歓待されて魔女は方法を知る
前回までのあらすじ、超絶美少女セレスちゃんは死後の世界で生きたまま住み付いた英雄に出会い求婚されるのだった……どういうことよ。
「ハハハ、俺の名はウル!狼王ウルとは俺のことだ」
「誰?」
「ハハハ、知らんか!なら、仕方ない」
私の前で、男が立ち上がった。
狼王ウルと名乗る男、赤い長髪に逞しい肉体、英雄と言われるだけあって身体中に傷跡が残っているワイルドな奴だ。
なぜか、下半身が戦闘状態であることと周囲に全裸の女達が抱き着いているのが問題だがな。
周りから見たら、私の顔は顔面蒼白なことだろう。
「おぉ、そこにいるのはグリムではないか!久しいな」
「どうも、ウル様お久しぶりです」
「ハハハ、貴様は相変わらず真面目だな。所で、名を聞こうか!」
「あぁ、彼女はセレスティーナさんです。セレスティーナ=オーウェン、処女ですけど人妻ですよ。痛っ!?」
私は無言でグリムの頭を叩いてやった。
何、人の個人情報を拡散してるんだよ。
死神ってプライバシー無視ですか、そうですか。
「ふむ、そうか。ならば、求婚は諦めるとしよう」
「ほっ……」
「あぁ見えて、彼は愛妻家なんです。親が狼ですからね、生態が似ています」
親が狼って何を言ってるんだと思ったのだが、魔法がある世界であるのでそういうこともあるのかもしれない。
巨大な白い狼が、人語を使って猪と会話するとかあるかもしれない。
「えっと、そのウルさんは獣人なんですか?」
「おぉ、よく気付いたなセレスティーナ嬢!俺は狼と獣人の間に生まれたのだ。普段は人型だが、一度戦となれば狼となろう!」
「おぉ、なんと言う出生」
それって獣姦じゃないですか、やだー。
まぁ、異世界では良くある事。異種族と混じることもあるなら動物やモンスターと混じることもあるでしょう。
因みに動物とモンスターの違いは明確には決まってません。
魔石があるかないか、魔法が使えるかどうかなんてファンタジーな設定はありませんよ。
群れの水浴び、という行為を終えた狼王ウルによって私は下着を手に入れた。
生前の私が使っていた物と大差ないほどのシルクのパンツ、どうやら物々交換で手に入れたらしい。
でもって、動物の毛皮と交換した女物の服を頂いて、首をポロリしたばかりの動物の料理で歓待を受けた。
流石狩猟民族、生で食ってるよ。生きてるウサギがそのまま食われてくよ。
「ハハハ、血抜きして肉を焼くとは手の込んだ事をしているな」
「まぁ、私の地方じゃ普通ですよ」
「そうか、随分と田舎なんだな!」
いえ、どっちかといえば都会かなと……
そもそも、時代や民族が違いますし、獣人じゃないので。
「まぁ、好きなだけいるといい。グリムがいるということは貴様も英雄の端くれであろう」
「えっ、なにその設定。聞いてないんですけど」
「ふむ?悪行か善行かは知らんが、何らかの偉業を残した者を連れて行くのがグリムの仕事だったはずだが違ったか?」
私と狼王ウルの視線が口に物を入れたまま固まったグリムに注がれる。
視線は左右に忙しなく動いており、何だか焦っている風に見える。
ごくり、と食べ物を飲み込んでグリムは渋々と言った感じで口を開く。
「まぁ、それなりの信仰と杖無しで魔法を使うという失われた技術の復活と言う偉業を行ないましたからね」
グリムが言うには、英雄としての特徴的な逸話を私も持っているらしい。
大地を割り、津波を起こし、敵を葬った話。
伝説の賢者へと至ったことも死後の評価でプラス査定なんだと、へー。
「でも、言ったら調子乗るじゃないですか。乗ると思ってたんです、言ってなくても調子乗ってましたけどね!」
「何言ってんだよ、私は生まれたときから偉いんだぞ」
「もう、この人やだー!」
やれやれ、生まれながらに貴族である私は死後の世界でも勝ち組みと言う絶対の真理を認めないとは往生際が悪い奴だ。
今更そう言う事を白状するとは、まだ何か隠し事してるんじゃないだろうな。
この際、全部聞いといておくとしよう。
「ウル様、そう言えば聞きたい事があるのですが生き返るにはどうしたらいいですか?」
「今、生き返ると言ったか?あぁ、そうか、うむ、すまん!」
「えっ!?」
私の言葉に、いきなり畏まったと思ったらテーブルに頭をぶつける勢いで謝って来た。
どういうこと、と私が固まっているとグリムが気付いたように言葉を紡ぐ。
「あぁ、死後の世界で食事をしたから生き返れないですもんね」
「何で、そういうこと速く言わねぇんだよ!死ね!」
「わぁ!?魔法、撃ってきたー!」
やっちまったぁぁぁ!
