死んで魔女は後悔する
目が覚めた。
あんだけ眠かったのは久しぶりである。
そう言えば、寝る前の記憶があやふやだが、誰かと喋っていたような気がする。
「あぁ、そうだった」
なんでか、私の胸の中で眠っているガキがいた。
おいおい、今の私は全裸なんだが誤解されそうじゃないか。
まぁ、誰もいなさそうな山中だけどな。
それにしても、ここは一体どこの山なのだろうか。
そして、今の私は魂だけの状態なんだろうか?
「水よ」
「あばばばばば!?」
「よう、起きたかクソ餓鬼?」
魔法で生み出した水球を頭からぶつけられて、飛び起きる餓鬼に向かって笑顔で話しかける。
おら、説明しろよエロ餓鬼。
「お、恐ろしい。中身がクソなのに、見た目だけがいいのが恐ろしい」
「私の感想かエロ餓鬼、慰藉料請求するぞ?おっ?」
「この痴女、無茶苦茶だぁ!勝手に見せてたくせに、最悪だよ!」
でも見たんでしょ、と思う。
私が私の理想を追求して弄った、美しい魂の形。
元から優秀だったところに、整形するが如く魂を弄って整えた姿。
魂に影響されて肉体の方にも変化があったが、やっぱり魂本体は何度見ても最高だからな。
ほらほら、この全裸ローブが気になるんだろ。
太ももがチラチラされると、目が追ってるもんな。
「好きなんだろ、こういう女の子がさ!」
「確信犯かよ!最悪の人間だな、クソ!」
まぁ、姿形は問題ない。
大事なのは魂である。
でもって、そんな魂を回収するナイフを持ったコイツは何か。
私は死神と予想した。
「で、お前が死神だな」
「気付いてましたか、そうです僕が――」
「安っぽいな、鎌やチェンソーにしてから出直しな」
「存在否定!?でもって、何で鎌!ちぇんそーって何!」
あっ、お前、面倒くせぇよ。
知っとけよ、そんくらい。
ちょっと偉そうになったと思えば、すぐに叫びだす。
まったく、コイツはやっぱり餓鬼だな。
「もう、いいですか。話が進まないんですけど」
「よし、行くぞ」
「何で聞いてくれないんですか!どこに行くんですか!」
取り合えず上に行く、山を登る。
だいたい地獄とか冥界とか、そういうのは地下にあるから上の方に行く。
そしたら、多分現世に帰れると思う。
「そっちはダメですよ!」
「何で?」
「そっちは位の高い人達の住む場所なんです!大体、貴方は罪人なんですから!」
「おかしな事を言うのね」
私が罪人?私がいつ、犯罪を犯したって言うんだよ。
私は死んだから現世の法律じゃ裁けないはずだし、そもそも法的におかしな事はしていない。
こないだオッサン殺したけど、あれは矢を撃って来た王子が悪いし問題ないなうん。
「人違いだわ」
「あってますよ!」
「騒々しいわね、良いから行くわよ」
「えっ、浮いて、えっ、浮いてる!?」
死神だろ、霊子を固めて空中くらい歩けるだろうに何を驚いているんだ。
「何で不思議そうにしてるんですか、普通にびっくりですよ!」
「飛べないの?」
「普通、飛べないですよ!ゴーストか鳥くらいです!人間は飛べないの!」
「飛んでるよ?」
「お前は人間じゃねぇ!」
酷い、すごく傷付いたわ。
まったく、なんて事を言うのかしら、落としましょう。
「や、やめて!揺らさないで!」
「ほら、高い高い」
「や、やめろー!落ちたら死ぬだろ、高度を上げるな」
「死ぬわけないじゃない、死んでるんだから」
空を浮けば、山の全貌が見えてくる。
私の腰に抱き付いてるショタに言わせれば、あれは偉い人がいる場所とのことだ。
偉い人ってどんな人だよ。
「あのさ、そういえば名前聞いてなかったよね」
