悪口を言われた魔女は報復する
十一歳になった。
パソコン作りに一年間を費やしたが、逆に考えれば一年で終わった。
パソコンを作った私は、その後は王様から長い言葉と褒美を頂いた。
褒美はメダルであり、特別な金貨らしい。
確かに何らかの魔法が付与されている。
これがあると、宮廷魔法使いとして認められたようなものだそうだ。
宮廷魔法使いはみんな持っているものだからである。
イメージとしては、免許だ。
たぶん、これを奪われないことが宮廷魔法使いとして最初の課題みたいな、裏宮廷魔法使い試験とかあるんだと思う。
試験とか受けてないけどさ。
そして、私は最年少宮廷魔法使いとなった。
お爺様は大喜び、婚約者は羨み、両親は下種の笑みを浮かべ、長男と次男は何やら裏でコソコソしている。
弟だけはスゲーとアホみたいな顔をしていた。
あぁ、お前とお爺様だけだよウチの家族でまともなの。
生活は激変、まず宮廷魔法使いになったことで給料が貰える様になった。
研究費を使って研究、王様の命令で色々とやる、そういう感じでお金を貰うのだ。
正直パソコンだけで結構な稼ぎになったのだが、お金はあって困らないので問題ない。
問題なのは、人間関係である。
まだまだ、子供である私を他の宮廷魔法使いは良く思っていないようだった。
他にも、知らない貴族の奴らが私に賄賂を送ってきたりお茶会に誘ったりと繋がりを持とうとする。
NOといえない王族からは命令されるし、家族は利用する気で満々。
働かないといけないし、楽をするために行動したら逆に忙しくなった。
「はぁ……」
私は六畳半の部屋で一人ため息をついた。
そこは王城の一室、無駄に広い部屋が嫌で物置部屋だった場所を貰って私の研究室にした場所だ。
部屋にいるのは私とルミーナ、やっていることは仕事である研究。
なんでこんなことをしているかというと宮廷魔法使いには査定があって、研究を発表しないといけないのだ。
つまり、研究しないといけないわけだ。
他にも国家の為に奉仕活動をするという方法もあるが、そっちは子供だからダメみたい。
盗賊狩りとか公共工事とか、そういう仕事だから最初からやる気はないけどね。
「魔法のために生きてるわけじゃない、魔法は趣味だ」
「まったく、また読み散らかして」
私が読み終えた本をルミーナの背中に生えた天使と悪魔が忙しなく片付けていた。
まぁ、私の生活が食事か読書かネットだからである。
パソコンで出来ることは、対して多くない。
不特定多数とチャットが出来るか、個人と連絡できるか、プリント印刷くらいである。
因みに、プリンターも作っていたりする。針と水晶と粘土板を使った物でいつか羊皮紙になる予定。
「研究って、何すりゃ良いんだよ」
こんなのは大学の卒業研究以来である。
悩んだ私は取り合えず保留して、不特定多数の人間とチャットをする。
まぁ、魔力がないと使えないので魔法使いだけしかチャット使ってないけどね。
なので、なんか小難しくて気取った感じの会話が広がっている。
「クソが、匿名だからって悪口書きやがって」
「と言いつつ、自分も悪口を書くセレス様だった」
悪口の内容は要約すると、大した学歴も無い魔法もポンコツの奴が宮廷魔法使いとかないわーみたいな内容である。
匿名だが、絶対同僚の人間だ。
確かに、学校には行っていない。
普通は行くらしいが、それは十三歳くらいからだ。
それに魔法もポンコツと言うのもあながち間違いではない。
正しい手順、呪文、儀式、詠唱、そういう過程を伴って魔法を行使しないからだ。
これは出来ないのでなくしないのである、面倒だから。
例えるなら、掛け算を足し算でやるような物だ。
数秒で出来ることを数十分掛けてやるとか馬鹿らしいからである。
それもこれも、独自の魔法が使えるからなのだがそういうのは関係ない。
取り合えず粗探しが出来ればいいんだと思う。
「お前らが十日も掛かることを十秒で出来るだけで何で嫉妬されなけあかんのだ」
「おこなの?」
