釈放して魔女は連れ出す
勇者のパーティーに加わる事となった。
あぁ、まさかあの時に見た夢が現実になろうとは誰も思うまい。
今の季節って夏だよ、超暑いのに馬鹿じゃねぇの。
勇者パーティーが今まで何をしていたのか、一応資料として貰って見ると無双ゲーして魔王に挑み負けたらしい。
そして勇者と魔女アマーリア以外全滅、今は勇者の力を強化するべく奉仕活動に従事しているそうだ。
奉仕活動すると強化されるってどういうことだ?
まぁ、恐らく仲間達を囮に二人だけで逃げたんだろうなと思う。
心苦しいですが、仲間達の思いを無駄にしないでください勇者様。
クソ、また守れなかった……みたいなドラマがあったかもしれない、全部脚本はアマーリアが書いてるんだけどね。
それで、掌コロコロされてる勇者様の所に賢者とメイドが加わるってことか。
神って事は内緒ですので、賢者セレスティーナというキャラで行くことが確定した。
「はぁ、嫌だわ……雑用も連れて行きましょう」
「ヘルマン様とか呼ぶんですか?」
「私にいい考えがあるわ」
自室でそんなことをルミーナに口走った私は、ある場所にやってきていた。
それは亜人などの犯罪者を収容している場所、まぁ冤罪が多い場所なんだけどね。
そこの地下、最下層、魔法により死ぬことを許されず永遠と拷問を受ける重犯罪者の巣窟。
そこに私はやってきていた。
「此方へ」
カツンカツンと足音が良く響く薄暗い螺旋階段、静寂に包まれたそこでは音が際立って聞こえる。
案内をする者は腰の曲がった老人、ランタンを片手に先導していく。
その後ろを汚いなぁと思いながら、私は続いていく。
やってきた場所は重そうな鉄の扉、そこに先導していた老人が鍵を使って開錠する。
何かが噛み合う音が連続的に鳴ると、扉は一人でに動き開かれる。
扉の置くには石壁の部屋があった。
様々な拷問器具と鎖に吊るされた男、咽返るような糞尿と血の悪臭、正直セレス耐えられない。
「綺麗にしといて頂きたいわ」
人差し指を部屋に向けると、指先から光が飛んで床に着弾する。
弾けた光は部屋に広がり、一瞬で血も経年劣化の汚れも臭いも消し去る。
不浄だと思われる存在を抹消し、まるで作りたての新品のような部屋になった。
その光景に背後では息を呑む様子が伺える。
さて……
「久しぶりね、愚弟」
「…………」
私の声に吊るされていた鎖が動く音がした。
そして、襤褸切れのような姿の弟カーマインが私を一瞥していた。
おっ、お前弟の癖にシカトとか生意気だな。
ちょっと、拷問器具らしき鞭を手に取り思いっきりぶつけてみた。
パシン、と良い音がするのだが反応が無い。
皮膚が裂け、肉が剥き出しになり、結構流血しているんだが痛くないのか?
「ちょっと、反応しなさいよ。フン、まぁいいわ」
えいっと軽く魔法で鎖を引きちぎり、カーマインを開放してやる。
すると、今まで動かなかったカーマインが首を傾げながら私の方を見て一言。
「幻覚じゃなかったのか?」
「幻覚だと思ってたのか」
呆然自失と言った感じで驚愕していた。
仲間を失い、裏切られ、そして幽閉されていたカーマイン。
まさかローグから処刑されてないよと聞くまで死んでたと思っていた、そんな弟を恩赦として外に出してやることにしたのだ。
いや、アルトリウスの言い方だと死んだと思うのは無理も無いはず。社会的に死んだってことだったんだね……
傷だらけでありながら、五体満足で動きに支障はないようなので身支度だけしてやった。
動けなくしてルミーナに体を洗わせたのだが、自分でやると叫んで羞恥を覚える姿は中々面白かった。
その後は、飯を食わせてやったのだがマナーもへったくれもない犬みたいな食い方で汚かった。
今までは自分の内臓とか食わされてて、まともに喰ってなかったんだとヤバイな。
「で、俺も魔王退治に行くのか?」
「嫌なら戻るだけよ」
「いや、あそこは遠慮する」
遠慮するなよ、嫌なら従わなくてもいいんだよ。
断れない状態で断っても良いって聞くの楽しすぎ、カーマインの嫌そうな顔で飯が美味い。
「まさか開放されるとは……良かったぜ契約して無くて」
「契約?」
「おう、もう天使やら悪魔やらがずっと勧誘してくるのな。何度も開放される幻覚とか見せてくるしよ、肉親の姿なんで毎回だから今回も幻覚だと思ってたぜ」
死後の就職先として、天使と悪魔が営業してきたって事だろうか。
ワルキューレとかそんな感じかな?
