出掛けて魔女は盗賊に会う
アマーリア達を前線に送るためには、前線に一度行く必要があった。
いきなり、やろうとしていたことが頓挫する。
仕方ないので道中で信者を増やしていきながら、前線に行くことにした。
「という訳で、行くわよ!」
「あの、どういう訳なのでしょうか?」
「もう勇者も強くなったから、魔王ぶっ殺しゃぁぁぁ、ってことよ」
「まるで意味が分かりませんけど……それに、勇者様にそんな危ない事させられません」
ちょ、ちょっと過保護過ぎませんかね?
傭兵みたいな者なのに、仕事させないとかアホかと。
というか、召喚する前までそんなんじゃなかったのに急にどうなってんだか、ニコポとかナデポとか一昔に流行ったチャーム的なのが標準装備なんですかね?自害しろ、勇者。胸に槍を突き立てて自害しろ。
「俺は姉ちゃんに賛成だ。こんなことは、誰にでも出来る。栄えある勇者様がやるような仕事だとは思えねぇな」
「あぁ?」
「おー、怖い怖い」
椅子の上に座って剣の手入れをしていたカーマインが横から口出してくる。
アマーリアの横ではその言葉を受けて、表情を変える勇者の姿があった。
すぐさま、その様子を察したアマーリアが何か言い出そうとするが、その前に勇者が口を開いた。
「待ってくれアマーリア、彼の言うとおりだと思わないかい?」
「そんなことはありません。戦士達は戦うのが仕事、勇者様は民を救うことが仕事、前線などにいくことなどしなくても人は救えます」
「確かに無駄ではないと思うよ。だが、それは対症療法だ。原因を取り除かない限り、人々の悲劇の連鎖は終わらない。残念な事にね」
「勇者様……」
く、クセー!ゲロ以下の匂いがプンプンするぜ!何だコイツ、ナルシストかよ気持ち悪い。
アマーリアもなんでうっとりしてんだよ、自分にスイーツ過ぎるだろ。
真顔で悲しみの連鎖を止めるんだ!とか、憎しみは何も生まない!とか言っちゃうタイプだぜ、コイツ。
「ケッ、反吐が出るぜ。そんな娼婦に聞かせる寝物語、余所でやってくれ」
「カーマイン、アマーリアに失礼よ」
「フンッ、まぁいいさ。奴等も食わせてるだけじゃ鈍っちまう。骨のある奴と戦えるなら魔王の膝元まで願ったり叶ったりだ」
勇者が意外と乗り気なので、アマーリアは反対したが前線に向かう事となった。
最後まで反対するアマーリアも教会の正式な辞令によって渋々従うことになったしね。
まぁ、裏で私がやったことなんですが分からなければ問題ない。
子供の落書きかよと言わんばかりの、形や距離が全然違う複数の地図を見比べて目的地までの計画をする。
魔法があるのに、地図がめちゃくちゃとか時代錯誤な気もするけど変な発展具合である。
GPSみたいに出来るのに、敢えてしないということもあるのかもしれない。
「日程としては半年は掛かるな。途中の村や町で食料を分けて貰うことになるだろうが、そんな余裕があるかどうか」
「えっ、普通に買えばいいじゃん」
「本気で言ってんのかよ姉ちゃん。国が荒れて、此間まで戦争してたんだぜ。喰いもんがある訳ないだろ」
そうかな、私とかヘルマンとか少なくとも勝ち馬に乗っている教会の奴等は吐くほど飲んだり食ったりしてるけどなぁ。
まさか、これが俗に言う政治腐敗って奴なのか。
私も知らず知らずに汚職に手を染めていたみたいな、いや神だからお供えされてたのを食べただけです。
全部信者達がやったから私は悪くない、そういうことにしておこう。
「地方から奪って、それを配給する。結局は意味のないことさ」
「おい、最近の君はなんだ。いつも突っ掛かってきて文句があるなら言えばいいだろ!」
「ねぇよ……俺に言う資格なんてないからな」
