急いで魔女は成果を生み出す
十二歳となった。
もうすぐ、査定の締め切りが迫っている。因みに明日である。
悲しいことに、私は夏休みの最後に宿題をやるタイプだ。
よって、研究成果を出していなかった。
「別にやめてもいいんだけど、特許のお金貰えなくなるらしいからな。結婚する気ないから、収入がなくなるのは困る」
「昨今ではモンスターが増えてる、日雇いの冒険者需要が高まってるらしい」
「嫌だよ、馬小屋で寝たり福利厚生がしっかりしてない仕事とか無理だよ~」
しかし、結果を出さないといけないのも事実さてどうするか。
そこで、私はいい事を思いついた。
誰もやっていない未発達の分野を開拓すれば評価されるんじゃないかと。
「死霊術に手を出してみるか」
「さらっと禁忌に触れるとは」
「いけるいける、私なら魔法で失敗したこと無いから」
たとえ失敗していても、それはそういう魔法であって失敗ではない、決して認めない。
認めたら負けだと思ってる。
とはいえ、どうせ査定の評価は権力者である王様がする訳であるからして不老不死とかウケがいいと思われる。
賢者の石、エリクサー、錬金術の最終目標とか課題にするのはどうだろう。
「幸い、私は作り方を知っている。そう、材料は人間なのだ」
「人を使った実験は違法」
「奴隷なら平気だろ、人間じゃないし」
「どうだろう、グレー?」
法的には物だから大丈夫である、多分。
賢者の石が出来ない理由は、錬金術によって出来ると思っているからだと私は思う。
原材料は魂なので、それこそ死霊術の領分だと思うんだが、生憎死霊術が出来ない錬金術師が作ろうとしているから失敗するのだ。
まぁ、メンタルに影響与えるからねゴーストとかって。
私はその点、ゴーストに偏見とか無いよ。おぞましい物とか思ってないよ、異世界から転生した故の価値観のせいかもしれないけどね。
だから、ぜんぜん倫理的にヤバイと魔法使いが禁忌として嫌がる死霊術とか問題ないよ。
「でもいきなり賢者の石を作るって言っても信じてもらえないだろ」
「世の中、実績が大事」
「取り合えず、課題は不老不死として代案としてホムンクルスに魂を入れる方法を提示しよう。身体を取り替えることで、不老で無いけど不死にはなれる」
これで今年は乗り切る、決定である。
さて、それでは造るとしよう。
まず基本だが、人とは肉体と精神と魂からなると言われている。
魂の存在は証明されてないけど、私は転生したからあるということを証明するまでもなく知っている。
あるかないか分からないで魔法を使っている奴らより、強い確信を持っている私の方が魔法は強力だろう。
魔法は出来ると思うことが大事だからだ、信じる力が大事です。
「とりあえず、魂の器となるホムンクルスを造るところからはじめよう」
「材料、準備する」
魔女と言えば、でっかい鍋。
それが今回の錬金術と死霊術に欠かせないものである。
部屋が実験する上では狭いので、元々貰っていた広い部屋に移って実験をすることにした。
ルミーナが注文書片手に私の指示したモンスター素材を用意する。
人生で一度は言ってみたい台詞、金ならいくらでもあるを実行したのだ。
予算は、明日の査定がダメだと没収されるので使い切った。
「使うか分からないけどレアな素材があればいい物が出来ると思うんだよね」
「ドラゴンの心臓、ユニコーンの角、ヒュドラの牙、サイクロプスの目玉」
「おぉ、聞いただけでファンタジーだなぁ~」
どうせなら僕の考えた最強モンスター、みたいな感じで造る。
そういうことを考えるとは私もまだまだ子供のロマンを捨て切れなかったようだ。
まぁ、悪魔の素材だけは使わないでおこう、暗黒の力で暴走とかしそうだからな。
アニメの知識から、悪魔素材はフラグだぞと私の前世が言っている。
「では、取り合えずモンスターの素材をパーツごとに入れます」
「骨はスケルトンで良いですね、答えは聞いてません」
「内臓も入れろ、それで血液は吸血鬼にしよう強そうだから」
「フェニックスの羽を入れましょう、復活能力が付くかもしれない」
「折角だ、人狼の素材も入れよう。これで疫病耐性が付く筈だ」
と、そんな感じでごった煮になっていく。
鍋の中には様々な材料が鍋料理のように所狭しと入っていた。
料理にしか見えないが、それが錬金術である。錬金術は台所から発展したからね。
「鍋は子宮を、炎は熱を表す。切り刻まれた素材は生物の死と転生までの下準備。鉄は金属、鉱山を大地母神と考えた場合に胎児の意味を持つ。液体は生命の水、血とは羊水である。薪は灰となりて植物の養分、すなわち成長の糧となる。月の満ち欠け、変化を表す、その光は成長を促す。少量の金、完全な存在を表す」
