押し入って魔女は開放する
制止する声がする、それは神殿内を闊歩する私に対しての声だ。
神殿の者達が急ぎ集まり、これ以上進めないように抵抗していたのだ。
「お待ち下さい、これ以上の狼藉困ります」
「喚くな。引き籠って居たいところ足を運んだのだぞ。どうして指図を受けねばならぬ」
「止まらぬ、何故止まらぬのだ!?」
私から一定距離になると神殿の者達は張られた魔法により押し出される。
見えない壁が私に近付く者を阻んでいるのだ。
それにしても、何がしたいのだろうか。
神殿を管理する偉い人間は何時になったら迎えに……
「何をしておる!例え地位のある者でも神殿の中では我らが上ぞ!早く引っ捕らえよ!」
「迎えに来ないと思えば、ふんぞり返って指揮なんぞ取っているなんて……全く、なんて無能なのかしら」
本当に、どうして毎回このやり取りをしているのか。
情報伝達が未熟とは言え、おかしいだろう。
まるで、一部しか周知されてないような……いや、そういうことか。
私は自前で魔力を生成出来る人の身でありながら、信仰を元に力を得ることの出来る神でもある。
そんな私がそれなりに知名度を持ってしまうと面白くない者達がいるのが原因なのだろう。
つまり、神殿に奉られている神達が困ってしまうのだ。
例えば私がある神と同じくらいの知名度となり信仰を得たとしよう。
そうなると、私の方が自分で作れる魔力の分だけ神より強くなるわけだ。
今の状態は自分の力を追い越されたくない神達による妨害と言えよう。
「新入りの神が神話に組み込まれるのはよくある話だろうに」
信者の奪い合いってところだろうか。
そういうのが想定されるってことは、面倒な派閥争いがあるってことだ。
嫌だね、貴族だろうが神だろうが派閥争いだなんてどこも一緒って訳だ。
うんざりしながら、騒がしい神殿の者達を排除するべく魔法を放つ。
扇子をパチンと綴じりながら、音を使って伝達して脳に直接作用させるような魔法だ。
一見、音を鳴らしただけに思えるがその音を聴いた瞬間に急激な眠気が襲ってくることだろう。
案の定、一斉に神殿の者達が倒れた。
「ぐっ、いきなり何してんだよ……」
「うん?どうかしたのか、カーマイン」
「俺の状態を見て、その程度の反応かよ」
後ろで苦悶を漏らす声が聞こえたのでカーマインの方に振り返る。
見れば、自分の太ももに剣を突き立てて苦しんでいるカーマインがいた。
因みにルミーナは寝ながら立っている。
何してんだお前?……あっ、対象を選んでいなかったから、神殿にいた者達だけでなくお前達も魔法を喰らっていたのか。
「そんな少年漫画によくある方法で私の魔法を防いだのか。私的にポイント高いぞ」
「なんだそれ」
「せっかくだからポイント還元してやろう、ほれ」
ルミーナを起こす次いでに治療してやることにした。
寝たまま立っているルミーナの頭に扇を振りかぶってぶつけ、次に剣を抜いて息を吹き掛けてやった。
何が起きたと静止したまま立つルミーナと、吹きかけられた箇所から傷が再生するカーマイン。
さて、これでポイント還元は終了である。
「あら?」
ふと、懐かしい魔力の波動を感じた。
言葉にはできないが何故か確信を持って言える変な感覚だ。
この感覚に覚えがある、これはアマーリアの気配みたいな物じゃないか?
