金で魔女は我儘に付き合う
王様に怒られまくった私は王子の教育係になった。
宮廷魔法使いの金貨、アレって一応勲章的な物らしくって悪用されると困るそうだ。
それの管理不届きの罰と王子があの女が嫌がることをしろという発言を加味して、王様が決めたのだ。
王命だからね、断れないよ。
「なんという、効果的な方法なの。すっごい嫌だわ、すごくすごーく嫌な状況だわ」
「ハッハッハ、僕を助けなかったからだぞ!ざまぁみろ、痛て!?」
「ホホホ、本当どうしてくれましょうかね。このクソ餓鬼」
「ぶったな、父上にも打たれたこと無いのに!不敬だぞ!死刑だ、死刑にしてやる!」
「残念ながら、教育中は王子ではなくルドルフ=ヴァイマル個人として対応する許可を頂いてるので王権は無効です。残念でした~!ねぇ、どんな気持ち?どんな気持ち?」
「ぐぬぬ、何だコイツ」
地団駄を踏む、クソ餓鬼を見ながら私はため息を吐く。
こんなんでも、王子なんだよな。第三王子だけど、期待されてない第三王子だけどね。
「取り合えず、王子には宿題を出しますのでそれをやってくれれば後は好きにしていいです」
「宿題なんか、やだよーだ!」
「別にやらないでもいいですよ、その方が私としては嬉しいです」
手が臭くなる呪いとかねーかな、罰としてちょっとした教育的指導なら許されるからな。
そう思いながら、王城で手に入れた本を読みながら魔法で宙に浮く。
あれ、部屋から出て行く音が聞こえないな。
「何?」
「おい、それは何だ!僕もやる、教えろ!」
「えー、じゃあ宿題やったらね」
「ず、ずるいぞ。クソ、やってやる……」
宿題として渡したテキストを片手に王子が必死に勉強する様子を横目に私は本の続きへと視線を移す。
教育係、とのことで教えることがあるから私も勉強しないといけないのだ。
今まで、魔法しかしていなかったので本も魔法に関することばかり。
周辺各国の事とか歴史とか自分の国の現状でさえ良く知らない。
教養である算数とか理科などは前世の私が勉強していたので私も勉強できているけどね。
あぁ、前世の私ってば理系だったから教養のレベルが凄い。
高校程度の知識がこっちじゃ一流の学者の知識に等しいからね。
まぁ、魔法がある時点で通用するか怪しいけど。
「おい、終わったぞ」
「こことそこ、あとこれも間違い、やりなおし」
「もしかして、解答を覚えているのか?」
「まぁ、作ったの私ですしね」
ネタ晴らしすると、丸暗記している。
その方法は、ズバリ魔法だ。
人間、誰しも絶対記憶能力が欲しいと思うことだろう。
なので、私は自分の記憶を外部の異空間に保存して欲しいときに情報を取得、思い出すことが出来るようにした。
例えるなら、クラウドサービスである。
簡単に言えば、私が現在忘れていたことをなんだっけなと思うと、自動で魔法が発動して思い出すことが出来るようにしたのだ。
まぁ、教えてやら無いけど。
「お前、意外と頭良いのか?」
「馬鹿にしてるのかしらこのクソ餓鬼?」
「いや、みんな馬鹿にしてるから」
あぁ、他の宮廷魔法使い達のせいか。
この国じゃ、十三歳から魔法学校にて七年間の教育を受けることが出来る。
別に魔法に興味が無い奴は家で勉強して適当に平民を虐げて自由に生活するんだが、宮廷魔法使いだとそうはいかない。
宮廷魔法使いは魔法使える俺ってスゲーとかいう特権意識の塊だからだ。
その特権意識の基準となるのは魔法学校を卒業して、魔法使いとして一定の知識を修めているということだ。
私の婚約者みたいに飛び級して通うとか裏技もあるけど、私は学校行く気ないからな。
ファンタジーの世界に学歴フィルターは未実装でいいんですけど。
「たぶん、私の方が頭良いですよ。それに魔法も私のほうが上手いです」
知識としてなら大量に記憶している、内容を理解しているかは別としてだ。
