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四天王を魔女は瞬殺する

モンスター達が黒い悪魔の波に飲まれて蹂躙されていると、上空からクレーターを作る勢いで何かが落ちてきた。

周囲が砂埃によって遮られ、クックックッ等とお前キャラ作ってるのとか思える笑い声が聞こえる。

そして、顔に吹きつけるような一陣の風によって砂埃は吹き飛ばされ、その何かの全貌が露わとなった。

それは、翼の生えた二足歩行のワニだった。


「ド、ドラゴン!」


私の感想を余所に、何やらそんな言葉が聞こえた。

確かに、言われてみればとそんな風には見える。

少し人に近すぎて、ぐわぁぁぁぁとか良いながら倒されそうな風貌だけどな。


「よもや、四天王の一人をあのような方法で防がれるとは思わなんだ。だがあの男……死ぬぞ?」

「ちょっと何を言ってるか分からないです」

「貴様、舐めてるのか?」


ワニが震えながら睨んできていた。

やめろよ、凄んでるだろうけど顔が顔だから怒ってるのか怒ってないのか分からないんだよ。

ワニなんてデフォルトで凶暴そうな顔なんだからな。


「いい気になるなよ人間、奴は四天王の中でも尤も格下だ」

「いい気になるなよ、奴は勇者パーティーの中でも最弱だ」

「貴様ぁ!ぶっ殺してやる!」


煽り耐性がないのか、翼の生えたワニが叫びながら走り出した。

バッサァ、と背中の翼を動かして低空飛行しながらだ。

多分、アイツわざと砂埃立ててカッコイイ登場シーンを自演でやってた感じだわ。

あの風は翼で起こしたってわかんだね。


「クハハハ、俺は魔王軍の中でも身体能力はトップクラス!パワーさえあれば、小細工など必要ないのだ!」

「みんな、後ろに!」


向かってくるワニ、その前に我らが勇者が立ちはだかる。

主人公らしい動きであるが、正直無意味である。


「喰らいなさい!」

「魔法か!だが、そんな小細工はこの肉体の前にはッ!?」


アマーリアが腕を振るうと同時に、魔法陣が展開される。

三つほどの魔法陣が横並びに空中投影され、そこから再び黒い虫の大群が溢れ出る。

それはもう、放水するように勢いよくだ。

そして、虫たちはそのまま唸りながら勇者の脇を通り過ぎ、自称四天王のワニの身体に張り付いていく。


「くっ!邪魔だぁぁぁ!」

「うわぁ」


身体を捻って、一生懸命身体から剥がそうと奮闘するも迫り来る物量の前には何も意味がない。

一匹二匹剥がしたところで、その数倍の量が張り付いてくるからだ。


「おのれ!おのれ!おのれぇぇぇぇ!」

「いや、そこはぐわぁぁぁぁってやられて欲しかった」


縋るように、私達に手を伸ばす奴の最後は生きたまま虫に補食されるという光景であった。

物量の前には脳筋も勝てなかったよぉ。


「長く苦しい戦いだった」

「こ、こんなのが戦いだって……数秒で終わったんだが」

「相性が悪かったな」


多分、魔法とか使えたら焼き払えたりとか出来たはずである。

奴の敗因はドラゴンなのにブレスとか使う暇すら与えられなかったことだろう。

というか本当にドラゴン?リザードマンとかの間違いじゃ無いだろうか?


「これで四天王とやらも残り二人」

「早すぎて実感湧きませんけど、すごい偉業なはずなんですよね」

「こんな簡単に出来てしまうと、毎年払われていた防衛費とか税金の無駄遣いとか思ったりするわね」


もしかして、裏金にしてたりしませんかねぇ。

そんなゲスな発想をしてしまうくらい弱かった。


「よし、じゃあ行くわよ」


もうヌルゲーな雰囲気が私達の間に流れていた。

仕方ない、この時代の人間からしたらこれでも強敵なのだ。

私は時代の最先端を生きているからね、この程度じゃ強いとか思わないよ。

私に強いと思わせたければもっと、こう、オサレな能力とかつけてないとダメなんですよ。

そりゃ、一昔前は能力とか無くても強い奴はいたよ。

能力はないけど攻撃力の高い、いわゆるバニラって呼ばれる奴らが強いって風潮があったよ。

でも時代が進むにつれて、能力がある奴すごくねって風潮が出来たわけで能力があるのがデフォルトである。

つまり、なんか一芸のない奴とか弱いってことだ。


「これはもう楽勝だな」

「なんか勝手な持論で勝った気でいますけど、今までの経験からそれダメなパターンですからね」

「フラグ、建ってたかしら?それは困る」


つまり、次に出てくる魔王軍の奴はオサレな敵ってことですか?

