旦那に魔女は弄ばれる
久しぶりにあった旦那様、ローグ=オーウェンという男が私の前にいた。
魔法使いオーウェン、なんか苗字だけ聞くとかっこいい奴だ。
もう前世で言えば高校生のような年齢、まだ学生のはずのコイツは私の屋敷に何故か来ていた。
そして、幾重にも張られた防御用の魔法陣。
私が認識する脅威に対して攻撃を遮断する為の防御用のそれは、例え矢や剣などの物理攻撃だろうが炎や雷などの魔法攻撃だろうが例外なく防ぐ物である。
にも関わらず、魔法陣はローグに対して機能していなかった。
ウイルス対策ソフト入れてるのにウイルスに感染した気分だよ!
なんでや、なんで魔法陣が仕事してないんや!
いつの間にか私の真横に来ていたローグはむぎゅ~と後ろから私を抱きしめていた。
スリスリと顔を寄せてくる物だから私の頬が上下に揺れる。
それなりに大きい胸なんか、お腹に回された手の上に乗って固定されている。
ガッチリホールドされていて、このままプロレス技でも掛けられるんじゃないかと思うような体勢だ。
だが、それ以上に触れられていることに驚愕して固まってしまう。
「何故に……」
「これはセレスに受け入れられたってことだよね~」
「いや、そんな筈は無い」
私は女の子が好きなんだ!
女の子を脱がしたい、寧ろ脱がされたい!
ならば、男を好きになるわけがないのである。
これは何かの間違いである。
何故に、コイツは私に触れられているんだ。
『警告、現在進行形で魔法による攻撃を受けています』
「お、お前!私に魔法を使っているな!」
「もう分かったの?そうだよ、無効化してたんだよ」
「ええい!離せ、離さぬかー!」
じたばた暴れるが、如何せんステータスの筋力とか持久力が低すぎて抵抗できない。
畜生、理力と技量極振りだから男の腕力に勝てない。
どうやら、現在進行形でコイツは魔法を解除しているようであった。
クソ、クソ、クソ!
「えっと、そんな顔されると流石に傷付くんだけど」
「うっさい馬鹿、こっち見んな!」
「あっ、知ってるこれがツンデレだよね。痛ッ!?ごめん、やめ、ごめんってば」
くっ、腕力のない自分が悔しい。
殴ってるのに全然、痛そうじゃないのでムカつく。
何で非力なんだよ、女子だって強い奴は強いじゃんか。
「はぁ……で、なんでいるんだよ」
「あっ、諦めたの?」
「私は無駄なことはしないのだ」
いいよ、もう大人しく抱っこされてやるよ。
だが、今だけだからな!いつか、強力な魔法をブチ込んでやるからな。
「それは怖いな」
『警告、現在進行形で魔法による攻撃を受けています』
「読心術!?お前、現在進行形で魔法行使やめーい!」
「やっぱり気付くの速いな、なんか仕込んでるな」
してやったりと、何だかドヤ顔してくるローグの顔が私の真横にあった。
クソ、屈辱である。なんだコイツ、メンタリストかよ。
「まぁ、伊達にゼミ生になってる訳じゃないからね」
「ゼミ生?ゼミでやったところが試験に出る、あのゼミ?」
「セレスは時々何言ってるか分からないなぁ~」
「っていうか、こんなに馴れ馴れしくなかったじゃん!何で触ってくんだよ、死ねよ」
私が睨みつけると、ローグは微笑を返してくる。
コイツ、もしかしてドMか?寧ろ、ご褒美なのか?
「まぁ、落ち着いて話そうじゃないかケーキ食べる?」
「…………食べる」
「だと思ったよ、王都で流行ってるらしいんだよねぇ」
おう、良いからケーキ出せや。
ケーキはよ、ケーキはよ!