そう言えば、どっかの神話で死後の国の食べ物を食べたせいで生き返れない奴がいた気がする。
軽くパニくる私に、狼王ウルは困ったように助かる方法を教えてくれた。
「まぁ、方法はないわけではない」
「本当ですか!」
「三つの条件、いや試練とでも言おうか。それをどうにかすれば可能である」
「三つの条件……」
然様、と雄々しく頷き空を見上げた。
死後の世界の暗闇に染まる空だ。
「一つ、星の神ケルルピルリの協力を得て宿星の輝きを取り戻すことだ。アレを見よ、生者の証である俺の宿星だ。輝いているだろ?」
「無理です、太陽みたいじゃないですか。目が悪くなります」
「ハハハ、俺は太陽みたいに偉大だからな」
何言ってんだこの人、と思ったがそのまま次の条件を催促する。
「二つ目の条件は、死の神ソルキスから追い出されることだ。これは食事と言う行為によって客人としてこの異界に囚われる事を意味するからだ。追い出される、つまり客人と言う扱いをやめさせれば囚われることはない」
「一緒に食事してないのに客人扱いなんですか?」
「この異界は奴の物、ならば全ては奴の目前で行なわれるような物だ。奴の物を使って歓待されたとしても、変わりはない」
つまりは、今の状態では生還フラグが立たない訳ですね。
でもって、最後の条件はなんだろうか。
「三つ目、境界の神ヴェルズの説得が必要だ。生死の混在する混沌の川、向こう岸に渡ることが出来れば帰る事が出来る。ただ、距離はあってないような物で、ヴェルズの案内無しには飲む込まれることだろう」
「飲み込まれたら?」
「知らん。沈んだものしかいないからな」
落ちたら即死、しかも案内無しには無理と来たか。
あれ、でも私は空が飛べるからいけるんじゃないか。
「あぁ、何らかの方法で渡ろうとしているみたいだがやめた方が良い。飛び越えられそうな距離だと思ってヴェルズの案内を突っ撥ねた奴がいたが、着地しようとした瞬間に岸が移動する。だから、距離は関係ないのだ」
「あってないような物とはそういうことですか」
「何人か生者が戻った話しは聞くが、死者は聞かないな。諦めたほうがいいだろうが、無理ならば英知の神ムムに尋ねればあるいはどうにかなるやもしれんぞ」
「分かりました。狼王ウルよ、貴方の助言に感謝します」
「よい、俺は偉大なる獣人の王であるからな!助けを乞われれば応えぬ訳にはいかぬ」
取り合えず、星の神ケルルピルリに頼んで自分の宿星の輝きを取り戻すことで生者となる。
次に、死の神ソルキスの歓待を終わらせる。客人扱いの間は現世へ帰る事が出来ないからだ。
最後に、境界の神ヴェルズを説得して川を渡りきる。
この三つの試練を乗り越えて現世へと帰るのだ。




