大きくなって魔女は戦いに出る
訓練所でやると言ったな、アレは嘘だ。
「どうしてこんな……」
「面倒なことになりましたね」
ガクガクブルブル、とルミーナに抱えられた王子が震えている。
脇から手を入れられて、王子はぶらーんとしている。
なんで王子が震えているのかと言うと、最初は身内だけのノリだった催しが国家事業に変更されたからだ。
何でそうなった、言え!その答えは宮廷魔法使い達のせいと王様の思惑のせいである。
余りの大事に王子もビビッているぜ。
ちょっと兄貴を凹ませたい第三王子のルドルフ君は身内だけの魔法大会を提案しました。
そこから、私が一番ですやらなくても分かるでしょ、なんだこの野郎お前こないだ俺に負けただろ、そんなのは知らないです、今から決着着けてやる、みたいな感じで各所で争いが勃発。
王様は頭を抱え、業務に支障が出ていることや国家での興業で魔法大会を開けば稼げることに気付く。
じゃあ、お前ら公の場で白黒付けろよ、そしたら誰が勝ったとか負けたとかハッキリするだろ。
次いでに、魔法学校の奴らを呼んで宮廷魔法使いがどんなもんか見せてみろよ。
あと国民からお金をとって、それと他国がキナ臭いから戦力を見せ付けるわ。
と、お爺様が言うには色々な思惑が重なったらしい。
「本当はちょっと、見返すだけだったんだ。それなのにこんな大事になるなんて撤回しよう。もし負けたら、僕の評判が落ちる」
「王子、王族が一度言った言葉を反故してはダメです。あと、もう事業計画は進んでるのでいまさら無理です」
予算が動いて、関係各所も準備して、職人さん達がえっちらほっちら工事しているんだ。
今更、やっぱ変更とか国民が猛反発するよ。
要するに、オリンピックみたいなことやるんだと思うよ。
そうか、私もオリンピック選手か。
「本当に勝てるんだろうな、勝たないとダメなんだからな」
「大丈夫です。それよりルールの抜け穴を探しましょう、プロならそれくらい常識です」
絶対裏技ってあるもんだから、何かしらあるでしょ。
狙い目は魔法製作物の持ち込みとか武器、触媒の持ち込み。
触媒に使おうと思ってたドラゴンが偶々相手を焼き殺すとかありだと思います。
いや、ほら素材は新鮮なウチがいいしね。
「お前、外道だな」
「そうです。そんなことより相手の家族を人質にした方が低コストです」
「ルミーナ、お前天才かよ!」
「お前ら、外道だな!」
はぁ、何言ってるの王子、戦争は始まる前から勝負なんだよ。
というか、魔法使いなんて倫理観のすっ飛ばした奴らなんだから正々堂々戦う訳がないはずなんだ。
うん、神秘の秘匿がなんたらって前世の知識で言ってる。魔法使いは目的のためなら手段は選ばないってな。
「それに、この戦いはもはや権力闘争でもあるわけです」
「何だと?」
「どこどこの派閥がどうのこうの、色々あるんです」
私は政治が面倒だからお爺様に任せてるけどね。
お爺様の派閥って感じらしいよ、良く知らんけど。
「そうだったのか。知らなかった」
「おい、王子。お前、王族だろ」
あの宮廷魔法使いのいる派閥は良いぞぉ~みたいな評判に繋がるわけだ。
あそこはダメだな、みたいな場合もある。
結局人は、金、暴力、権力、に支配されているのだ。
因みに今回は暴力な。
「取り合えず、準備をします。幸い、時間は沢山ありますからね」
「作戦はあるのか?」
「まぁ、色々考えはあります。闘技場を作る時間の分だけ出来ることはありますから大丈夫です」
「本当に~?」
「何だその顔は、剥ぐぞクソ餓鬼が」
「や、やめろよぉ……」
そして、半年の月日が流れた。
剣闘士が普段使う闘技場は、半年の月日を掛けて魔法使い達が戦えるようになった。
魔法が当たっても、床が壊れないように魔法で処理が施されたのだ。
剣闘士は魔法使うの禁止されてるからね、闘技場は元々魔法に耐えられる代物じゃなかったんだ。
お陰で地面を操作したり出来ないけど、そういう時のための持込ルールである。
「王子、これが私の準備した物です」
「おい、お前……」
私の前にズラッと並ぶ五人の男奴隷。
手には武器を持ち、背中にはリュックを背負っている。
その中にはルミーナが一人混じっており、一人だけメイド服なので目立っている。