倒れている神殿の者達から視線を奥に向け、大理石の階段を越えた先にある扉に視線を移す。
見えないけどいる、そう確信を持った瞬間にはそれは終わっていた。
瞬きする間に、頭に鳥を載せたアマーリアと騎士のような男がいたのだ。
アマーリアは魔女というよりは、ヒーラーというか神殿の人間に思えるような白を基調とした格好であった。
うわぁ、ロングスカートなのになんかエロい。
足元には魔法陣があり、魔法で移動したというのが窺える。
形からして召喚、転移でなく召喚の魔法陣で移動したのだろう。
でも誰かが呼び出さないといけない召喚でどうやって自分自身を召喚させたのか……ホラーだな。
「まぁまぁ、お久しぶりではございませんかセレス様!」
「あぁ、やはりアマーリアか。神殿の魔法使いにでも鞍替えしたのかしら?」
「あれ、いつもと違いません?外行き仕様ですか?あっ、神様デビュー的な!」
おう、確かに猫被ってたり尊大キャラ作ってたけど、そんな高校デビューみたいなノリで受け止められるとか予想外だったわ。
驚く私を余所にアマーリアは隣の恐らく勇者であろう男のことを話す。
一回会っているはずだが、覚えてないなぁ。
「此方が勇者様ですよ。どうですかカッコいいでしょ、成長してますよ」
「おう、そうだな」
「お久しぶりです。魔女セレスティーナ」
「ごめん、会話した記憶も無いから覚えてないわ」
正直な話、召喚した後はアマーリアが担当していたのでこれと言って記憶がない。
まぁ、事実を言ったのだがお気に召さなかったのか顔が引きつっていた。
おいおい、分かりやすいな。そんなんじゃ貴族と交渉なんてできないぞ。
「一応紹介しておくけど、メイドのルミーナと弟のカーマインよ」
「人が倒れてる場所で挨拶とか、かなりクレイジーだな」
「いつもどおりですよ、カーマイン様」
よし挨拶は終わり、勇者のパーティーに加わったってことで良いだろ。
さて、そろそろアマーリアに乗っている鳥について聞こうじゃないか。
「その清澄なる空気、さぞ名のある神でございましょう。失礼ながら、名をお聞きしてもよろしいか」
「クルッポー!」
私が畏まった言葉で話しかけると、鳥は翼を広げて荒ぶる鷹のポーズを取りながら返事をした。
ただ見た目は鳩なので酷く滑稽、それと言葉が理解できません……日本語でお願いします。
「クルッポー、クルクル、クルッポー!」
「なるほど、そうでございましたか」
「まぁまぁ、以前は見えておりませんでしたのに見えるようになりましたのね。そうです、この方がインゴールブル様です」
適当に誤魔化していたら、アマーリアがナイスなアシストをしてくれた。
この人様の頭の上で胸に羽を当ててポーズを取ってる鳥がインゴールブルという神様だと。
クルッポーって言いながら、僕はインゴールブルって言ってたんだろ。
アレでしょ、悪魔を使役するときに名前出ていた神様でしょ。
「コケ!クァー、クルッポー!」
「アマーリア、なんて言ってるの?」
「俺はたくさんの鳥の声を出せるんだぜ、惚れるなよって言ってます」
「うそやろ」
「まぁ、ニュアンスなので違うかもです」
鳥は頭を激しく左右に振っていた。
アマーリアさん、見えてないと思うけど違うみたいですよ。
まぁ、実際ニワトリとかカラスの鳴き声を出してたので間違いではないだろう。
「まぁ、こんな鳥のことは置いといて今後のことを話しましょう。そうだ、いい茶葉がありますのよ」
「ピヨォ……」
「頭の上で鬱陶しいですね」
私も話が進まないなぁとか、私以外見えてないのか首を傾げられてるなと思ったらアマーリアがバッサリと言葉の剣で鳥をズタズタにした。
一応神なのに鳥扱いである、まぁ鳥だしな。
そのせいで落ち込んでOTLな状態になった鳥を、引っつかんで床に叩きつける姿を見ると不敬を通り越してるなと感じる。
アレだな、たぶん神様といい信頼関係を築けてるってことだ、そういうことにしておこう。
鳥というか神であるインゴールブルは弱弱しく、アマーリアの方に手を伸ばしながら鳴いた。
「あぁ、もっと頼む……アマリアたん!」
「喋れるのかよ!つうかドMかよ、気持ち悪っ!」
「おぉ……これはこれで……」




