いつの間にか魔女は婚約する
引き籠りが私の基本状態として認識されるようになった頃の事だった。
どうやらいつの間にか六歳になっていたらしい。
私と言えば、部屋に篭って本を読んでは自分が使えない魔法を習得する為に修行していた。
料理のレパートリーを増やすような物である。レベル上げに近いかもしれない。
何度も吐きそうになってぶっ倒れながら修行している物だから、いつの間にか病弱認定されていた。
寧ろ引き籠る理由になるのでありがたい。
「フフッ、それはライトニングではないサンダーだ」
「姉ちゃん何してるんだよ。庭が焼けてんじゃないか」
魔王ごっこをしていて、窓の外に魔法を放った私を呆れるように見ていたのは三男カーマインだった。
顔を覆って、呆れる姿はさながら問題児を預かる教師のようであった。いや、私は問題児じゃないからその反応はおかしい!
「何してんだよ、庭師の爺さんがまた泣くぞ」
「そう、仕事が増えて良かったじゃない」
「姉ちゃん、相変わらず酷いな」
何言ってるんだよ、私の前世の記憶によれば仕事がしたい人は沢山いるんだ。
したくても出来ない人が就活で苦しんでるんだ。
働けるって素晴らしいじゃないか、寧ろ感謝しようぜ。
また仕事増やして、ありがとうございますってな。
「あっ……いやでも労働基準法とかないし、ブラック企業みたいなもんだけど大丈夫だよな?私、訴えられないよな?」
「何ブツブツ言ってるんだよ」
「何でもない」
そう言われて、自分の思考がナチュラルにこの世界に染まっている事に慄くのをやめた。
でも、平民の扱いなんて社畜と一緒だから私がブラック企業の社長的な思考になるのは仕方ないと思う。
そんな自己弁護する私に対してカーマインは思い出したかのように、話し掛けて来た。
「そう言えば、婚約するんだってな」
「えっ?」
「えっ?」
「誰が?私?」
「だって、親父とお袋が……」
あらやだ、品の無い言葉使いだわ。平民とばかり遊んでるから口調が移るのです。
なんて、嫌味を言っている場合ではなかった。
おーいおいおい、聞いてないよ聞いてない!誰が、いつ、どこで、何するって?
私は魔力で作り出した見えない手でカーマインを掴みあげる。
因みに砂埃でも起こせば見えるようになる、そんな手に捕まったカーマインは動じることなくフリーズする。
手によって空中に浮かんだカーマインを私は揺するように問い質した。
「おい、答えろ!今度はどこのどいつだ!今回のは聞いてないぞ!」
「姉ちゃん慣れてるけど、ビックリするから掴むのやめろよな。それと、たぶん隠されてたんじゃない?」
「なん……だと……」
私の婚約の話が来るたびに断っていたから、遂に実力行使に来たのか。
硬直する私を他所に、カーマインは全身から魔力を放ち拘束から勝手に抜け出していた。
そして、そのまま私の肩に手を置く。
「もう六歳だぜ、諦めようぜ」
「沈め!」
「うおぉぉぉ!これは、しゃれにならない!」
爽やかな笑顔で酷い事を言う弟に、重力を数倍に上げる魔法を掛けて私は窓を勢いよく閉めた。
私は大急ぎで廊下を進んでいた。
重力を操る魔法で宙に浮き、風魔法で背中を押す事でスイスイと移動していく。
途中、メイドや執事が腰を抜かしていたがそれどころではなかった。
私はお爺様の執務室に来ると同時に魔力の塊である見えない腕で、扉を開け放った。
「どういうことですの!」
「敵襲か!?いや、待て!」
「邪魔ですわ!」
扉の前にいた兵士達が剣を向けて来たので、見えない手を使って殴り飛ばす。
二人の兵士は壁に向かって飛んで行き、痛そうな音を奏でながら気絶した。
その光景にお爺様は顔面蒼白されていた。
「セレス!違う、違うのじゃ」
「ほう、どうやら私が部屋を出た理由が分かったようですね」
