派手に魔女は撃退した
魔法による酸素の移動は劇的な効果を発揮した。
少なくなれば酸欠で倒れ、多くなれば意識を失う。絶妙なバランスを崩すだけで影響を与えたのだ。
しかし、重歩兵だけはその影響がなく。恐らくはタワーシールドが反魔力物質を含んでいるのだろう。
試しに遠距離から魔法で作った光の矢を放ったら、触れる直前に霧散した。
頭の方を狙撃したら、普通に突き刺さったので鎧は大丈夫みたいである。
しかし、光に質量とかあるのか?なんで刺さってるんだろ、今更だけど。
「来ます!」
ルミーナの宣告通り、砲兵が反撃してくる。
その砲撃音は遠来の如く空を響いて壁へと到達する。
衝撃と共に亀裂が走り、一部が倒壊して穴が空く。
おぉぉぉ、と男達の雄たけびが聞こえた。
見れば、視線の向こう側、そこには盾を捨てた重歩兵とその間を移動する人の群れが見えた。
「ハッ、馬鹿な奴らね。ルミーナ!」
「はい!」
ルミーナの背中から白と黒の翼が広がる。
それは、私を包みこむように敵から守る。
銃弾が飛んで来ようが弾くように防ぐ、それの中で私はイメージする。
光を集めて、爆発して、眩しくて、熱くて、それで衝撃波は凄い。
だけど環境にはやさしい、エネルギーの塊。
「落ちろ太陽!」
本物ではない、しかし太陽に見紛うことないそれ。
空中に突如現れた熱源、それは赤く輝く光の玉。
私自身、皮膚がヒリヒリするくらいの熱を発するそれは地面にある植物を焦がしながら敵の方へと落ちていく。
表面温度がどのくらいあるか知らないが、物凄い熱いのだけは確かであった。
それは強力で重くそして果てしない威力がある物としてイメージされた。
そんな存在は、武器を捨て逃げ惑う兵士達を嘲笑うかのようにゆっくりと近づいていく。
もっと速くイメージすれば良かったのだが、強力な攻撃は遅そうというイメージの影響があったのかもしれない。
だが、着弾した瞬間は一瞬だ。
「ヤバイ、障壁展開!」
一瞬で世界が光に包まれた。続いて、着弾点に吸い込まれるように壁の破片や装備品が集まる。
そこから一気に膨張したのか、凄い勢いで衝撃波が駆け巡る。
中心から流された砂埃が増大する円に似た動きをする。
円の内側で膨れ上がる光の塊が地面を抉りながら焼いていく。
人は吹き飛ばされる間もなく塵となり、残ったのは地面に染み付いた影だけだった。
領地に生えていた木なんかは根から吹き飛んでいき、境界線にあった壁などグシャグシャになって崩壊する。
その中で、笑っていられたのは魔法であるローグだけであった。
そして、全てが終わって魔法が消滅する。
「素晴らしい!アハハハハ、芸術的だ!」
「おぉ、ちょっとやりすぎた」
障壁を展開したことで、なんとか無事ではあった。
私の障壁内には緑が残り、それ以外が赤茶色の地面と化していた。
着弾点はアスファルトみたいに滑らかで赤と黒の混じった表面。
今まで布陣していた人間達は跡形もなく消え去り、領地の方も一部変質していた。
良かった端の方で、幼女達がいる中心まで影響がなくて。
しかし、私の中の忌むべき記憶より再現した兵器をイメージした魔法が恐ろしすぎる件。
一応環境による影響はないようにしたけど特長的なキノコのような雲を見ると不安になる。
それにしても、ずっと笑ってんなアイツ。
「見たか、あの瞬間!中心部で熱が加速度的に増加していた!エネルギーがどう言う原理か増加したんだ!あんなの実物を見た今でも出来る気がしないよ!」
「あぁ、うん」
私は映像記録でしか見たことなかったけど、そんな不十分なイメージでこれなら今後使わないほうがいい気がして来たよ。
爆発は危険だからね、決して芸術じゃないよ。
「それより、反魔力物質の盾を探しましょう」
「すみません、何も見えませんでした」
いや、人外のローグと神である私以外、あれほどの光を見たら絶対悪影響があると思うので問題ない。
だって、地面が焦げる光と熱だよ、障壁なかったら蒸発するって。
