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移動して魔女は囲まれる

死後の世界、便宜上は冥界と呼ぶ事にする異界から出て行く事にした私が最初に行ったのは英知の神ムムとやらに会うことからだった。

神学については良く分からないが、英知の神ということは頭が良い事は確かである。

つまり、どうしたらいいか方法を思いつくに違いないと言うことだ。

取り合えず調べてからやる、ゲームをやる上での常識だ。

命が掛かってるのでゲーマーのプライドとかはこの際置いておく。


「で、いつまで付いて来るのよ」

「諦めてくれるまでですよ」


狼王ウルと分かれた私は当てもなく移動することにした。

というのも、この冥界は異界が入り組んだ場所であり行こうと思っていけないらしい、どういうことだよ。

そんなの不便じゃないのか、と思ったけどそう言う物らしい。

元々、移動なんてすることがないから別に困らないらしいけどね。


昼間のように明るい花の咲き誇る平原から、暗雲が広がる物寂しい山中へと景色が変わる。

空中を滑るように移動する私の横には、従者のように横を歩くグリムの姿があった。

特に考えることなく適当に進んで行くと、その都度グリムの野郎はこっちだと指を差しながら誘導してくる。

それに対して私は無視して進む、何故なら嫌な予感しかしないからだ。

それにしても、と私は気付く。


「私以外に死人が見えないわね」

「それは異界と異界の間ですからね。先程の場所には人がいたじゃないですか」

「あぁ、そういえば……アレ、死んだモンスターはどこにいるんだ?」

「悪神の所ですね。と言っても、名称は主観的な物であって人間側から見た場合ですけど」


悪神とやらがいるのか。

そんな奴の世界とは、死んだ魔王がたくさんいるわけだ。

うわ、ラストダンジョンかよ。絶対レベルカンストしないと瞬殺だわ。


「それにしても――」


変わり映えしない景色ね、と言おうとした瞬間に私の視界が変化した。

瞬きした瞬間に別の場所に移動したと考えたほうがしっくり来るだろう。

いきなり転移させられた、そんな状況に近いかもしれない。


「あぁ、どうやら異界入りしたようですね」

「…………」


平然と感心するグリムの横で、私は絶句していた。

今まで山道を登っていた私は、いつの間にか溶岩地帯に移動していたのだ。

頭上は固そうな岩盤が広がり、地面には赤い光源の溶岩が胎動している。

ポツンポツンと地面が点在しており、規則正しい金属音がそこかしこから聞こえる。

見れば、溶岩の近くで鍛冶師が作業している姿が見える。

溶岩の近くには何故か溶けない容器に入った溶岩があり、それがいくつも並んでいる。

端の方には固まった物があるが、岩と言うよりは金属の光沢を含んでいて鉱石の用である。


「何よここ」

「ここはドワーフさん達の共通信仰から生まれた鍛冶の神ダダンの異界ですね、神域とも言います」

「熱いんだけど、よくこんな所に人が入れるわね」

「人の想像が影響してますから人が住めない環境じゃないですよ。この光景は鍛冶の神ダダンが流血し続ける伝承が影響しています」


グリムは胸を張って急に解説を始める。その様子は、まるでバスガイドのようだ。

鍛冶の神ダダンは自らの固まった血、それを使って鍛冶をするとドワーフ達が考えた神様らしい。

トンでもない設定だがちゃんと理由がある。


山に暮らすドワーフは溶岩を目にする機会が多いため溶岩が冷えると岩になる事を知っていたそうだ。

そして、赤く流れる溶岩が黒く固まるその様子と、自分達に流れた血が赤黒く固まる様子を同じ物だと感じたらしい。

そこで、彼らは大地をダダンの血が固まった物と考えた。

やがて、鍛冶をする神ダダンが流血し続けるから火山から溶岩が流れるという考えに発展したとのことだった。

その結果、大地の奥底、神ダダンの住む場所と言う考えと他の宗教の死後の世界思想が混ざって、最終的に死んだ後に鍛冶の神ダダンに認められた優れた鍛冶職人がいる世界が生まれたらしい。

でもって認められなかった者は一からやり直しと生まれ変わるそうだ。


「なるほど、土着の宗教が他と混ざった結果、こういう世界が出来たのか。あれ、神が先か?人間が先か?」


前世ならば土着の宗教が他宗教に併合されたんだな、と判断できるだけの話しだったがこの世界だとそうはいかない事に私は気付いた。

だって、実際に神様がいる世界だからだ。

今までのグリムの口ぶりからすると、ドワーフ達の思いによって鍛冶の神ダダンは生まれたと言うことになる。

だが、聞けばドワーフはダダンによって生み出された種族らしいじゃないか。

どっちやねん、ややこしい話だな。


「ねぇ、なんか見られてない?」

「そうですねー、鍛冶は男の仕事なので男しかいない世界なんですよ。だからじゃないですか?」

「地獄のような世界ね」


溶岩の流れる赤く照らされた地下世界、そこかしこで鍛冶をする男達の視線が私に集中していることを感じる。

というか、物理的に身の危険を感じる。

速く去らねば、エロ同人みたいになってしまう。


少しだけ私は顔を顰めて、速度を上げてこの異界から出て行こうとする。

しかし、それは叶わずドワーフの一人に話しかけられた。


「お前さん、装飾はいらんか?」

「えっ?」

「ワシの工房に来んか?沢山あるぞ、どうだ」

「あっ、結構です」


嫌な予感がして断ると、そうかと一言だけ言葉を零してドワーフが去っていく。

その後姿は明らかに凹んでおり、哀愁を漂う。

いや、でも体目的だろ?そうなんだろ?


「あぁ、速く行った方がいいですね」

「グリム、もうダメだ」


グリムは苦笑いでそう言ったが、既に周囲には聞こえており動き出しているのが見えた。

我先にとドワーフ達が寄ってくる。

そうして、一番近かった物から声が掛かる。


「女!ウチの装飾はどうだ!なぁ、見たいじゃろ!なぁ、なぁ!」

「いや、待て!オイの方が複雑だぞ!」

「テメェら下がってろ!俺のがいいぞ、作りが繊細なんだ!見てくれ!」


いつの間にか周囲を囲まれる私。

私はグリムと逃げ出した、しかし囲まれてしまった。

そんな状態である。

でもって、種族的な特徴なのか口説き文句が装飾を見ないかと言う物だ。

なんですか、その犬飼ってるんだけど見に来ないみたいな口説き文句は……


「あぁ、捕まっちゃいましたね」

「やばいは、アイドルってこんなのね」

「偶像?」


私の周囲を囲むドワーフ達。

綺麗な円形に一定距離ほど離れており、私が進むと囲んだまま移動してくる。

アピール合戦から、罵り合いの品評会のようになってきて現物を持ち出す始末。

自分の作品はこういうところがすごくよ、あれがダメだろ、これがダメだろ、とアピールしても他の奴が辛口評価する。

私には分からないが図星なのか、言われた方は否定はしない。

なんだろう、この状況、いや本当になんだろう。


「すいません!」

「あ、はい」


そうして、うるせぇな。コイツら溶岩の中に沈めようかななんて思っていたら、大きな声が背後から聞こえた。

振り向けば、ドワーフ達が左右に分かれており、一人のドワーフが立っていた。


「抱かしてください!」


ドストレートな要求が、私の耳に届く。

周囲からは、ざわざわと不穏な空気が流れ、一人のドワーフから私に注がれる。

応えろって事ですか?


「やだ」

「な、なんでもしますから!お願いします!」


うん?今、何でもするって言ったよね?

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