「イチャイチャしやがって」
「待てルミーナ、私は」
「はい、あ~ん」
「あ~ん、むぐむぐ……おぉ美味!」
「説得力なさ過ぎですよ」
何だかルミーナの中の尊敬度が低下している気がする。
私の威厳、何処行ったのやら……
「そんなことより旦那様はどうして此方にいらしたのですか?」
「いい質問だ、メイドちゃん」
「メイドちゃんって……」
ルミーナが面倒そうに、仕方ない風に質問するとローグが思い出したという体で目を開き反応した。
そして、私の様子を何故か見ながら口を開く。
まるで、聞いてる?と問いかけるように覗いてくるのだ。
ちゃんと聞くよ、はよ話しなさいよ。
「うん、実は政治のお話なんだよね」
「へー」
「君達興味ないみたいだけど関係あるからね。ぶっちゃけると、この国で内乱が起きるかもなんだよね」
「えぇ!?」
吃驚して、思わず声が出る。
近くで遊んでいた子供達が、何事と此方を見るほど大きな声だったらしい。
ただ、何らかの魔法でも仕掛けてるのか何でもないように元通りに遊び始めた。
普通、寄ってきても可笑しくないのにだ。
「あぁ、子供が気になるのかい?人払いをしてるから大丈夫だよ」
「だと思った」
「で、話の続きだけどね。まぁ、王様が病気になったのが原因かな」
魔王が出て人類が困っているのに何をしているのやら、頭可笑しいんじゃないかな。
と思ったけど、私の国って前世基準だとみんな頭が可笑しいわ。
「まぁ、対処法はあるはずなんだけど王様ってば普通に死ぬことを選んでね。何か思惑があるのかもしれないけど、いい迷惑だよ」
「そんなことしている場合じゃないでしょ」
「う~ん、遠い異国の話だから危機として認識してないんだよね。まぁ、魔法使いがいれば何とでもなると思ってるんだよ」
そう考えると、確かに対岸の火事みたいに危機感はない。
私だって魔王がどんなもんか分からないし、負ける気はしない。
所詮はモンスターという考えが根底にあるのかもしれない。
「でも、魔法も技術だからね。驕ると足元を救われるものさ。セレスだって、魔法を無効化されたら女の子なんだよ」
「うるさい、次はもっと完璧なセキュリティーにするし!セ○ムするし!」
「それで、あぁ脱線してしまった。えっと、そうセレスの話だ」
一言余計である。
私達は催促するようにローグの方を見た。
それによって、ローグは続きを話す。
「あまり関心がないことに疎いのは良くないよ。どこに魔法に繋がる知識があるか分からないからね」
「小言は良いから要点を纏めて」
「はぁ……まず最初に、君のことは暗部の人間が調べてるからね。バレないと思ったら大間違いだよ。それが原因でもあるかな」
ローグはそう言って、指を三つ立てて説明を続ける。
「派閥の説明、内乱の首謀者は第二王子。兄貴が、王になるのが許せないって言う良くあるパターンね。それぞれ支持基盤ってのがあるんだけど、その支持基盤が厄介でね」
ローグは支持基盤について話をする。
難しいけど、選挙みたいなものらしい。
第一王子には有力貴族、第二王子には宗教団体、第三王子は残りとなっているらしい。
「順当に行けば第一王子、でもねセレスが関わると王弟派が逆転することも出来る。例えば、勇者を召喚するとかね」
「召喚するとダメなの?」
「うん、宗教団体の権威が上がるからね。逆に第一王子に付くと、漏れなく軍部は付いてくるね。武力としての一面をセレスは持ってるから」
「じゃあ第三王子に付けばいいの?あのクソ餓鬼に?」
「それも実はダメなんだ。アレで、結構やり手なんだよ。平民っていう支持者がいるからね。個人の力は弱くても、数は力だ。君が第三王子に付けば、間違いなく暗殺者が動くね。世論というのは一番厄介な物だからさ」
なんで暗殺者が差し向けられるのか分からないけど、ローグは嘘吐かないし本当のことなんだと思う。
じゃあ、私はどうしたらいいんだろう。
「だから、今日はお願いしに来たんだ。どこにも付かないでってね」
「うん、分かった」
「まぁ、後で大変なんだけどね」
「えっ!?」