「息子達がどうしてもと言うんじゃ、儂は反対したんじゃ!」
どうやら話を聞いてみると、最初にお母さんが婚約話を持ってきた。
それに対して父と祖父は反対していたそうだ。
そりゃそうだ、男と結婚とか無理だと言ったからな。
それでも外聞が悪いとか将来の事を考えろとか貴方は娘にばかり甘いのだからと言われて、父が陥落。
二対一によりお爺様も陥落したと言う訳である。
またあの女か!畜生、母親だからって口うるさい奴だ。
「あのババア、ただじゃおかねぇ」
「セレス、流石に生みの親にその発言はお爺様どうかと思う」
「あら、お母様の味方をするお爺様なんて大嫌いですわよ」
「あのババアは本当、酷い奴じゃよな!」
正直、生みの母親だが母親らしいこと一つもされてないからババアで良いと思っている。
育ててくれたのコックとメイド達だし、生活費はお爺様だし、前世の記憶のお母さんと比べると母親っていうより他人な気がする。
血が繋がってるからって感謝しなくていけない訳ではないのだ。
「と言う訳で燃やしてきますわ!」
「どういう事じゃ!?ダメに決まってるじゃろ!」
「燃やしても罪悪感とか抱きませんし、寧ろ家からの出費が減りますし、それに気まぐれで領地から攫ってきた女を殺してるような母は断罪するしかないですわ」
「そんな理由でお家騒動は困るのじゃ!それに殺したら社交関係はどうする?セレスは出たくないんじゃろ?」
その言葉にチッと自然と舌打ちが漏れた。
殺してはいけない理由が出来るとは思わなかったからだ。
しかし、この国の貴族はどこも小説の三流悪役のような奴等ばっかりだから殺しても問題ない気がする。
私が小説の主人公なら、親が悪徳貴族だって事で殺して領地を改革して出世しまくる筈だ。
まぁ、私は周りに流される前世の人の影響で似たような性格だから面倒なのでしないけどな。
「そうよ、激情に任せて行動するのは良くないわ。少し頭に血が上っていたわね」
「しかしセレスよ、そろそろ婚約くらいしとかんとな。近頃じゃ、セレスが酷い面構えだと噂されておるんじゃ。儂から見ても、それは可哀想じゃぞ」
「言わせておけばいいのですよ」
「いや、両親が馬鹿にされてるのにその反応はどうかと思うのじゃ……」
のじゃー、とお爺様は身を萎めて言った。
何それ、わざとらしいよ。ウザいだけだよ、お爺様。
でも私は結婚したくないのだ。女の幸せ、何それおいしいの?的な感じだからだ。
何歳も離れた男に抱かれるなんて身の毛がよだつ、誰がしたいと思う物か。
前世は前世、今世は今世と割り切れたらいいが、やはり男性だったからかちょっと男性に抱かれるのは無理と思ってしまうのだ。
せめて、男の娘くらいなら可能性があるかもしれない。美人ニューハーフを探すしかないね!
「ハッ、思考が錯乱している。大丈夫、私が好きなのは女、女、女……」
「いやいやいや、女の子なんだから女の子を好きになっちゃダメじゃろ!えっ、そういうことなの!?」
「取り敢えず断っといてくださいよ」
「それがの、相手は侯爵なんじゃ。いつも通りに行かんのじゃ」
マジかよ、一個上のランクって事ではないか。つまり学校で言う所の先輩的な感じ。
上下関係に厳しい貴族社会で、断るのは難しい。先輩に逆らうと恐ろしい目に会うと前世の記憶も教えてくれている。
「そ、それはなんという……」
「お、落ち込むんじゃない。相手は同い年で魔法が好きなそうじゃ。顔も悪くないし、きっと養ってくれる良い相手じゃ。まだあきらめてはいかんぞセレスよ!」
「でも子供とか生みたくありませんわ」
「むぅ、それは妾とかでどうにかなるじゃろ……」
「分かりましたわ、会うだけあってみますわ」
私は如何に婚約を破断するか考えながら部屋に戻るのだった。