本当は錬金術は素材の中から要素を取り出して、性質を抽出してそれを用いる訳でこういうの気にしなくてもいい。
だが、本に書いてあったことや自分なりに解釈して物に対する根源的イメージを口にすることで認識しやすくなる。
これから行うのは、鍋からホムンクルスを造ることであり、子宮から成長した子供を取り出すこと、そう認識するのだ。
「雑霊が、私が作る肉体が欲しいか。散れ、消えろ、はい解散!」
言霊に魔力を乗せることで、鍋の付近に寄って来た存在を追っ払う。
肉体を失って、魔力だけで動く意識の塊、ゴーストにすらなれない希薄な存在。
それが個を失って寄り集まった物が、鍋に入ろうとしていたのだ。
普通のホムンクルスはこの段階で魂の材料となる雑霊をたくさん入れて生物として成り立たせるが、私が欲しているのは魂のない肉体なので、雑霊は混入させない。
「よし、生まれよ!最強のモンスター!」
そう言って、私は思いっきり鍋を蹴った。
雑だけど、中身を出すのはこれが手っ取り早い。
そうして、中から……中から……
「どういうことだ、なんも出てこないぞ」
「セレス様、鍋にくっ付いてる」
「なんだと!?」
言われて、鍋の中を覗き込みに回り込む。
すると底には、鍋から離れない黒い塊があった。
どうやら失敗したらしい。
「これ、どう見てもゴミクズだろ」
「鍋から取り出してみると、黒いスライム、動かないけど」
ルミーナがせっせと取り出したそれは、黒くてプルプルのゼリー状の物体。
間違ってはいない、一応は成功している。
その証拠に、素材を煮込んだ物が違う存在になっているからだ。
失敗だったら、溶け切れなかった骨とか内臓がスープの具みたいに存在するはずである。
「どういうことだ、何故にスライム?」
「最強のモンスターはスライムだった」
「いや、それはない。ルミーナ良く見ろ、普通のスライムのように動かないぞ」
直立不動とはまさにこのこと、普通のスライムのように移動したり捕食活動しないと見える。
まぁ、一応は意図したとおり魂の無い肉体だろう。人型じゃないけど。
「まぁいいや、魂をぶち込むぞ。これが出来れば、ホムンクルスに魂を移して不老不死になれるはずだ。いつかオッサンが自分好みの美少女ホムンクルスに入ったりも可能だろう」
「でも奴隷や動物だと反抗されるかと」
「あっ……戦闘能力分からないけど素材がな、スライムでも強いだろうな……」
困ったな、そこら辺の魂だと使えないぞ。
此方に反抗的でない魂じゃないとダメだ、かといって自分とかをスライムの身体に入れるのはちょっと。
ルミーナは顔の前でバッテンと拒否しているし、ダメそうだ。
「暴れられたら嫌だしな」
「身内が使えれば良かったのに」
「それだ!」
国が抱える問題、それは優秀な人材の喪失。
宮廷魔法使いなどが死んでしまうと国力は衰えるのだ。
でも、もし宮廷魔法使いが不死になったら解決である。
そして、いるじゃないか宮廷魔法使いで友好属性の存在。
これで王様も大喜び、査定もクリアー、私も大喜びだ。
さっそくお爺様の部屋に行こう。
「お爺様、セレスです。実験に協力してくれませんか?」
「おぉ、セレスか。入りなさい、協力なんぞいくらでもしよう」
「失礼します、食らえサンダー!」
「えっ、ちょ、おま!?」
「よし死んだな……来た!出た!確保だー!」
『えぇぇぇぇ!って、儂がいる!?あれ、何じゃこれぇぇぇぇ!』
許可も貰ったので開幕ブッパで手から雷を出して心停止させた。
そうして、死体から出て行こうとする魂を魔力の腕でがっしり捕獲して、急いで部屋へと帰る。
ついでに素材になるのでお爺様の死体はルミーナに命じて持ち帰る。
『えっ、死んだ!?もしかして、孫娘に殺された!?』
「おりゃぁぁぁぁ!」
『イダダダダダ!?す、吸い込まれるぅぅぅぅ!』
混乱する魂を鮮度が落ちる前に、黒いスライムに向けて叩き込む。
むぎゅっと押し込む感じである。
すると、物質でない魂はスライムの中に入っていく。ちょうど中身が無かったからか、凄い勢いで入っていった。
そして、スライムはボコボコに膨らんでいき、光り輝いた。
うわっ、眩しい。
光は徐々に弱まり、そしてゆっくりと瞼を開けた私は実験の成功を確信した。
「おぉ、実験は成功だ!」
「でも、スライムじゃないよ」
「細かいことは良いんだよ」
そこには、二足歩行の赤ん坊がいた。
「にゃんじゃこりゃぁぁぁ!?」
「あっ、お爺様おはよう」