試されて魔女は予言される
作戦会議、ということでグリムの首を掴んで引っ張り少し離れて話をする。
というのも、私はこの試練に勝てないと自覚したからだ。
「おい、何かいい案はないか?」
「えっ、ちょ、まだ何にもして無いじゃないですか!」
「おま、馬鹿かよ!いいか、よく聞けよ!仮に私が知らないことを教えられたとする。すると、私はまず間違い無く頭ぶん殴ってから知ってたし!というだろう」
「最低だな、この人!」
そう、この試練は何度知らないことを言っても、我は知ってたもんね~と言われたらお終いなのである。
つまり、クリアーできないイベントなのである。
私の言葉を聴いて、グリムはやれやれという態度で頭に手を置いてからいいですかと口を開いた。
「一応、審判を司る神の眷属である死神の前ですよ」
「お前眷属の癖に神って名乗ってたのかよ、最低だな!」
「あぁ、もう!話が進まないでしょ!いいですか、死神の前では嘘は吐けないんです!見破られます!」
「いいだろう、試してやる」
私はグリムから離れて、英知の神ムムの下に行く。
そして、大きな大木を見上げながら質問した。
「英知の神ムムよ、愚かな人の子は間違いを犯す。故に答えは何度間違えても、寛大なる貴方は怒らないだろうな」
『しかり、我は怒らない』
「ならば、貴方は死神の前で嘘を吐く方法を知らない、どうだ!」
『否、死神の目を持ってしても自覚無き嘘の前に嘘と断定することは出来ない。故に我は知っている』
どうだ、と振り向けばグリムが凄い顔で私と英知の神ムムを見ていた。
えっ、嘘だろとまるでFXで有り金を全部解かした人みたいな顔であった。
なんか、お前の唯一の特技を否定してごめん。
「馬鹿な、ありえない……嘘を吐けるなんて、ありえない。これでも審判系の神だよ、えっ存在否定?なんなの、なんでこんなことになってるの?そもそも、あの人が言うこと聞かないから」
「グリム、元気出せよ」
「セレスさん……いや、アンタのせいだよ!」
あぁ、私が悪いって言うのか?
自信満々に、死神の前では嘘吐けませんとか言うお前が悪いんだろうが、違うかよ。
「まぁ、お前のことは置いとくとして、無言とか知ってたしって後から言われたら困るじゃないか」
「置いとかないで下さいよ!」
「そうだ、質問してこよう」
再び英知の神ムムの下に移動して声を張り上げる。
「おーい、ムムぺディア」
『人の子は奇怪な呼び名をするな?』
「アンタ、無言で先延ばしたり後から知ってたって嘘吐くだろ。ちゃんとグリムの前で誓ってくれよ!それとも誓えないくらいプライドないのか?どうなんだよ?」
『気でも狂ったか無礼なる人の子よ。我が貴様の言葉に応えないことは在り得ない。虚偽を申告するなど断じて否である。よかろう、死神グリムよ英知の神ムムは貴殿の前であらゆる問いに答え、虚偽なる行いをしないことをここに誓う』
よし、言質は取った。
半分以上、何言ってるか分かんなかったけどこれで大丈夫だ。
どうせだから、知りたい事を全てここで聞いておこう。
ムムペディアは何でも知ってるからね。
その前に、これは聞いておかないといけない。
「貴方の知らないことを私が言えるかどうか、貴方は知らないだろ」
『否、貴様は我の知らない事を言うことも出来るだろう。それどころか望みも叶うであろう。だが、それは教えられぬ』
「ほぉ、つまりは私が生き返る方法を貴方は知らないんだな」
『否、我は知っている』
「本当に知っているなら、説明できるはずだが?」
『…………試練を乗り越えた貴様はまずここから出て、西を目指し星の神ケルルピルリの下に行くだろう。星の神ケルルピルリの試練に対し、貴殿は多くの死者から魂を奪い人の身を捨て打ち勝つだろう。同時に貴様は悪神となりて、死の神ソルキスと敵対するであろう。悪神の導きにより、貴様は境界の神ヴェルズを出し抜き現世へと送られる。その際、貴様は悪神達の信仰を取り戻す契約をし、神々と敵対するであろう』
