突き止めて魔女は犯人を知る
屋敷へと入れば、意外とすんなり進んでいけた。
もっと、兵士がわらわら抵抗している様子を想像していたのに拍子抜けである。
屋敷は閑散としており、不気味なことに人はいない。
ここまで誰も遭遇しないと、なんだか罠なんじゃないかとすら思えてくる。
仮にも公爵だ、王様の次に偉い身分なんだよ。
曲がり角から攻撃とかされるんじゃないだろうな、もしくは置物の中からとか……
「セレス様、こっちから匂います」
「匂いって、いよいよ人間離れしてきてるわね」
ルミーナの誘導で廊下を抜けていき、突き当りの部屋へと辿りつく。
暖炉の前で立ち止まったルミーナは、周囲を凝視して何かを見つける。
それは、暖炉の前の灰だ。
「灰が暖炉から出ています」
「薪を入れたりして零したんじゃなくて?」
「量が多いんですよ、あぁ、やっぱり」
ルミーナが暖炉の中の灰を掻き分ける。
すると、隠し扉が見つかった。
おぉ、すごいワクワクするな!
「地下に行く抜け道ね」
「いえ、匂いがないです。それに開けたら蓋の上に灰が積もりませんのでカモフラージュでしょう」
そう言って、開けた隠し扉を閉められると隠し扉は丸見えであった。
つまり、公爵は隠し扉を通っていないか、通った後に従者が灰で隠したことになる。
ただ、ルミーナが言うには匂いがないから通ってないのだろう。
「しかし、匂いが暖炉の前まであるということは暖炉周辺に隠し扉があるということでしょう」
「謎解きね、脱出ゲームみたいね」
「大丈夫です、こうします」
直後、轟音と砂煙が部屋に発生する。
ルミーナが背中から出た、巨大な黒い拳で暖炉横の壁を壊したからだ。
「やはり、隠し扉がありましたね」
「物理でバグ技かよ、仕掛け解いてあげなさいよ」
「たぶん、これが一番速いと思います」
無残にも壊れた壁の向こうには、小部屋と梯子があった。
地下に行くのはカモフラージュで、本当は上の方へと行くみたいである。
壊れた壁を裏から見れば、歯車などがあり、仕掛けがやっぱりあったみたいである。
多分、本棚とかピアノとか彫像とか弄るんだろうな。
「何してるんですか行きますよ」
「あぁ、うん」
普通に浮上して梯子の小部屋を通過、どうやら天井裏に繋がっていたみたいである。
ルミーナは先行して、天井裏を進んでいく。
中は普通に綺麗で、窓が複数あり明るい場所であった。
ルミーナは複数ある窓の一つを殴って吹っ飛ばして屋根の方へと移動する。
どうやら、公爵はここから外に逃げたみたいである。
「あっ、いました」
「そう」
ルミーナが外に出た後、私も続くように窓を潜る。
窓の下には屋根が広がっていて、普通に足場がある。
潜り出てから見渡せば、太ったオッサンが喚きながら黒と白の巨大な手に捕まって持ち上げられていた。
その根元にはルミーナがおり、ちょっとドヤ顔であった。
「ひぃぃぃ!?」
「どうやら、擦れ違いで逃げようと企んでたみたいです」
なるほど、私達が地下へといってる間に外から逃げるつもりだったのか。
逃げるって事は疚しいことがあるってことだな。
「謝って」
「えっ?」
「謝って!」
一瞬呆けて、すぐさま謝罪する公爵。
グリム公爵さんよ、謝るってことは私に悪いことをしたって認めるんだな。
「さて、どうしてあんなことをしたか理由を聞きましょうか」
「な、何の話だ!知らん、知らんぞ!ここには来たばかりで、グリム卿とは人違いだ!」
「えっ、違うの?」
うん?あれ、人違い?いや、逃げ出そうとしてるし怪しいしな。
でも、溢れる小物臭が公爵じゃないかもと思わせる。
いや、こういう無能な見た目の奴ほど意外とやる奴だったりする訳でして、私は人違いしていない。
「私の目を見ろ、記憶よ開け!」
