気付いて魔女は探し始める
久しぶりにパソコンを開いてみた。
よく考えれば、パソコンのほうで情報収集できるからだ。
と、思ったんだがどうやら無理のようである。
「なんでアクセスできない!?ウイルス、何で!」
何らかのブレイクスルーがあったのか、急激な発展が起きていた。
今までメールとチャットと掲示板くらいしかなかったのに、アクセス制限という機能が追加されていた。
しかし、それは私に権限があるわけでなく外部から操作されているという、よく分からない状況。
どころか、パソコン内のデータが何個か無くなっている。
完全にウイルスに感染している状態だ。
「誰かがコンピューターウイルスを作ったのか?ウイルス対策ソフトもない時代に?」
というか、外部から遮断されて実質、インターネット環境を切断されたに等しい。
サイトを開いても表示できません、これは国家の陰謀に違いない。
情報統制し始めたと考えていいだろう。普通なら平民が怒り出すところだが、使っている大半が貴族。
貴族同士のやり取りを原始的なものにする為に、こういう状態にされたのかもしれない。
だが、一番の問題はパソコン内の私の記録を奪われたことである。
一応暗号化してあるが、もし解読されたら最後、勇者召喚の方法が誰かに知られることになる。
パソコンで研究レポートを作ったのが仇となったか。
取り合えず、これ以上何もされないように物理的にパソコンを壊してこれからのことを考えないといけない。
私の考えたパソコンは電力でなく魔力で動いており、魔力を回線として情報を交換している。
電波みたいに張り巡らされた魔力が相互で干渉しているわけであり、こんなことが出来るのは隣接した土地に限られる。
だが、隣の隣、さらに隣の隣、と一度流出したら止められないのは明白だ。
「や~ば~い~よ~」
「うわぁ、マジの奴だ」
「ルミーナ、情報を持って来い!大至急だ!」
頭を抱えて唸りながら転がっているとちょうどよくルミーナが来たのですぐさま情報を持ってこさせる。
隣の領地に関する内容が入っているものだ。
主に山間部に囲まれるように位置して、大きな湖や山などの自然が豊か、王族の保養地に使われることが多い私の土地に隣接する土地は、言うほどの数はない。
もともと、王族の土地とのことで揉めることのない公爵が隣接している。
場所として二箇所、山と湖の方はパソコンを置いても干渉できる距離じゃないと思うので関係ない。
宝石で出来た壁の向こう側、二箇所が関係してくる。
結界があってもパソコンは出来るようにしていたから、パソコンから何かしようとしたのだと考えられる。
でも、ただの情報交換の魔道具なので内側から攻撃とかは出来ないので意味はなかった。
これが兵器とかだったら危なかった。
「持って来ました」
「派閥は、どこのだ」
「第一王子と第二王子です」
どっちもヤバイ所だった。
第三王子とかなら、ぶっ潰してやろうと思ったがどちらも報復を恐れる必要がある相手だ。
殺して終わりに出来ない面倒な事態である。
ここで怪しいのは教会勢力が後ろ盾の第二王子派閥、だが教会の爺がパソコンのシステムを解析してウイルスのプログラミングみたいなことを魔法で出来るとは思えない。
魔法に精通している者達が所属している、第一王子の派閥しか犯行は不可能だ。
まぁ、私が知らないだけで魔法に精通した教会の人間がいるかもしれないがその存在の可能性は低いだろう。
少なくとも、膨大な知識が必要だ。魔法に精通している宮廷魔法使いでも数人しか理解していない。
そもそも、私も何となくで作ったからおおまかにしか理解していない。
仮に宮廷魔法使いが四六時中、パソコンを調べ上げればウイルスくらい可能だ。
「第一王子の派閥しか出来そうないぞ、なのに勇者?教会じゃないと召喚する意味がないだろ」
「戦力になるじゃないですか」
「裏切るかもしれない可能性があるんだぞ、何もしなくても問題ないのにリスクを自分から背負うか?洗脳すれば運用し難くなるし、召喚するには奴隷を大量に生贄に捧げる必要がある。戦場近くでもないここじゃあ、勇者の強化は難しいぞ。力ない人間を一人拉致して、喜べるのは宗教家だけだ」
