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やられて魔女は本気を出す

そう言った瞬間、奴の右手に違和感を覚えた。

これは転移の前兆、何かを召喚する気かあるいは手元に持ってくる気か。

後者であれば、やはり魔法を無力化して強力な一撃を叩きこむ銃であろう。

警戒する私の目の前に、それは現れた。


「貴様!」

「フフフ、本当はカーマイン殿か裏切られたときにアルトリウス殿に使う予定だったんですけどね」

「どうして、貴様がそれを持っている……卑怯な……」


奴の右手に現れたそれ、それは小さな子供だった。

意識を失った子供を、奴は抱えるように持って首元にナイフを突き付けていた。

あぁ、見間違えるはずがない。あれは……


「うぅ……ここは……」

「お爺様!」

「その声は、セレス?ハッ、何だこの状況!?」


タイミングよく目が覚めたお爺様は目の前にあるナイフを見てギョッとし、そして自分の腹の位置にある腕を見て後ろを振り向きビクッとして固まる。

その様子を奴は見ながらニヤニヤしていた。


「お目覚めですか、アークライト卿」

「貴様、ニコラスバートンか。思い出したぞ、あの時……」

「えぇ、あの時誘拐させて頂きました。この姿では始めてですね」


奴はお爺様を抱えながらナイフをチラつかせて、こちらに見せ付けて来る。

つまり、奴はお爺様を人質に取ったのだ。肉親を人質にするとか、外道かよ。


「よもや、孫娘の足を引っ張るとは不覚じゃ」

「さぁ、コイツの命が惜しかったら抵抗しないで頂こう」

「お爺様を離しなさい!あぁ、お爺様セレスが必ず助けます!」

「セレス!儂に構わず奴を倒せ!」


私の声を聞いて、お爺様からOKサインが出た。

あっ、そうなの?じゃあ、遠慮なくやらせて貰おう。


「分かりました!圧殺せよ!」

「そうか、見捨てるか!」

「えっ、何で攻撃!?」


杖の先から二つの水流が鋭い矛となって迸る。

それは奴の身体を挟むように両端からぶつかりあう。

そして、包みこむように球体となり、一周り小さくなった。

急激な圧縮、それが中の物を圧殺する。

水球は赤く濁り、確かに奴を殺した。

お爺様ありがとう……お爺様は犠牲となったのだ。


「まさか、身内ごとやられるとは、えぇ思いませんでしたよ」

「その声は!?」


水球が弾け飛び、中から奴が現れた。

その姿は、金属の鎧に身を包んだ姿で最初の姿と違う。

髪は濡れ、幽鬼のような恐ろしい姿で私を睨み付けてくる。


「なんで、よくもお爺様を!」

「何を抜け抜けと」

「お爺様の仇!」


濡れているならば、雷が有効と四方八方から雷を押し固めたような大量の矢を囲むように配置する。

そして、一斉に発射する。

しかし、奴に触れる直前にその魔法は撃ち消される。

そうか、あの鎧は反魔力物質!


「無駄ですよ。異世界人の血液から取り出した反魔力物質の鎧です」

「だが、それも飽和攻撃の前には無意味な代物となるはず!」

「えぇ、確かに反魔力物質には吸収限界という物があります。無効化の原理が魔力の吸収だからです。でも、吸収したなら消費すればいい。そう……」


瞬きした、その瞬間に奴が目の前にいた。

速い!?

驚く間もなく、腹部に強烈な痛みが走り吐き気に襲われる。

視界は激しくブレ、奴の姿が離れて行く。

違う、私が殴り飛ばされているのだ。


『エラー、予想外の攻撃を受けました。回復します』

「ぐっ……転移!」


移植した魔眼により、無理矢理にも回復される。

だが、それすら無意味にするかのような奴の追撃が迫ったので私は何とか転移する。

奴の背後、遠く離れた場所に何とか転移した。


「ハァハァ……」

「余り肉体労働は好きではないんですがね。この機動骨格型鎧は吸収した魔力を常時消費して動きをアシストしてくれるんですよ。それこそ、私程度の筋力で人を殴り殺せるくらいにね」