まぁ、一般常識はダメとして魔法に関することなら理解しているけどね。
ただ、誤情報と言うか俗説とか絶対間違っている理論とかあると思うんだよね。
「本当か?よし、僕にいい考えがある」
「おいやめろ、変なフラグ建てるな」
「誰が一番強いか訓練所を使って調べよう。次いでに兄上達のお抱えをボコボコにして僕の教育係の方が凄いと証明しよう!」
「いつから、私はお前の物になったのだ。ねぇ馬鹿なの?」
やらないよ、面倒くさい。
面倒なことには近寄らない、そんな私を心変わりさせたら大したもんですよ。
「勝てたら金一封包もう。僕のポケットマネーから」
「何してるんですか、王子!速く、行きますよ」
「変わり身早っ!いや、いいけどさ」
王子と私は廊下を突き進み、将軍の元に向かった。
王子が言うには将軍に話を通せば訓練場が使えるらしい。
他は、上司に確認しますと言われてダメなそうだ。
店長出せ、みたいなノリだろうか。
「困りますな、王子」
「僕の命令が聞けないのか!そこまで難しいこと言ってるか?使っていない時間に貸せと言うだけだろ」
「魔術師が戦えば、その被害は想定できません。仮に死傷者が出た場合は国家の損失になるかと」
「死傷者か、うむ、そうか……どう思う?」
王子が後ろを振り向きながら私に問うた。
「死傷者か、あらかじめホムンクルスを作っていれば蘇生も可能ですね」
「そうか、ではそういうことで。将軍、そういうことだ」
「蘇生など信じられませんので、許可は出せませんね」
あっ、何だテメェ胡散臭そうに私の方を見やがって怖いんだよこっち見んな。
クソが、テメェの中身猫とかの中に打ち込んでやろうか?
「何か?」
「な、何でもないですわ」
こ、こえぇぇぇぇ!
将軍、こえぇぇぇ!
目の前にがっしりとした鎧を纏った男の顔があるというのは、存外恐怖を掻き立てる案件だと思われる。
悪いことしていないのに、何だか悪いことした気分になる。
警察に睨まれるみたいな物だ、職質はやめてください。
「どうしてもダメか?」
「ダメです王子。そもそも、そこの教育係は一体何をしているんだ」
「す、すいません」
なんか怒られた。
何故に、怒られるし!王子が悪いんだし!
「そもそも、教育係と言うのは……」
それから将軍は私に言い聞かせるように説教を垂れる。
こういう時は下を向いて申し訳なさそうに話を聞いていればいいのです。
そうして、聞いてるのかと言われた時の様に要点だけをまとめておく、大体の話はループしますのでこれで解決です。
「おい、其処で何をしている」
「ハッ、殿下……」
「よい、頭を上げよ。それより、問いに答えよ」
頭を下げていたので声しか聞こえなかったのですが、どうやら王子がやってきたみたいです。
本物ですよ、このクソ餓鬼じゃありません。
見たいけど、顔を上げちゃダメな件。許可がないと上げちゃいけないのである。
要するに、相手は英雄王だと思って接すること。首が物理的に飛ぶかもしれないから。
「ルドルフも良くやる。戯れだ、応じてやるがいい」
「ハッ、畏まりました」
「良きに計らえ」
うっわぁ、良きに計らえなんて言う人初めてだよ。
立ち去る王子、足音の遠ざかる音と面倒なことになったと思わず漏らす将軍の声を聞いた。
そんな私のローブをツンツンと引っ張る、クソ餓鬼の方の王子。
何だよ、何かようか。
「んっ」
「なんですか?」
「しゃがめ」
言われたとおりにすると、耳元に顔を寄せる王子。
おいやめろ、なんかくすぐったい。
「アレが第一王子、スターク=ヴァイマルだ。良く見ておけ、アレが僕の倒すべき敵だ」
「お、おう。恐ろしいこと耳元で言うなぁ……」
「ふざけている場合じゃないぞ、あの野郎ギャフンと言わせるのがお前の仕事なんだからな」
「そういうところは歳相応?」
ともあれ、宮廷魔法使いナンバーワンを決める戦いが始まるのだった。