ダメだ、私には政治のことなんかちっとも分からない。
考えろ、何か理由があるはずだ。って、どっちがやったかも分からないのに無理過ぎる。
「では、自分自身はいらないって事じゃないですか。交渉の材料とか」
「相手の勢力が活気付く情報を送るか?一応、敵なんだぞ。自分達が不利になるじゃないか」
「じゃあ、外国とか」
「外患誘致!?内乱中に馬鹿かよ!いや、まだ可能性の話だからな……」
取り合えず理由は不明、しかし技術的に第一王子派閥の可能性が大。
どうするか、何もするなと言われているが知らない振りは出来ない。
後で私が苦労するからだ。
「チッ、確かめに行くか」
「外出ですか?」
「不本意ながらな」
動かない限り、ただの現状維持しか出来ない。
取り合えずどちらかが取ったかだけ調べて、後でローグに丸投げすればいい。
「装備よ、ここに」
呼びかけに応えるように、銀色の杖が回転しながら飛んでくる。
ふわりと背中にはローブがくっつき、独りでに着た状態へとなる。
空中からは落ちてくるように大きな三角帽子が動き出す。
私の赤いレースの服に、全てが装備されると同時にルミーナが窓を開けて後ろに付き従った。
「第一王子派閥の方、隣の領地、名前はなんだっけ?」
「グリム公爵領ですよ、あっちの方向です」
そう、と短く言葉を切って私はルミーナの服を軽く掴む。
そして、手に持った銀杖を額に当ててグリム公爵領をイメージし、転移と唱えた。
瞬間、周囲の景色は流れて線のようになり歪みきった景色が戻る頃には別の地点へと移動していた。
「これだけ近ければ、知らなくても行けるか」
「転移しましたか」
「行きますわよルミーナ」
特大の猫を被り、辛うじて道と思える場所を辿るように浮いて移動する。
それほど遠くも無いことから公爵の屋敷らしき物は既に見えており、人影も門の辺りに見えている。
見えているということは見られるということ、突如現れた私達に門番が驚き警戒していることが分かる。
「止まれ!魔法使いが何の用だ」
「貴方のご主人様に会いに来たのよ、通して頂けるかしら」
「ダメだ、許可無くこの門を通らせるわけには行かない!用があるならば、先触れを出して許可を貰ってからにしろ」
「そう、なら仕方ないわね。動くな」
無理ならば押し通ればいいだけの話しである。
魔法で肉体を動かせないように暗示を掛ける。
「何だ!?身体が動かないぞ!おのれ、魔女めぇぇぇ!」
「ッ!?何故、喋れる!」
暗示の効きが弱かったのか、呼吸を忘れて酸欠で倒れるはずだった門番が悶えていた。
たまたま、魔法に対する耐性のある体質だったのか。
それでも顔から下は動かせないようなので無理しても通れそうだ。
「フッ、少し驚かされましたが動けませんか。安心しました」
「ここは通しはせん!うおぉぉぉ!」
「そんな!」
そう思ったのも束の間、門番は自力で暗示を解除して私の前に立ちはだかる。
確かに、思い込みによる拘束なので自力で解除できなくも無い。
ただ、意思の力でそんなことが可能とは思いもしなかった。
もっと命の危機を感じたりしない限り、無意識に暗示に従うはずだからだ。
「ハァハァ……通しはせん、例え命尽きようとも通しはせんぞ!」
「やだ、この人怖い」
「恐ろしいほどの職業意識が、支配された精神を打ち破ったか」
「なんで、ルミーナはそんなに冷静なの?」
何だか関わりたくないタイプである。
ちょっと引いていると、ルミーナが私の前に出た。
「セレス様、ここは任せて先に行ってください」
「なんで死亡フラグ?」
「何、後から追いつきますよ」
「重ねてきた!」
「ところで、アイツを倒してしまっても構わんのだろ?」
「まさかの三積み!」
死亡フラグのオンパレードだった。
「例え息子にカッコ悪いと言われ様が、誇りに掛けて門は死守させてもらう」
「えい」
「ぐわぁぁぁぁ!?」
まぁ、ルミーナのワンパンで吹っ飛んで気絶したので普通に門を通過できたけどね。
息子さん、お父さんは頑張ってるよ。メイドにぶっ飛ばされてるけど。
「軟弱ぅ、軟弱ぅー!貴様の誇りなんぞ、この程度よ」
「うわぁ、ノリノリで悪役だなぁ……」