「……あぁ、なんだ只の中二病か。いきなり何を言うのかと思っちゃったわ」
やだ、弟の中二病が痛すぎてお姉ちゃん胸を掻き毟りたい衝動に駆られちゃう。
誰も俺を理解してくれないぜ、みたいな一匹狼的な設定ですかね?黒歴史じゃないだろうか。
国家とか批判してる俺、かっけぇぇぇみたいなのあるよね。そっとしておこう。
パッと日帰りで出来ないものかなと思ってたんだけど、旅って言うのは結構大変らしい。
よくよく考えたら、魔法を使わないで出掛けるとか何年ぶりだろうか。
嫌な思い出しかないけど、盗賊に襲われた思い出しかねぇよ。
準備された馬車に乗り込み、移動する。
私やアマーリアがいる馬車の前後に食料や水を詰め込んだ荷馬車を配置し、荷馬車の前後に奴隷の乗る馬車を用意する。
奴隷は馬車で休みながら交代で周囲を歩き、護衛する形だ。
もっとスピード出ると思ったんだが馬の癖して牛並みに遅い。
あと、なんかフンを出しながら歩くんだけど汚いな馬。
「ねぇ、まだ?」
「おいおい姉ちゃん、まだ半日も過ぎてないんだぜ」
「お尻痛い、つまんない、本とか読み終わった、熱い臭い、っていうか何もない」
見渡す限りの森、馬車の近くにはフンを垂れ流す馬と護衛の獣人ども。
なんだよ、犬耳と尻尾があっても男じゃ癒しにならねぇんだよ。
「っていうか、アンタさ。私の奴隷扱使うってどうなの?金返せ」
「いや、そもそも金払ったの?あと、ちゃんと世話しないから愛想つかされたんだろ」
「そんな、ペットを構ってないみたいな理由で!?いや、でも犬だしなコイツら」
どこがいいだ、こんな奴より美少女に傅いた方がいいだろ。
まぁ、自分で美少女って言っちゃう私もヤバいけど一応客観的な評価だよ。
っていうか転生してる奴の美少女とかイケメン率ヤバイよな、私みたいに自己改造とかしてんのかよ。
「魂を美少女レベルに弄ったら肉体も美少女になるってことは、オークの魂を人間に入れたらオークみたいな人間になるのか?」
「おいおい入れ替えるのかよ?嫌だぜ、ある日突然オークになってるのとか……おい、姉ちゃん何で俺の方を見てんだよ」
「試してみない?」
「ダメに決まってんだろ!ホイホイ人体実験するんじゃねぇよ!」
神様って言ったら動物とか植物に変る呪いとか掛けるじゃないか、私もみんなやってるしやりたいんだがダメか。
「後で戻すから、頼むよ」
「ダメ、絶対ダメだ」
「こんだけ頼んでるのに、お前人間のクズだな!何で生きてんだよ、死ねよ!」
「理不尽過ぎるだろ!そういうのは、悪人に……」
カーマインが急に黙って前を向く。
すると、同時に馬車が止まった。
一体、何事かと思ったらルミーナが耳元に顔を寄せて来た。
「セレス様、どうやら盗賊です。タイミングいいですね」
「うっ、ちょっと耳元で囁くのやめない?くすぐったい」
「知ってます、わざとです」
わざとかよ、本当に舐めてやがるな従者の癖して。
それにしても、何なのだろうか?私が出掛けるたびに盗賊に出くわしてないだろうか。
最近、流行ってるのかよ盗賊。異世界って盗賊にエンカウントし過ぎる件について、びっくりだよ。
「出会い過ぎでしょ、マジで」
「盗賊になるしかないなんて世も末だな、それを取り締まらない領主の怠慢も最悪だ。お前ら、殺さず捕らえろ、無理なら殺しても構わないがな」
「へへっ、大将。騎士崩れでもない盗賊なんざ、目を瞑ってても捕まえられますよ。獣人を嘗めないで下さいよ」
護衛の獣人たちが毛を逆立ててカーマインにそう言った。
顔は怖いのだが、尻尾が切れそうなくらいに振られていて嬉しそうだ。
なんだろう、飼い主が帰ってきたときみたいな反応だな。
でもって、カーマインお前自分のこと大将って呼ばせてんのかよ。




