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やっと魔女は勇者を召喚する

城に帰るとうめき声がした。

それはもうおぞましく冒涜的な苦しみの声である。

声だけでここまで不快にさせるとは、恐らく悪魔の声に違いない。

やめろや殺すぞという言葉が城中に響き渡る。

どこもかしこも神に祈っているのは宗教国家の特徴か、音の発信源へと私は近づいていく。


「インゴールブルは言った、汝は誘惑するが私は戒めると、人は神の手を取り悪魔は燃えるように苦しんだ」

『やめろ!知らぬ、そんな話は聞きたくない!』

「インゴールブルの瞳に写る悪しき者は断罪の眼差しに晒され、苦しみ悔い改めた」

『誰だ、やめろ!その名を口にするんじゃない』

「悪魔よ、悔い改めここにサインしなさい」

『分かった、だからもうやめろ!いいな、これは契約だ!』


私が部屋のドアを開けると、聖書の朗読会みたいなのが行なわれていた。

読み手はこの国の伝承について書かれた聖書を持ったアマーリア。

聞き手は貼り付けにされた、くたびれたサラリーマンのような姿。

おいおい、現代人か?いや、何かが可笑しいな……


「ただいま」

「あぁ、セレス様!今、ちょうど終わったところです」

「何をしていたんだ?」

「人々の信仰を使って、拷……お話してたところですよ」

「そうか」


お話だと、アレが対話だと言うのか!と悪魔が叫んでいるが、悪魔の甘言は耳を貸さないことにする。

甘言ではないかもしれないけど、ガン無視である。

アマーリアの手には、人の手首のような物があってそれはシンボルらしい。

この国の神様は十字架ではなく手首がシンボルなのか、それって殺人鬼とかじゃないよね?


「おもしろいですよ、こうして当てるとですね」

『イギャァァァァ!?何故だ、約束と違うじゃないか!』

「口約束は無効です。契約書に書いてあったでしょ?読まないほうが悪いんです」

『読む時間をグガァァァァ!?』


やめたげてよぉ、手首が触れるところから皮膚が溶けているんですけど。

絶対痛いよ、うわぁ見てるだけでも痛い。


「セレス様、騙されてはいけません。これでも高位の悪魔、無害なる者と呼ばれる存在です。相手の無害に思える姿で現れるコイツは全てが演技なのです。無害さの演出が、この叫びなのです」

『ち、違う!本当に、痛いんだ!やめてくれ、それは本当に効く』

「だそうだけど?」

「例え相手が祖母の姿をしていても、眼球が溶けていく様子などは偽りの姿。プロですから、騙されませんよ」


アマーリアには実の祖母に見えるのか。

それなのに、そんな姿を見せても容赦しないとはプロだな。


『鬼か!普通、肉親の姿ならやめるだろウギャァァァァ!?』

「じゃじゃーん、手形なんか付けてみました」

「絶対遊んでるよね!悪魔で遊んでるよね!」

「ちょっとした茶目っ気ですよ」


茶目っ気で焼印の如く皮膚を溶かされる悪魔がかわいそうである。

とはいえ、知る人もいない古き悪魔を使役したとのこと。

たとえ既に知名度も無かろうとも、新興宗教の神の権威は有効だったらしく効いているらしい。

まぁ、悪魔にとってすれば百年前も千年前も最近ってことになるのかもな。

そして、アマーリアの交渉術により悪魔は無報酬でアマーリアが満足するまで仕事をする契約を結んだらしい。

これで、しばらくは不眠不休で働く人材が手に入ったとの事、私にはアマーリアの方が悪魔に思えてきたよ。


でもって、勇者の魂をコーティングする材料の目途も立った。

それは、今なお死んでいく戦場の魂である。

戦場で霊魂となっている者は数知れず、ミキサーに掛けるみたいにグチャグチャに混ぜて純粋なエネルギーとして利用するならば結構な量であるからだ。ちなみにミキサーに掛けるみたいな工程は意思を剥奪する為に必要な作業である。