まぁ、出会ってみるまで分からないので私達は進むことにした。

目的地は崩落した魔王城、障害となるモンスターは作業ゲーとかした虫による捕食によって排除される。

やって来ては接敵次第喰われるんだから、もう此方としてはなんでお前らそんなに突っ込んでくるのと思わずにはいられない。

そう、何て言うか自分達では考えないでプログラムされた通りに動くロボットみたいな、そんな感じである。


「来たか」

「ッ!?止まって、確かに声が聞こえた!」


勇者の言葉にみんなが動きを止める。

確かに声が聞こえたので、周囲を見渡すためだ。

まわりには岩場しか無く、人の姿は見当たらない。

人というかモンスターすら見当たらない。

いままで、あんなに突っ込んできたのにおかしい光景である。


「これで見えるかな?」

「そこか!」


空間が捻れるというおかしな表現をせざるを得ない光景が広がり、そして人影が岩場に現れる。

陰気な男が、フードを被り杖を持った男が岩に腰掛けた状態で現れた。

その、悪の魔法使いのような男はもしかしたら四天王って役職だったりするかもしれなかった。

っていうか、私が見破れないとか凄いな。


「まったく、面倒な手合いに狙われるとは……自己紹介は必要か?」

「お前も四天王なのか?」

「然様、あのアホな男がネタで作った役職に所属しているという意味なら私は四天王が一人、魔術王タルトスだ」

「魔術王とかなにそれ凄い」


私が絶対の信頼を置いている魔法を極めたって事だろうか、うわぁ強敵の予感しかしない。

これは流石の私でも勝てないかもしれない。


「魔法使いか」

「勇者よ、お前では私と相性が悪い。そして、そこの勇者に恋慕している女もだ。貴様ら程度、私の魔法の前では些か分が悪すぎるだろう」


男はそう言って、手を掲げまるで手に持った何かを零れ落とすような動作をした。

すると、男の手から何かが落ちてそれがブクブクと不格好に膨らんだ。

それは、増殖する肉片だった。

肉が、爆発するように増加して何かの形を作っていく。

分裂し、増加し、形を形成し、そしてそれはゴブリンになり、数秒で群れとなった。


「モンスターが!?」

「元々、私が産みだした魔法生物だ。全てのモンスターを生み出した、という点で言うなら私は神の一種かもしれんな。まぁ、私だけが出来ることでは無いがな」

「なるほど、分が悪いと言われる理由も分かりますわ。物量という点で、私は敵いそうにありません」


アマーリアが悔しそうにそう言った。

それもそのはず、アマーリアは召喚している、つまりは余所から持ってきているのだ。

それに対し、相手は生み出している。

条件は分からないが長期戦になったとき、アマーリアは有限なのに対して相手は無限に出してくるかもしれない。

長期戦となったら、勝ち目はないだろう。

あと勇者はさっきの脳筋と一緒でたぶん物量に押されて死ぬ。


「私と渡り合えるとしたら、そこの女程度であろう。しかし油断はせぬ、全力で行くぞ」

「ちょ、そういうのヤバそうだから遠慮します!」


流石に私もヤバいと思うので、全力で魔法を行使する。

特殊な結界を作成し、そこに魔力をドンドン圧縮していく。

単純に考えて、魔力という謎エネルギーが凝縮、そして飽和状態となっていくわけで、結界内はすごい威力の爆弾みたいな物だ。

これを当てればだいたいどうにかなる、というかならないと可笑しい、尋常じゃ無い魔力を込めてるわけだからだ。

だって、これってシンプルだけど私の中で一番威力のある攻撃だよ。


「喰らえ!」

「魔封陣!隔離封時結界!」


私の腕から放たれた極光は、まるでレーザーのように奴に向かい貫くかに思われた。

だが、それは読まれていたのか黒い渦が奴の目の前に現れ飲み込まれる。

それが直感的に、魔法を吸収しているのだと見て取れた。

爆発的に奴の体内から魔力が漏れ出しているのを感じ取れ、奪われていると感じたからだ。

そして、動き出そうとする私の周囲の時間が動きを鈍くしていく。

既に私は奴の攻撃を受けていたようだった。

恐らく、結界内の時間を引き延ばすように操作するような物だと思われる。

時間に囚われないようにすることは容易いが、それを行うまでの時間を引き延ばされたら結局は私の体感は一瞬でも奴にとっては十分な時間なのだろう。


「来たれ、終末の獣よ!審判の時、その存在を我は否定する!罪火は天を濡らし、天泣は地を燃やす!久遠を刹那に、実を虚に、流転せよ!発動せよ、イラーフフェアゲッセン!」


どうにか魔法を解除して、普通に動けるようになった私はそんな言葉を耳にして意識を失った。

あっ、なんか詠唱っぽいし魔法喰らった臭い。

そんなことを最後に思うのだった。

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