移動して魔女は再会する
教会、その勢力が保有する神殿。
そこは教会認定された清く正しい神の奇跡により出来ている。
簡単にいうと、イメージ的にいい奴だけ奇跡ってことで作った魔法建造物だ。
魔法使いが作る工房とか拠点と対して変わらないが、いや魔法じゃないから奇跡で作ったからという強硬的な反論の元に作られている。
これは魔法じゃなくて奇跡の賜物、いいね。
ってことである。
さて、そんな場所は随分と華美で綺麗な建物だ。
白い白亜の壁と床、色の付いたガラスに神の彫像、調度品のように飾られる豪華な見た目の聖遺物。
まぁ、信者が金を寄越すんだからこうなるのも仕方ないよね。
改築、増築、新築まで一瞬で出来る物だからその規模は凄いことになっている。
何が凄いって、建物ごと町の中心に移してしまい城のように巨大にすることも出来ちゃうからだ。
一晩で区画整備が行なわれ、一晩で中心に城のように聳え立つ巨大な神殿があるんだ。
まぁ、奇跡って言われたら信じてしまうかもしれないよね。
「いやぁ、凄いね。天井に絵画あるよ」
「これ、絶対最近作ったろ?様式的に新しいのに聖遺物って捏造じゃろ」
キョロキョロとお爺様とローグは神殿内を見渡しては感嘆の声を上げる。
私はそんな様子を見ながら、拾った少女を抱っこして宙に浮いていた。
神殿内を行き来する神官のような者達は私達を見ると、すぐさま目を逸らした。
逸らして、忌々しい表情で小走りに去っていく。
さては、私を嫌いな神様系の信奉者だろう。
神殿でもあり、王城でもあるようになったここは階級によって出入りが制限される。
一番下は誰でも入れるが、二階からは貴族の関係者と聖職者、三階からは高位の貴族と聖職者、と他にも上に上がるに連れて条件が課せられる。
まぁ、私は神なので最上級の階級なので関係ない。
「セレスか戻っ……た?」
「あら、どうしたの固まって」
「いや、何でもない、いや無くもない」
階層を上がると、廊下でバッタリ長男のアルトリウスに出会った。
アルトリウスは頭を抱えて、何だか複雑な顔をしている。
具体的に本を買ったら同じ本を持っていた時に、しまった忘れていたと思い出したような顔だ。
その理由は、即座に理解した。
というのも、視線がお爺様に向いていたからだ。
「あれ、言って無かった?」
「あぁ、いや、だがこれは気付ける物だったから私の落ち度だろう」
「馬鹿ね」
「あ、あぁ、事実なんだが肯定されるのもなぁ」
何だか苦虫を潰したような顔をされたが、それでも少しだけ笑みが垣間見えた。
意外と喜んでる?まぁ、どうでもいいんだけどね。
「少し、お爺様を借りてもいいだろうか」
「おいおい、物みたいに――」
「いらないからあげるわ」
「セレス!?いらない!?」
うるさいなぁ、と思いながらシッシッと手で払う仕草をする。
目を覆って泣いているが、魂の形に合わせているのでショタでなくヨボヨボの爺が泣いている姿だ。
あんまり可愛くないので、譲渡する。
「あぁ、うん、セレスはセレスだなぁ……」
「何を納得しているのやら、私は行くから」
まぁ、親子水入らず?祖父と孫だけど育ての親みたいな物だし、そんな感じで二人きりにさせてやって上を目指そう。
そして、また新しく階層を上がって行くと今度はデブが手を上げて話し掛けてきやがった。
デブの後ろには女の奴隷と取り巻きの貴族みたいな奴らと神官が数名いる。
なんだろう、偉い人なのだろうか。官僚って奴なのかな、ゾロゾロと邪魔だ。
「おぉ、久しぶりだな。相変わらずお前は美しいな」
「……誰?」
目の前で鷹揚に両手を開いてデブがハグしようとしてくる。
推定Fカップ、首が見えないデップリとした身体、生え際は後ろに後退していて汗が付着している。