悪魔、無害なる者がいうにはそうやって取り出した魂は善と悪の二つに分けられるそうだ。

純粋な善と純粋な悪、どちらも歪な存在で自然界ではありえないらしい。

悪魔はこの不純物である善の部分がない悪の部分を好んで摂取するらしい。

でもってポイ捨てされた善の魂は天使が回収するんだと、ハイエナみたいだな天使って。


「善魂の中に少しでも悪魂がないと人間として不完全ってことですね」

『そうだけど、なんかコレステロールみたいに言うのやめてくれない?』

「皮肉なもんだな、戦争の被害をなくす勇者が被害なくして生まれないなんて」


まぁ、そう考えるとピンチになってから勇者が召喚されるテンプレな感じにはそういう理由があったんじゃねって思えてくる。

とにかく、勇者を召喚しようと思う。


「が、その前に本当に召喚できるのか小さいものから試していく」

『俺様が異界の魂を持ってきてもいい、どうする?』

「あっ、逃げようとしてますね!お仕置きです」

『ンンンンン!?ゲホッ、ゴホッ!?』


おいおい、口の中に手首突っ込むなよ。

グロすぎて怖いわ、歯茎溶けてんじゃねぇか。

まぁ、それは置いといて練習である。


「我が名は魔法使いセレス!開け開け開け、異界の門よ。世界を重ね、交差し、反発し、拒絶の意思を破却せよ!汝が身を求め、我は呼び寄せる!我が声に従い、異界より来たれ!」

「おぉ、これは……本?」

「しゅごい、成功だ!週間誌だ!」


思わず言葉が舌足らずになってしまったが、何年ぶりだろ週間誌である。

勇者よりも週間誌だよね。私が実験したかったのは異界からの召喚で、メインは異世界の物だからね。

おぉ、私が生きていた頃より大分経っているのに、まだ休載中?

こっちは、いつの間にか連載終了して子供が主人公になってる。

こいつらは相変わらず海で好き勝手冒険しているな。

それに、これはいつもどおりオサレだな。


「読めるのですか、セレス様?これは、図鑑でしょうか」

「あぁ、この絵が魔法でふきだしが呪文である」

「く、口から炎が出てます。凄いですね、異世界人って」


私のせいで異世界人のハードルが上がってしまった。

頑張って口から火を吹いて欲しい。


「って、そうではありません!勇者ですよ、勇者!」

「まぁ、待て。私は作者のコメントまで見る派なんだ」

「何の話ですか!」

「なんだったら、裏表紙の怪しいグッズまで見るからね」

「本ばっかみてないで、協力してください」


うるさいな、やろうと思ってたよ。

でも、はぁぁぁぁぁ。

なんか、アレだよ。やろうと思ってたのにやれって言われるとやる気がなくなるっていうか。


『こいつ、マイペースだな』

「うるさい」

『アガァァァァァ!?目が、目がぁぁぁぁ!』


しょうがないな、目潰しくらいで悪魔もうるさいことだし召喚するとするか。


「ちなみに、魂は全部使え。なんかもったいないから」

『良いのか?人間にとって悪の部分は必要ないものだろう?俺が食べてもいいのだぞ』

「本音は?」

『質は悪いけど結構な量だから食べたい』

「却下」


案外気さくでノリのいい悪魔である。

ハッ!これが悪魔のやり方か、親しくなって後で騙すきなんでしょ!詐欺師みたいに!


『おい、なんだその目は?やらしい者を見る目で』

「自分の胸に手を当てて考えて見なさい」

『何が!?』


フン、まぁいいさ。

お望みどおり召喚してやる。


「ワクワクしますね」

「あぁ、好みのイケメンを召喚するからか。アマーリアの」

「もちろんです。定義を追加しましたからね」


私も異世界から幼女をと思ったけど、かわいそうだからやめたんだよね。

大丈夫かな、拉致だとか騒いだりする相手だったりして。

まぁ、なるようになるかな。


「それでは召喚を始める。呪文は雰囲気なので以下略で、召喚!」

『雑だなおい!雑誌の時の方が丁寧だったよ!』


それでも魔法は成功する。

魔法陣がゆっくりと光を増していき、ついには部屋を光で包み込むほどに輝いたところで雷が室内に落ちるように轟音を響かせ部屋を揺らす。

そして、眩しい視界が回復すると魔法陣の上に二人の学生が立っていた。

成功である。


「ここは……」

「お待ちしておりました、勇者様」

「君は一体……」


はいはいテンプレテンプレ、後はアマーリアに任せて続きを読もう。


「今週号がなんでここに」

「うん?」

「…………」

「気のせいか」


なんか勇者の連れが呟いた気がしたけど、ほっとくことにした。


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