しかし、装備の方も溶けてた気がするんだが見つかるだろうか。
「おい、速く探せよ」
「あれ、おやおや、なるほど」
「何がなるほどだよ、速くしろ」
「いや、どうやら溶けてなくなってしまったみたいだ」
はぁ!?と思わず声が漏れる。
だって、反魔力物質の盾は魔法を無力化できるはずなのに溶ける訳がないのだ。
それだと、あの魔法を無力化出来なかったと言うことになるからだ。
「どういうことだ、吹き飛んだんじゃないんだろうな!」
「ここら一帯を見たけど、全く見当たらないね。これは変だ」
「いや、確かにアレは魔法を消していた。無力化できるはずだ」
一体どういうことなのか、訳が分からない。
そんな混乱する私にローグは実はと推論を話しだす。
「いや、アレはちょっと可笑しいと思ってたんだよ。だって勇者は魔法が使えるのに、魔法を無力化する物質が血液に含まれるってのは、矛盾してないか?」
「嘘だったってことか?いや、でも魔法は確かに無力化されていた」
「そこだ。血液内でしか存在できない反魔力物質、なんで血液内だけしか存在できないのか。そこが鍵となると思うんだ、つまり、アレは無力化しているが必ずしも無力化している訳ではないんだ。条件次第じゃないと、勇者は魔法で傷を癒せなくなるからね」
何かカラクリがあることは分かった。絶対的な魔法の天敵でもないこともだ。
魔法もどうにかすればアレをどうにか出来ると証明されたからだ。
ローグはそれを指摘して私に恐ろしい提案をしてくる。
「そこで、第一王子のいる王都に今の魔法をたくさんブチ込めばいいと思うんだ!」
「いやいや、ダメでしょ!焦土と化す気かよ!」
「魔法で戻せばいいじゃないか」
「死んだ命は戻らないんだぞ、ローグ」
何言ってんだお前とギョッとした顔でルミーナに見られたが私は言いたい。
王都の幼女が死んだら悲しいじゃないかと。
確かに、更地にしてから再建するのはいいだろう。熱で殺菌も出来てウンコ塗れの王都も綺麗になる。
しかし、幼女は泣くだろう。そんな世界許してなる物か、ダメである。
まったく常識がないよな、私を見習えってんだよ。
「いいか、ローグ。可愛い民間人の女の子が死んで行く様を想像してみろ、どう思う?」
「魔法で死ねないなんて可愛そうだね!」
「お前、間違ってるから!そこは、こんな戦いに意味なんてあるのかって思うところだ!逆にオッサンの兵士が死んだ時を考えてみろ」
「魔法で死ねるなんて光栄だね!」
「おま、真面目に応えろよ!そればっかりだな!答えは、オッサンなら良いかだ!つまり、幼女や美少女がいる場所はダメなんだ、分かるか!オッサンしかいない戦場しかアレはダメなんだ」
なぁ、ルミーナと同意を私は求める。
ルミーナはやや間を開けて、ゆっくりと頷いた。
そうだな。すまない、命の尊さについて考えると即答は出来ないよな。
だからそういう間だよな、私の意見に反論とかないよな?
「まったく、命を軽く扱いすぎだ」
「えっ、あれ、えっ?」
「ほら、ルミーナも賛同?あれ、賛同したよな?まぁ、そういうことだ!」
「あっ、そうですね。私もそう思いますよ。うん、命って大事だなぁ……」
私の言葉にローグはそんな訳ないじゃんと不満そうだった。
命は平等なんだと言っても、命には差があるはずだと反論する。
お前、心だよ。可愛くない幼女も可愛い幼女も純粋なら差別しないんだよ。
まったく、紳士淑女としての心意気と言う物を大事にして欲しいね。
「幼女の命と美少女の命、どちらも大事なんだ。だから首都爆撃はしない」
「みんな死ねば一緒じゃないか。どうせ数年で地面から生えてくるよ」
「おい、そういうとこ典型的な貴族だな!子供ってのは性行為の結果生まれるんだ、畑じゃ栽培できない」
「例えに決まってるだろ、種は男性で畑は女性って意味だよ」
結局あーだこーだ、議論は平行線となったのだった。
「良かった王都がオッサンだけの場所じゃなくて……」