あと、臭い。若干襟が濡れているし、歯も黄色くオールバックの金髪は油とフケでギトギトのベトベトである。
なんて醜悪な姿なんだろうか、オークの方が綺麗なことだろう。
当然、私は後ろに飛んで逃げる。私の腕の中にいた少女なんか悲鳴を上げていた。
「おい、そんなに距離を開けるなよ」
「はぁ、そうですね」
「おい、返事をしながら下がるのやめろよ、傷付くだろ」
「ごめんなさい、気持ち悪いです」
私の言葉に胸を押さえて、顔をグシャッと変形させる。
えっ、泣いてるの?それとも顔芸なの?超キモイ。
「俺だよ、ちょっと姿は変わったけど分かるだろ」
「誰?」
「おいおい、それは余りの変貌振りを揶揄しているのか?兄妹の顔を忘れるなよヘルマンだよ」
「揶揄なんてしてないわ、それで誰?」
「してんじゃねーか!」
プルンプルン震えながら怒りを露にするデブ。
うわぁ、汗が飛び散ってなんとも言いがたい。
周囲の人間も距離取ってるし、地団駄とか本当にやめて。
「落ちたもんだなセレス、今じゃ宮廷魔法使いも落ち目だ」
「あぁ、うん、じゃこれで」
「おい、何で先に行こうとしてんだよ!俺は信じないからな、お前の嘘なんか」
嘘?って、あぁなるほど。
つまり、私が神様だよーんって言ってるのを信じてないのか。
いや、まぁ、そんな発言を信じる奴もどうかと思うけど一応神託とかあったんでしょ。
それを信じないって、教会に異を唱えているのか。
「フン、どうやって教皇に取入ったのか知らんが女の色香を使うとは貴族として恥を知れよ」
「あぁ、うん、じゃこれで」
「聞けよ!なんで、そう急ぐんだ貴様ぁー!」
またもや地団駄を踏むヘルマン、おいおい急に太ったなヘルマン。
お前が我が家の次男だとは、いやだわお父様そっくりじゃない、ウチの次男だわ!
しかし、随分といい生活をしているのだろう。そりゃ、今一番の勝ち馬に乗ってるからな。
乗ったら馬の方が潰れそうな体型になるわけだ。
でもって、女を侍らしてお供を連れて教会から神官の護衛付き、意外と優秀なんだろうか?
凄い、部下に裏切られそうな感じなのに教会が護衛してるって事は優秀なんだろうなぁ。
「ごめんなさい」
「お、おう。なんだよ、そうやって素直になればいいんだよ」
「喋らないでくれます、気持ち悪いから」
「貴様ぁー!」
何でこんな生産性のない事をしないといけないのか、もういいでしょ。
と言う事でヘルマンを無視して上を目指すことにした。
一応神様だからね、世俗がどうのこうのでランクは教皇より下の部屋だけど用意はされているんだよ。
なんで神が教皇以下なのか、疑問が湧くけど十分いい部屋だから文句はない。
「転移か!えぇい、貴様の仕出かした事を取り成してやった恩を仇で返しやがって」
「なんのことだか」
「通信魔道具でバレてるんだぞ!城下での騒動はなぁ!乳の一つでも揉ませたらどうなんだ!」
「うわぁ、自分の揉んでろよ」
マジ引くわー、一瞬だけ感謝しようかと思ったら下心丸出しだった。
っていうか、別にそんなことしなくても正当防衛なので問題ない。
死んだのは運が悪かったんだよ、正当防衛だね。
過剰防衛じゃないよ、弱すぎるのが悪いのだ。
「今やアークライト家は俺の物だぞ!アルトリウスやカーマインではなく、このヘルマン様の物だぞ」
「いや、ウチ、オーウェンなので」
「死んだからアークライトじゃ、ボケぇ!」
いやいや、姿が見えないだけで私の夫は生きているのよ。
あれ、でもこれを言ったら痛い女だな。
法律上、死んだ事になっているのか。
「呼んだ?」
「ぎゃぁぁぁぁぁ!?」
「へ、ヘルマン様!」
ヌルっと出てきたローグのせいでヘルマンは卒倒し、なんか現場が有耶無耶になったところで呼び止められる前に私は先を急ぐんだった。
「凄い声だね、オペラ歌手かな」
「声量は凄かったわね……」