「死に掛けてる、今聞くことですか!?下ろして、下ろしてくださいよ!」
「しょうがないなぁ、ほら」
「浮いてる!?僕、浮いてる!」
魔法で抱き付いていた奴を私は魔法で浮かせてやる。
しかし今更だけど、霊体になっても魔法は使えるんだな。
リアクションをちゃんとしてくれて、楽しい奴だ。
餓鬼は目をキラキラさせて、うわーうわーと言いながら空の景色を楽しんでいた。
おいおい、何だか照れるじゃないか。
「あっ、僕の名前はグリムです」
「そう言えば最近似た名前の所でオッサンを殺したな」
「この人ヤバイ奴だ!?」
失敬な、素直な感想だぞ。
私は死神グリムと一緒に飛びながら、山の果てを見ていた。
グリムが言うにはこの世界は死後の世界だが、現世とは地続きで生者も行き来したりするらしい。
だから、山に登ればとか関係ないし、ちゃんとした手順を踏まないといけないそうだ。
まぁ、死者である私には関係ない話しなんだと。
「という訳で、帰りましょう」
「ダメよ、偉い人に蘇らせるように言うから」
「無理ですよ!誰も成し遂げてないんですからね、そんなことしてみなさい偉業ですよ!」
「ふっ、英霊と言うわけか」
「何でやる気出してるのかなこの人!」
少し速度を上げて行けば、山の中に幾つかの明かりが見えた。
不思議な事に、切り取ったように明かりのある場所だけ昼のように明るい。
光源は見当たらないのに照らされたそこは、不自然に木がなく野原が広がっている。
花が咲き誇り、獣達が駆け周り、その中で美女に囲まれる男が湖で浮いていた。
「あれは?」
「あぁ、あの人ですか」
私としては偉そうだが、そんな重鎮ぽい感じに思えない感じだった。
指差し、説明を求めれば解答がやってくる。
その解答は、男の正体が過去の英雄という物だった。
「あれ、英雄?」
「そうです。たまに生者のままここに来る例があの人ですね。普通は生前の罪を裁かれて死者の仲間入りするんですが、特別待遇で最初から良い位で暮らしてます。セレスティーナさんもさっさと最下層から暮らし始めましょうよ、罪が重くなりますよ」
「その法律は死後の世界の法律だろ。私の国じゃ、問題ないから」
「この世界にいる間は、この世界の法に従ってくださいよ」
嫌だね、俺ルールとかズルイと思う。
私はグリムの口から出た最下層に付いて聞いた。
最下層と言うのは生前に罪を犯した人間の中で重罪の者が住み始める場所らしい。
とはいえ、判決で死罪を言い渡されるほどじゃない奴らに限るそうだ。
でもって、死ぬまでに評価されると良い暮らしが出来て、でもって死ねば転生するらしい。
死後の世界でも死ぬらしい、不思議である。
この世界には寿命がなくなり、霊格と呼ばれる位が上がると良い暮らしが出来るようになる。
病気で死ななくなり殺されない限り行き続けられる世界だって、英雄が来たがるのも納得である。
霊格が上がって行けば、そのうち神様の仲間入りも出来るらしい。
因みにグリムも一応は神様らしいよ、死神だしそうだね。
「なんだよ、ただの成り上がりかよ」
「そこは努力したんだねとかいうとこでしょ!なんて言い草だ!」
「神様なのに空も飛べないの、プププ」
「ムカつく!すっごい、ムカつく!」
まぁ、そういうことならきっとあそこにいる男は強いのだろう。
ちょっと協力してもらおう。
そう思って、降り立った私は後悔した。
「こんにちわ」
「好きだ、抱かせてくれ」
「えっ?」
「結婚しよう!俺は、お前を愛しているんだ!」
「えぇぇぇぇぇ!」
どうしてこうなった!




