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いつも魔女は風呂に入る

杖無しで魔法を発動させてから、私は古典的修行方法をやりまくった。

この古典的修行方法とは、私が見つけた小説の主人公みたいな命がけの修行だ。

要するに魔力切れを意図的に起こしてぶっ倒れるという物だ。


人体に危険はないのか、もちろん私は調べた。

調べた結果、面白い話を見つけて私は自分の見つけた修行法が正しいと判断した。

ある傭兵が戦場で魔力切れを起こして奇跡的に生き残ったら、魔力量が爆発的に上がっていた。そんな話がたくさん見つかったのだ。

要するに、死ぬかもしれないが死んだ例は少ないと思う。

そして、魔力切れからの復活は修行としての効率がスライムを倒すよりメタルスライムを倒すくらい良いのである。


と言う訳で、魔力量が上がると分かった私は今日も修行である。

ちょっとだけ、ちょっとだけである。使いたい魔法の魔力量が溜まったらもう危険な修行をやめるつもりである。


「……うっぷ」


手と手の間に魔法で水の珠を作り出す。

それを維持し続けれ魔力を消費し続ける修行を私は行っていた。

何で浮いてるとか綺麗な球体なのかは分からないが、これはそういう物と受け入れる事が大事である。

因みに、どうやら魔法と言うのは使用時間に比例して魔力の消費が増えるようであった。

恐らく修正しようとする世界の力が増大するからだ。

頑固な油汚れに主婦がゴシゴシするように、世界の方が魔法を消そうと必死になっているのではと想像している。


「うっ……」


修行も中盤に差し掛かると、体調に変化が現れた。

ちょっとした吐き気と頭痛がしてきたのだ。

なんかクラクラするし、普通の魔法使いは魔法を止める。

この状態は魔力が少なくなって危険ですので休憩しましょう、と医学系の本に書いてあるくらいだからだ。普通はみんな止めるのだ。


「フヒヒ……」


でもやめない、どうせちょっとした危険を大げさに書いてるだけだ。

確かに気持ち悪いけど、我慢できない程ではないからだ。

そのうち、幻聴や幻覚が出て来るがこれも問題ない。

別に幻聴や幻覚だって自覚していれば怖くないし、本に気が狂うって書いてあるが現実と混同しなければいい話である。

前世でゲームが身近にあった私は、今見ている光景が現実でないと割り切れる。

目の前に巨大なネズミが高笑いして、アヒルと犬が立ち歩いて杖やら盾やら持って居るが現実でないと分かっている。

ただ、ちょっと部屋の中が夢の国になっているだけさ、ハハッ!


「オエェェェェェ!」


遂に吐き気や悪寒、発熱に頭痛が同時に起きるがこれも問題ない。

二日酔いとかインフルエンザみたいな物である。今はキツイが結局直るのだから大丈夫だ。朝食を取って無くて良かった。


「ハァハァ……」


魔力が切れそうになってくると、今度は急激に眠くなる。

同時に生存本能なのか、ちょっと……っていうか、かなりエロい気分になる。

こうなったら、部屋の布団に潜り込んで寝るだけだ。

ムラムラするけど、これは子孫を残そうとしているんだろう。

魔女を口説くなら魔力切れしそうな時がいいな、そんな変な感想を抱く。


「んっ……はぁ、んっ……」


おうふ、ちょっと自分でも悩ましいと思ってしまう声が漏れてしまった。

それが更に私の欲求を加速させて……

気付けば、朝になっていた。夜に修行して、気絶する様に眠る。

そして迎える、いつも通りの朝である。


「風呂、入るか」


早朝、私は汗でベタベタになっている身体を洗うために部屋に用意した特注の巨大な壺の方へとテクテク歩いて行く。


「いやぁ、歩くの怠いわ……今度、空中に浮く魔法とか開発しよう」


右手に水を、左手に火を、発動させて壺の中に叩き込む。

本に相反する属性がどうのとか異なる魔法の同時行使はどうのこうの、要は出来ないと書いてあったが頑張ったら普通に出来た。

というか、この世界の本って基本的に嘘しか書いてないと思う。

情報社会で生きてきた私に自論を認めて欲しければ、作者は情報のソースだせよって話だ。

まぁ、そんなどうでも良い事を考えていると風呂に湯が溜まった。


「よいっしょ、さてと」


服を脱いで壺の中に入っていく。

あぁ、これだよこれ、ヌクヌクして風呂は最高だわ。

私は入浴タイムを楽しんでいた。


どうして浴場に行かないで部屋で風呂に入っているのか、その答えは浴場がないのである。

一応、魔法で作った水で体を拭く習慣があるんだけど私みたいにお湯を溜めて入る習慣はない。

っていうか、基本的に風呂が嫌いな人が多くて大抵の人は身体すら拭かない。

何でも水は毒があるらしい、それにお湯をそんな事に遣うなんてとんでもないという感覚みたいだ。


「だから引き籠りになるんだよ。みんな汚いし、っていうか風呂に入らないって何なんだよ」


何か臭いし、マジで意味わかんないわ。

いや中世だから仕方ないのかもしれないが、不潔すぎる。

毎日風呂に入りたいって壺を注文した時に、狂ったくらい潔癖症とか言われたけど、周りが汚すぎるのだ。


しかし、仕方ない事かもしれない。

中世に限らず、近世、日本で言えば明治ぐらいまでシャンプーは無かったと聞くしな。

汚れを落とす魔法とか作りたいな。小説とかでよくあるけど、どういう原理だよ。

原理とかないのだろうか、ないんだろうな魔法だもんな。


「……出るか」


あぁ、身体拭くの怠いわ。ドライヤーみたいな温風が欲しい。

全身から温風でないかな、何でいちいち合成させないと出ないんだよ。

最初からお湯とか温風とか出ないのかな。


「いや、もう出来る出来ないじゃなくてやるしかないわ」


水が垂れた状態で、私は絨毯の上に立って仁王立ちで目を瞑った。

イメージするのは、全裸で乾いた状態の自分。

魔力が抜けて行く感覚がやってくる、これは出来るという確信が生まれる。

グオン!っと唸るような音がした。そして、私の全身を暖かい風が撫でるように対流する。


「あっ、出来た」


こうした私はまたしても新しい魔法を開発したのだった。

なんだよ、やっぱりやろうと思えば人間何でも出来るな。

うんうん、と自分の行いに満足しているとノックもせず部屋の扉が開けられた。

其処には私の杖を片手に持った、双子の弟カーマインの姿があった。


「姉ちゃん、あの――」

「…………」

「何してんの?」


弟よ、その前にノックしないで部屋を開けるんじゃない。

確かに私はガサツで男っぽいかもしれないが一応女であるのだぞ。


「取り敢えず、服着るから待ってて」

「あぁ、風呂か……相変わらず、潔癖症だな」

「アンタ臭いわよ、ちょうどいいから入りなさい」

「えー」

「入れ、潰すぞ?」


私の一言にガクガクしながら服を脱ぎだすカーマインの姿がそこにはあった。

どうしたんだろうな、姉か兄か決める戦いの時の光景でも思い出したのかな?

確かにアレはやり過ぎだと思ったが、姉ちゃんには付いてないから痛みが分からないので謝りませんよ。


「もういい?いいよね?」

「まぁ待て、杖もある事だし新しい魔法を試してやる」

「ちょ、何をする気!?うわ、やめろ!」

「おぉ、カーマインよ泡だらけになるとは情けない。この魔法はシャンプーと名付けよう」

「そんなんいいから!うわ、何か泡のせいで目が痛い!なんだこれ、目くらましの魔法か!」



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