それは、懇切丁寧な説明であった。
否、予言と言っても差し支えない。
まさか、人から神になるとは思わなかった。方法は知らないが、魂を利用すると言うことは分かった。
しかし、これから敵になるという相手に対して情報漏洩とか頭可笑しいわコイツ。
それだけ、自分の与えた試練に乗り越えられない自信があるのだろう。
乗り越えることも出来る、乗り越えることが出来るではない。
つまり、確実ではない、私がその答えに気付けない場合もあるということだろう。
「貴方は魂を使って悪神になる方法知らない」
『否、神とは信仰と魔力の塊である。畏怖を抱かせ、魂を奪い、自らの身に取り込むことで信仰を得ることが出来よう。不愉快なる人の子よ、我を利用する手腕は悪神にも勝らぬな』
「なるほど、答えが分かってきたぞ」
こうなったのは、グリムに誓ったせいである。
こうなることを予見していたならば、誓わなければ良かったのだ。
故に、未来を知らない。
「貴方は――」
『我が未来を知らないか?否、我は全ての要素を使い未来すら予知する、貴様にとっての未知は既知である。例え、我が齎した答えを予言とし現在を用いて証明しようとも、その状態もまた既知である。我は無限の可能性全てを予知している、故に全知である』
あ、あれれ?どうしよう、当てが外れたぞ。
何でよ、さっき自分で自分の首絞めてたじゃん!自分からピンチになってたのかよ、ドMかよ!
『どうした、矮小なる塵芥よ。降参かね?』
「スゲー、ランクダウンしてる!おい、グリムどう思うよ」
困ったなぁ、とグリムの方を向いたら奴はいなくなっていた。
あれ、アイツ何処に行った?
「ムムペディア、グリムの行方を知らないだろ?」
『遂には道具扱いか、奴は死の神ソルキスの眷属。我の言葉を伝えに言ったのであろう。これから貴様が三度寝る頃に、貴様は磔刑に処されるであろう』
「アイツ、だから私に協力してたのか!そりゃ、最終的にアイツの目的は達成できるもんな!」
クソ、どうしよう。
何も思いつかないぞ、こういう時は前世の知識に頼るしかないんだがクソ。
私は思いついたことをすぐさま口にした。
「アンタは私の前世を知らない、私の前世は異世界だ」
『否、我は先ほどこの知識を知っていた。故に既知である』
「あ、後から知ってたって言うのズルい!」
『貴様が言う前に未来を推測し、既知となっていただけである。故に、問題はない』
「詭弁だ!ノーカン、ノーカン!」
知らない事とか私が知っている訳無いじゃないか!
畜生、このまま逃げるか?でも試練を乗り越えることを前提としていた訳だから、既に目的を果たしたから試練とかスルーしようってのは多分アイツが喜ぶ展開になることを意味してるんだろう。
だから協力して貰う試練で、私の知りたいことを奴は先に教えたのだ。
試練を乗り越える意味を無くす為にだ。
つまり、ここで逃げても私は死ぬ。
だから、奴が知らない知識を私が教えなければならない。
奴が知らない知識なんて、私は知らない。
というか私が知っている知識を未来予知で奴が知っている時点で無理である。
私が知らない知識を披露しろとか知るか。
私は何でもは知らないんだよ、知っている事だけなんだから。
「いや、いや待てよ?おいおい、そうか!そうだったのか」
『よもや、答えに気付いたか』
「英知の神ムムよ、貴方は貴方自身が知らない知識は知らないだろ」
『ふむ、然様。しかし、我は披露してみよと言ったのだ、その知識は何だ?』
「問いを投げ掛けるか、ならば知らないのだろう!どうだ、知っているなら自らが知らない知識を私に言ってみろ!もっとも言えるならそれは知っているということだからな!」
『…………薄汚い人の子よ、去れ。我は機嫌が、ぬっ、貴様何をする!やめよ、我に手を掛けるとは神々と敵対するつもりか!』
「黙れ外道!」
『貴様がそれを、ぬわぁー!?』




