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召喚して魔女は考察する

何度目かの召喚が行なわれた。

前回はゲル状の何かを召喚したが、今回はどうなるのか。

新しい条件付けを追加し、また今まで余分だと思われる定義を減らした。

そして、召喚される対象を選定、今回はそれほど難しくない条件だ。

人型で未知の世界であり、知性を有している。

この知性の部分に、魔法の知識は今回は組み込まれていない。

よって、魔法のない世界の生物が召喚される予定だ。


「本当に成功しますかね?」

「なんだ、アマーリアは失敗すると思っているのか?」

「私の考えでは召喚術は穴を空けるようなものなのです。つまり、世界に穴を開けて重ねる訳です。重ねる訳ですから、世界同士には類似性があるはずでして」

「要するに、魔法の存在しない世界とはそもそも重なることがないと言いたいのか?」


確かに、召喚される生物は何かしらの魔法を使える。

悪魔しかり、天使しかり、死者や精霊すらだ。

前提条件として、世界に類似性を求めてしまうのだろう。


「君の考えにしては、随分と不思議なことを言うじゃないかアマーリア」

「だって、魔力のない生命体はいないのが常識ですよ。つまり、どの世界にも共通して魔法はあるはずです。魔法がないという発想は突飛ではありませんか、そんなの小説の世界の話ですよ」

「あぁ、スチームパンクな世界を書いた小説の話か。どうだろうね、私の予想ではそれより発展している世界だと思うけど」


どちらかというと、発展と言うよりは蒸気ではなく電気ルートの世界だけどね。

まぁ、ともあれ召喚実験を始めるとしよう。


「私の魔力を持ってしても一日に一回が限度だ。失敗は許されないぞ」

「大丈夫です。どんな条件設定でも、平均の約百倍近い魔力ですよ。不可能なんてありません」

「だといいのだけどね」


魔法陣に魔力を注ぐと、ガリガリと削れて行く気分になる。

自分の中の物を抉られるような感覚、物凄い勢いで魔力が減っているのだろう。

同時に、何かに抵抗されるように力が入りきらない感覚も味わう。

重い物を持ち上げるような感覚に近いそれは、恐らく世界による修正力だ。

私の願いと世界の願い、世界を改変したい思いと現状を維持したい思いがぶつかっているのだろう。

だが、それでも、私の魔法は成功する。

魔法陣が輝きを増し、部屋が閃光に包まれる。

そして……


『あぁぁぁぁぁぁ!?』

「召喚成功!」


魔法陣の上に、人が現れる。

質のよいシルクのシャツを纏い、謎の繊維のジャケット、皮のズボンに、カラフルなネクタイ。

そこには現代人がいた。


『がぁぁぁぁぁ!?』

「そんな、どうして苦しんでいるの!?環境が合わないのかしら」


歳は三十代くらいか、何故か同じ商品を大量に持っている。

散乱しているのは、赤ちゃんの紙オムツ。

顔立ちは、よく見たら中国人かな?

何故か、日本札を沢山持っているが私の知っているものとは違う。

何で五千円と千円の絵柄が違うんだろう。

誰だコイツ、夏目ちゃんはどこいった。

なんかおばさんになってるし、五千円っておっさんだったような。

私の生きていた時代と違うのだろうか?