銀杖を公爵かもしれないメタボのオッサンに向けて魔法を放つ。
景色が歪み、記憶が流れ込んでくる。
そこはどこかの部屋の一室である。
私の前には先ほどのオッサンが兵士に組み伏されている状態で這い蹲っている。
オッサンの記憶なのにオッサン視点ではないのは不思議である。
押さえつけられてるオッサンの顔の先には、すごいイケメンがいた。
イケメン、敵だな。
『久し振りだな、魔女よ。もっとも顔を合わせるのは初めてか』
『で、殿下何かの間違えでございます!お願いしま――』
『黙れ、殿下の前であるぞ!』
オッサンが口を兵士に押さえられて、フゴフゴ言っている。
しかし、そんな汚い光景はどうでもいい。
問題なのは、今、この目の前の男が私に向けて話しかけた事と殿下、つまり王子であることだ。
『疑問は無理もない。これは一方的な物であり、会話ではない。貴様があらゆる手を使い手がかりを失い、記憶を覗くまでを推測して話しているだけだ』
『私の行動を予想したって事か?』
『予想したという見解で合っている。私にはお前がどう感じるか分かっているぞ』
背中に虫でも這い回ったかのようにゾワゾワとした感覚に襲われる。
気持ち悪い得体の知れない恐怖が私を襲う。
ダイスを、ダイスを振るんだ!チェックしろ!私のSAN値大丈夫か?
『さて、これを貴様が見ているということは私は上手く事を運んだということだろう。そして、貴様が勇者の召喚方法を得てしまったということか。ならば、教会も動き始めて弟を担ぎ上げた頃合か』
『…………』
『いつからか?それは貴様が他国へと行く瞬間からである。この男は我が弟ヴァンと繋がっていた裏切り者でな、処分次いでの有効活用である』
プークスクス、今何にも喋ってないよーだ!
やっぱり相手が言いそうなこと気にして勝手に喋ってるだけかよ、ビビらせやがって!
何が、私はどう感じるか分かっていろぞ、キリッ!だよ。
『恐らく貴様は私を恐れていることだろう。だが、私は優秀ならば寛大だ。真に忠義を見せるべき相手が誰か、それこそが最も大事なことである』
『最も大事なことである、うわぁドヤ顔うぜぇぇぇぇ!』
『全ての派閥に身内を送り込み、安寧を得ようとは愚かなことだ。だが、今ならば許そう。全ては貴様次第だ』
私がどんな反応すると思ってこんな痛いメッセージをオッサンに語りかけてるんだろ、この王子。
それにしても、今回の件は第一王子がやってたわけか。知ってたけどね。
でもって、このオッサンは本当に関係なかったようである。
『そして、これは警告である』
王子の言葉が終わった瞬間、私の頭に聞きなれた声が響き視界が元の屋根の景色へと戻る。
記憶を覗く行為が強制的に終了したのだ。
『警告、巨大な魔力反応が接近しております』
「そんな、殿下ぁぁぁぁ!」
屋根が影に覆われる。
頭上を見上げれば、落ちてくる大量の矢。
うわぁ、雨みたいに矢が降ってきてるんだが……
しかも、見た目は普通の矢なのに魔力の反応があるってのが気になる。
嫌な予感がするな。私は銀杖を矢に向けて動かす。
それに連動するようにオッサンが浮いて、杖の先に移動する。
「よっと」
「ガッ!?」
案の定、嫌な予感が当たったのか。
オッサンの前に張った魔法の障壁が打ち破られ、盾にしたオッサンがハリネズミのように矢だらけになってしまう。
うむ、余裕ぶって障壁だけに頼らなくて良かった。
因みにルミーナの奴は背中の腕を使って器用に振り払ったようであった。
物理ってスゲーな。
「オッサンを盾にしてなかったら死んでたな」
「これぐらい切り抜けられない奴は死ねってことなんじゃないですか?」
「こんな目に合うとか、出かけるって本当に危険だわ」