プシュー、と奴の鎧の繋ぎ目から白い蒸気が噴出された。

薄っすらと表面が赤く輝いており、怪しげな雰囲気を纏っていた。

語り癖でもあるのか、反魔力物質については知ることが出来た。


要するに膨大な魔力を持っている勇者は、その体質からして魔力を大量に保持できる訳である。

それは魔力切れを起こしたら大量に魔力を吸収できる器を持っているみたいなことでもある。

多分だが、魔力を枯渇状態にして運用しているのだろう。因子かなんかが血液の中でしか存在できないのは、外に出た瞬間に空気中の魔力を吸収してしまうからだ。

普通の人間が吸収できる魔力の限界値がコップだとしたら、勇者は空のタンクだ。

そして私の魔法は何らかのプロセスを経て変換され、反魔力物質と言うタンクに魔力として収まっていく。

魔法で反魔力物質をどうにかできたのは、そのタンクでも収まりきれない量の魔力を吸収できなくなったからということだ。


「最悪だわ、相性合わなすぎ」

「中々でした。まさか、これを使うとは思ってませんでしたからね。高速で移動すると私自身もダメージを喰らうから、これは使いたくなかったのに」

「あっそ、聞いてないわよそんなこと……」


明らかにオーバーテクノロジー、あんなのSFの世界だろ。

どう見てもパワードスーツじゃないか、サイボーグかよ。

私の魔法は勇者の魔力許容量以上じゃないと吸収される。

そして、私は魔力が減って奴は強化される。

つまり、ゲームで言ったら勇者のMP以上の魔法じゃないとダメージは与えられないと言うことだ。

でもって、MP以下の攻撃をすると敵が強化されると言うクソゲー。


「これだけは使いたくなかったのだけどね」

「何?」

「まだ、私は本気じゃないっての!」


視覚化できるほどの膨大な魔力が私の体から溢れ出る。

それは圧力を伴って周囲を吹き飛ばし、全身が光に包まれるような姿となる。

髪は逆立ち、今までの数倍の魔力が私の中に燻る。


「馬鹿な、さっきまでの魔力量と一致しない……」

「今の私は領地の結界を放棄して、その代わりに通常の魔力量に戻ったのよ」

「そんな、今まで遠隔地の結界を維持しながら戦っていたと言うのか!」


ルミーナ一人で対処できない事態に備えて張っていた結界を解除したのだ。

だから、出来れば速く張りなおしたい。


「だが、だからどうした!驕るなよ魔女、魔力が戻っただけだ!」

「魔法使いにとって魔力が戻ったということは、それだけで選択肢が増える。

理解できないとは嘆かわしいわね!」

「私への皮肉か!死ね!」


奴がブレて消える。

それは、鎧を使った高速移動。

だが、既にそれは知っている。


『敵性行為を確認、捕捉します』


人工魔眼により、今まで使えなかった魔法が発動される。

世界は静寂とモノクロに包まれた。

同時に、奴の姿がハッキリと見えた。

私の方へと飛び出し空中で固まった奴がいた。

そう、時間が止まったのだ。

正確には自身の感覚と身体能力の加速化による時間停止だ。


「あぁ、確かに貴様は私にとって脅威となるだろう。魔法が貴様には効かないからだ。だが、私自身には私の魔法が使えるんだよ」

「…………」

「速すぎて聞き取ることもできないだろう。今の私は貴様の数千倍の速度で動いているからだ。中々、楽しかったよ。だが、最後に勝つのは私だ」


静止した世界で、私は奴に向かって魔法をぶつけ続ける。

発動と同時に吸収されるが、それもすぐさま限界を迎える。

そして鎧が意味を為さなくなり、奴の身体に大量の光の矢が突き刺さった。


「死ね、ニコラスバートン」


私が魔法を解除すると、白黒の世界に色が戻ってくる。

そして、同時に終わりがやって来た。

破裂音と共に、鎧を残してニコラスバートンが消えたのだ。

奴は時間が動き出すと同時に崩壊を起こし、ミンチになったのだった。



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