あっ、諭吉は諭吉だ。


私がお札を注意深く、目を細めながら見ている傍らではアマーリアが孤軍奮闘していた。

心拍数が、呼吸が、体温が、血圧が、なんか医療ドラマの修羅場みたいだな。

そう思える感じで色々な問題が発生して、その原因に対処する姿が見えた。

まぁ、長く苦しめるなんて鬼畜だと思うよ。


男はもがきながら、暴れていた。

まるで、水中にいるかのように何かを求めて手を動かす。

自分の首を押さえたと思ったら、今度は嘔吐したり、はたまた痙攣したり、失禁などもした。

自分の服を脱ぎだしたと思ったら、今度は自分を抱きしめるように震えたり、意味の無い言葉を発する。

そして、最終的に苦痛に塗れて死んだ。


「あぁ~死にました」

「それより、情報を得よう。後でソレは解剖するから、保存しといて」

「私、史学とか医学はこれっぽちも勉強してないのでセレス様がいて助かります」

「私も齧った程度だよ」


というか、この世界の医療とか遅れてるからね。

傷口に馬糞を塗ったり、血を抜いたりする事が治療だったりする。

外科手術や投薬治療なんてした日には異端者として火炙りである。

まぁ、私には関係ないけどね。


「解析、分解、再構築」

「これは何でしょう、異界の文字ですね。複雑な絵と角ばった印、丸い文字?ツルツルして丈夫な素材ですね、精巧な赤ちゃんの絵、人工物でしょうか?中身は、パンツかしら?」

「ふむふむ、なるほど」


アマーリアが紙オムツを広げて、パンツ?パンツ!みたいな意味不明な行動をしている横で私は魔法を行使していた。

言葉に連動するかのように三つの魔法陣が現れ、一つ目の魔法陣が地面と垂直になるように浮かび上がり横になっている死体の頭から足先に向かって透過していく。

CTスキャンをイメージした魔法なので、そんな動きになる。

それに伴い情報を魔眼で解析、さらに次の魔法陣が肉体を原始レベルに分解、最後の魔法陣が何も無い床をなぞる様に動くと、肉と骨と皮膚がバラバラになって再構成される。


『肉体の構成率は一致しました。この世界の人間と同じ構造です』

「そうか、じゃあ生きるのに必要な器官がないわけじゃないのか」

『魔力反応はあり、魔力を生成、吸収、行使も可能です』

「なるほど、本当に同じなんだな」


魔法のある世界だった可能性が現れた。

また、魔法が全ての人間に認知されていない世界の可能性もである。

一番、不思議なことは死体から出て来る筈の魂が無いことである。

魔力が少なく意思も希薄なのでゴーストにはなれないだろうが、それでも残留思念を伴った雑霊として出るはずなのだが。


「消失した?どこに?元の世界にか」

「大発見です!見てください、この絵の部分!パソコン内部のルーンに似ています!いえ、アレはルーンと言うよりはセレス様の独自言語ですけど、それに近いかもしれないです!つまり、これは魔道具なのです!」

「アマーリアうるさい、ちょっと黙ってて」

「あっ、はい」


ちなみにソレは魔道具でなくて紙オムツです。

でも、私の日本語とパッケージの文字が同じもんだとよく気付けたな。


「物質界に存在する物に異常はない。だとしたらアストラル体の異常か?」

「あすとらる体?」

「この世界に中身が合わなかった可能性が高いな。物に異常はないことから、魂が無ければ問題ないみたいだし」




次の日。

仮説の検証として人型以外のものを指定した結果、乗用車が召喚されて中の生物が死んでいた。

四人家族で旅行にでも行こうとしていたのか、私の求めていた人以外の生物である、動物もいた。

ペットの犬が子供に抱かれる状態で死んでいたので、人間以外も死亡するようである。


「うわー、何ですかねこれ!分解しましょう!うわ、死体が臭いですね」

「犬も死んだって事は人だからという訳で無く、アチラの世界にいる生物自体がダメなのか。次は魂を召喚してみるか」

「これは……未知の薬品!何ですかね、ベタベタしますね。鉄!鉄で出来ていますよ!これは布、中に綿が詰まって、うわ何か出てきた!?」


アマーリアがエアバッグで遊んでる傍らで、再度実験を行なう。




次の日、今度は霊体の召喚、これで霊体が苦しめば魂に問題が発生していることが分かる。


『うがぁぁぁぁぁ!』

「あっ、消えましたね」

「やはり、魂に影響が出ていたのか」


霊体で召喚した物は、輪郭がぼやけて召喚と同時に霧散した。

女なのか男なのか、人型の白い何かとしか認識できない程度の物で、溶けるように消えていった。

どうやら、異世界の生物は魂がこの世界に適応出来ない物と判断できた。


「勇者は魂も強いことが条件ですかね」

「魂に根性論が適応されるのだろうか?」

「此方の世界のゴーストと異世界のゴーストの違いを見つけないといけませんね」




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