実在してようがいまいが、面倒なことはポイだよ。でも一つだけ確かなことがある」
「それは……何なんだ?」
「お前らが私を認識してなくてもどうでもいい、だって実在していない存在かもしれないんだぜ。ここは私の夢の世界だ。私が望むことが起きる。だから、私がいると思っているんだから私はいるんだ。私が居なくなったら世界は終わるんだよ!ここが現実だっていうなら、現実だと思わせてみろよ!」
そんな証明できないことで頭を悩ませるなど馬鹿のすることだ。
つまりコイツは馬鹿だ、分かってはいたけど馬鹿である。
こんな場所だって、私が出ようと思えば出ることは出来るのだ。
「なっ、あり得ない!何故、魔法が解除されようとしている。コイツ、本気で出来ると思っているのか!」
「魔法は出来ると思ったら出来るんだよ、出来ないと思うから出来ないんだよ。お前は解除されるかもしれないと少しでも考えたことがあったんだろ、だから解除されるんだ」
「あり得ない!あり得ないぞ、まさか本当にこの世界は貴様の夢だというのか、なら私は……私は存在していない?あっ……」
それは、余りにも一瞬だった。
まるで気の抜けたように、間抜けな声が聞こえたと思ったら既に奴は消えていたのだ。
奴自身が言ったように自分の存在を疑ってしまったからかもしれない。
理由は分からないが、取りあえずここは思ったことが実現する異空間なんだろうからあってるはずだ。
違うかもしれないけど、でもそういうことだと勝手に解釈しておく。
正直、奴が言ってることまったく意味が分からなかったからね。
「おぉ、なんか割れてる?これ割れてるよな、たぶん?よく分かんねぇけど、あはは」
この後何が起きるか分からず思わず苦笑いをしたが、まぁ悪いようにはならないだろうという確信だけはあった。