「まぁ、アンタが死のうが死ななかろうがどうでもいいことは置いといて。ルミーナが私の世話をするのに専念するからアンタ雑用ね」
「ヘイヘイ、分かったよ」
「じゃあ、奴隷買うから着いて来なさい」
旅ということで奴隷を買うことにした。
今は亜人奴隷でも高くなったが仕方ない経費で買おう。
人間の奴隷なんて解放するから高くなるんだが偉い人はそれが分かってない。
自分の為に税金を使うけど問題ない、不適切であるが違法ではないのだ。
「なんで奴隷を買うんだ?」
「魔力の温存をしたいから、神輿でも担がせようと思って……あぁ、私が担がれるって事ね」
「うわぁ」
町を行く道すがら、聞いてきたから答えてやったのに変な顔された。
いや、結構合理的な理由だと思うんだが、場所とか無理だし移動に魔法使ってたら戦えないじゃん。
まぁ、たくさん魔力はあるけど無駄遣いしない方針なんだよ。
奴隷を仕入れて、諸々の旅支度をしたらなぜか荷車三台分にもなってしまった。
まるで商隊みたいだが、アレだよ女は色々と荷物が多いんだよ。
亜人奴隷は忠誠心が強い犬形が多く、狼が二足歩行で歩いているケモナーにモテそうな奴等だ。
女の子は人型なのに、男はオスというか獣度が高いのが不思議である。
まぁ、人力車と言った感じで荷車を引かせて私達は座って勇者達の下に向かった。
あぁ、カーマインは何故か徒歩だけど男の考えることは分からん。
「ここが勇者のいる場所ね」
神殿の前で私は仁王立ちでそう言った。
後ろからルミーナが、あっていますお嬢様と言ってるので場所は間違いじゃないみたいだ。
因みに今の私は魔女だぜって格好ではなく、ドレスである。
熱いから露出の多い状態がいいので、装備を変身させたのだ。
見た目は白いドレスだが銀のローブだったので貫通しない効果を持っている。
あらゆる呪いを跳ね除ける帽子は髪飾りに、重さを奪うスカートは肌着に、手元に帰ってくる無くさない杖は暑いので扇子である。
「さぁ、行くわよ。付いてきなさい愚弟」
「あぁ、貴族って感じで猫被ってんなぁ、相変わらず」
「無駄口を叩くな。迎えも寄越さないクズの下に行くと言ってるだろ」
ルミーナを引き連れて、神殿に入ろうとすると入り口にいた兵士らしきものが前に出てくる。
なんだろうか、迎えが遅れているという連絡だろうか?
「神殿に何用か?」
「例え貴族でも許可なく入ることはできないぞ」
その言葉に大きく目を開いて驚いてしまう。
おっと、淑女としてあるまじき醜態だ。
しかし、神様だよ?なんで、下っ端は私の顔を知らない訳?
「退け、私の面貌を知らぬ故に非礼は許してやる」
「なっ、貴様!」
「貴様?フン、私は退けと言ったのだ。言葉も理解できないか」
扇子を軽く払うように動かす。
それに連動し魔法は発動した。
道を開けるように、左右に邪魔をしていた兵士が吹き飛んだ。
「おいおい、姉ちゃんやりすぎだろ」
「あの程度で死にはせん。そんな軟弱な兵など死ねばいい」
「セレス様、時間が迫っています。急ぎましょう」
カーマインが心配するのを余所に、私は神殿の中へと進むのだった。