「物って言うか者じゃねぇーか!人だよ、持ち込み物じゃないよ!」
「王子何年生きてるんですか、奴隷は物ですよ。合法です」
「いや、流石にダメだろ?ダメだよね?」
知らない、それは実際に持ち込んでからのお楽しみである。
それに勝てばよかろうなのだ。
私は豪遊するぞ、優勝して豪遊する。
部屋に引きこもって魔法の研究するんだ、その為に引き篭もる部屋を作る資金を手にするのだ。
「おぉーセレス様、はやーく優勝して夢のマイホーム欲しいでーす」
「何故に外国人風?」
ルミーナにツッコミながら闘技場に入場である。
対戦相手は知らない、名前とか覚えてないオッサンである。
さらば名も知れぬオッサン、マイホームの為に死んでくれ。
これが闘技場かぁ、と周囲の建物を見ながら私は入場する。
レンガの積み重なった石の通路を抜けると、ローマのコロッセオかよと言いたくなる観客席が見える。
普段は剣闘士達が使うフィールドには若干だが魔力が通り、私には淡く光る地面に見えた。
そんな私と対極に位置する場所に、対戦相手はいた。
黒いローブを棚引かせ、手には牛かなんかの骨が付いた杖を持っていた。
周囲には、大小様々な動物みたいなモンスターが侍らされており、生意気にも畜生の分際で此方を威嚇している。
因みに動物は魔法が使えない、モンスターや魔物は魔法が使える生物である。
「ふん、神聖な魔法使いの戦いに下賎な――」
「炎よ、対象を焼き尽くせ!」
話しかけてきた瞬間、丁度詠唱が終わったので魔法を発動する。
といっても、私レベルになると杖も詠唱もいらないんだが、あればあるだけ楽と言うことだ。
「ちょちょちょーい!何してんの、えっ、まだ始まってないよね!?何で攻撃してんの」
「あれ、何でいるんですか王子。王子、観客席に行ったんじゃなかったんですか?」
「行く暇もなく攻撃してるお前が、それ言う!?」
「全く、間近で見たいんですか。子供ですね、大丈夫です。私が魔法で守ってあげましょう」
「あ、コイツ話聞かないタイプだ」
いいえ、敢えて聞かないタイプです。
私がヤバイと思った時の盾になって貰おうかなと。
「大丈夫です、死んだら可愛い女の子のホムンクルスにブチ込みます。実証もしました。それにいいですか王子。こういう時はやったかというんです、そうすると無傷で大抵の敵は出てきます」
「出てこねーよ!良く見ろ、倒れてんじゃないか!真っ黒、焼死体だよ!観客も吐いてるよ!」
「馬鹿な、この程度の魔法で」
あっ、本当や。
焼死体が出来上がってやがる。
でも、可笑しいな死体からゴーストが出てきてないぞ?
「よもや、初手で見破られるとは油断したぞ」
「キャァァァ、シャベッタァァァァ!」
「セレス様、アレはマンティコア」
いきなりモンスターが喋って、びっくりしているとルミーナの冷静なツッコミが入る。
マンティコア、ライオンのような身体、コウモリの羽、サソリのような尻尾に人面のモンスター。
知能は高く、助けてーと泣き声を上げて助けに来た人間を襲う人語を使う狩りが得意。
そんなマンティコアが、前に出てきたかと思うと徐々に二足歩行となって全裸のオッサンへと変わっていった。
「我が変身魔法を見破られとは思いも――」
「何で全裸なの、恥ずかしくないの?」
「全裸でドヤ顔って無いわー」
「は、話を聞けぇい!」
憤慨するオッサン、しかし私はこれでも淑女。
会場でオーとかワーオとか聞こえるけど、そんな欧米風なリアクション知らない。
「行けルミーナ」
「ま、待て!我が魔法の真髄はこれから、ドラゴンへと――」
「ていっ」
ルミーナのパンチによって、敵の魔法使いは頭が爆発するように弾けて、ドラゴンになる前に倒すことが出来た。
魂は、ちゃんと出てきたようで死んだみたいである。
「荷物持ち君、一体出して」
『や、やめろー!死ぬわい、やめ……あれ?』
「よし、確保!」
リュックの中から出てきた幼女のホムンクルス目掛けて、私は新鮮な魂を挿入。
すると、あら不思議。オッサンは幼女になりました。
「にゃ、にゃんじゃこりゃぁぁぁ!」
「殺してないのでノーカンですよね、王子」
「いやいやいや!殺したよね、一回死んだよね!」
「細かいことはいいんだよ、結果が全てだ」
「過程も大事だよ!」
なんやかんやで一回戦目が終わった。