「もうおこだわ!」
もうこうなったらテロである。
最近知った星の魔法で、呪ってやる。
宮廷魔法使い達の星に干渉して、不幸が訪れる運命へと変えてやるのだ。
人は生まれながらにして自らの運命とも呼べる星を持つ、星は因果律に影響を与えるからだ。
宿命の星、それの運行や輝き、魔力から人は占うそうだ。
占星術師と呼ばれる者たちは宿星であるそれを見て人を占うが、見えやすさは素質によるものらしくまた見え方も人によって違うらしい。
同じ夜空を見ても、二人の人間を対象にして見た夜空は違うのだ。
簡単に言うと、片方は死兆星が見えて、もう片方は見えない。
見えたほうは死ぬから、みたいな感じだ。
まぁ、あれって視力がいい奴しかみれないらしいけど、魔法だからそういう理屈は置いておく。
星によって人の運命が決まっているならば、好きな運命を調べて星を動かせれば思い通りじゃないか。
ということを考えた人が昔いたらしい。
その人は生涯を掛けて自らの星を弄って、幸せになった。
死因は服上死、思い立ったのが六十になってからのことだそうだ。
因みに執筆したのは愛人である。
その検証実験に、彼らは選ばれたということにしよう。
夜、ルミーナと二人で夜空を見上げる。
通りかかった王城勤めのメイドさん達から微笑ましいと言いたげな視線を送られたり、通りすがりの宮廷魔法使いに、占いですか?みたいな嫌味を言われたが今のうちである。
「あっ、ゴブリン座、オーク座もある」
「変な星座があるんだな、ゴブリンのセイントとかいるのか?」
「弱そう」
確かに、まちがいなく主人公ではない。
棍棒を使うモブに違いない。
因みに、フェニックス座はこの世界にもあるらしい、やったね何度でも蘇られるよ。
「さて、ここに私の同僚の生年月日がある」
「あります」
「次に、不幸の星を調べた」
「調べました」
「そして、こいつらの宿星を動かす」
「不幸の星の下に生まれた人間へとなる、相手の不幸になる」
所詮は子供の御呪い、実際に何かあっても証拠はないさ。
呪いじゃないよ御呪いだよ、言葉は一緒だけどね。
「禿げろぉぉぉぉ!爆発しろぉぉぉ!」
「セレス様、それ不幸の星じゃなくて死の星」
「間違えた、まぁ輝きを弱くしたら効果も薄まるだろ」
「大雑把だな……」
立ち上る魔力、見える人から見れば空へと上っていく巨大な魔力の柱が見えたことだろう。
ゆっくりとだが天体の動きへと干渉し、星は動く。
本当に動いているのか、見え方が変わっただけじゃないのか、何光年も離れてるのに魔力で干渉できるのとか思わなくも無い。
だが、ここは異世界、前世の知識ではわからないことってあると思うの。
実際に出来るって思えば出来る、為せば出来る、やれば出来る、諦めんなよどうして諦めるんだよ!
もっと熱くなれよ、ネバーギブアップである。
「おぉ、死の星が三センチくらい動いた」
「目測だから、きっともっと動いてるから!」
「あと少し、セレス様」
「うおぉぉぉぉぉ!」
「がんばれ、がんばれ」
「やめろ、なんか卑猥に聞こえる」
「それは心の汚れのせい」
どうせ卑猥に聞こえるくらい汚れてるよ!
まぁ、それでも二時間くらい粘った結果……星は見事思い通りに動いた。
これをどうにかするには自分の魔力で動かすしかないだろう、言わないから気付かないだろうけどな。
「この私ですらこれほどの魔力を使うとは、修行が足りないな」
「おぉ、セレスよフラフラとは情けない」
ルミーナが王様風に倒れた私を運びながらそういうのだった。
まぁ、高齢の魔法使いですら半年掛かったのだ二時間って十分だろ。
いや、でも古典式な修行していない一般ピーポーって魔力が少ないからな。
出来て当然と思ったほうがいいだろうな。
因みに、後日食堂で出されたシーサペントが原因で食中毒が起こったらしい。
何故か、宮廷魔法使いで私以外が腹痛になったそうだ。
私も刺身を食べたが平気だったので、運が悪かったんだと思うよ。
実にお腹痛いのって煽るのが楽しかった。