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追い詰められた魔女は文明を加速する

祝、十歳。

もう前世で言うところの成人の半分の歳になった。

お前、もう十歳なんだから社交界出ろよとかいう言葉を無視して今日も私は生きている。

長男に魔道具を売りつけて好きな物を買ったり、次男の奴隷を奪って人体実験したり、三男のお願いを慈悲の心で金とって叶えてやったり色々やっていた。

そんなこんなで、過ごしていたらいつの間にか引越しすることになっていた。


「どういうことだってばよ……」

「セレス様、結婚したから」

「どういうことだってばよ!」


十歳になったら結婚なんだって、親からはじめて聞かされたわ。

えっ、隠してた?っていうか、誰とだよ。

お相手はローグ=オーウェンという奴らしい、誰だ……


「セレス様、文通してたのに忘れたの?」

「う~ん、あぁ、そういえば自動で返信する魔道具作ってから放置してたけど婚約者がいたな」


そう、なんか魔法キチの婚約者いたっけ、なんか羅針盤みたいな返信する魔道具に手紙書かせてルミーナに管理させてたからすっかり忘れてたぜ。

っていうか、私の楽園から追い出されるのかよ。

引越しなんて嫌だな、と思いながら部屋を見渡す。


この世界じゃ高級品である羊皮紙を用いた本の山。

その片隅には使い道の分からない道具が沢山散乱している。

瓶詰めされた内蔵や干からびた植物、骨や鉱石の広がる机。

書きなぐったように書かれた図形のある床と壁。

極めつけは、死に掛けの犯罪奴隷。


「汚いな」

「汚い」

「いや、これはあれだから。使いやすいレイアウトだからな」

「言い訳」


いや、私もいまさら自分の状況に気付いたんだよ。

子供がおもちゃで遊んでると回りに出したままにするだろ、そういうことだよ。

誰が子供だ!


「流石に、使用人とか家族がドン引き」

「マジか」

「怪しく非人道的な実験を繰り返していると噂されている」


非人道的って、法的には問題ないんですが……

なんだよ、何がいけないんだよ。

別に私に問題はないはずだ、私はこの家で一番マトモだ。


母親、処女の血を浴びたりしてるクズ。

父親、最近男色に目覚めたショタを拉致して抱きまくるクズ。

長男、家計を支える、さすおに。

次男、パーティー三昧のクズ。

三男、平民と遊んでる暇人。

私、魔法ばっかりしている、普通。


「うむ。客観的に見て、私は何も問題ないと思うんだが」

「フッ」

「おい、鼻で笑うな。なんだ、文句でもあるのか?」

「問題を起こす奴は問題ないと思ってる」


同意するかのように、ルミーナの背中から霞の天使と影の悪魔が両手を広げてやれやれという仕草をする。

やめろ、ゴリラの挑発にしか思えない、イラっと来る。


「はぁ……片付けとか引越しとかダルイ」

「セレスティーナ=オーウェンになるから仕方ない」

「語呂悪いだろ、夫婦別姓にしようぜ」


とか言って愚痴っていたけど、貴族社会ってのは上からの命令に逆らえない。

だから、自分達より偉い相手の家からお願いというなの命令されたら、はいかYESなのである。

いや、一応従うよ、反発とかしないよ、長い物に巻かれるよ私。


そうして、ドナドナと長い旅路を二週間。

どんだけ離れてんだよ、あと何回も賊とエンカウントしすぎ、馬車がガタガタしすぎ、保存食しょっぱいし固い、寒いうるさい、と溢れる文句の末、私はようやく辿り着いた。

そこは巨大な洋館、流石ウチよりお金持ちである。

入り口から馬車までメイドさんがズラッと並び、お出迎え。

メイドさん達のロードの先には、イケメンが待ち構えてる。

うわ、久しぶりにあった婚約者キラキラ度が増してる。


「うわ、ああいうの嫌いなんだよね。クラスで人気者みたいな奴と関わりたくない」


とか思っているのに凄い勢いで掛けてきた。

そして、いきなり馬車のドアを開ける婚約者の姿があった。


「やぁ、久しぶりだねセレス!どうしたんだい、速くおいでよ」

「まぁ、そんなに急がないで下さいましローグ様、心の準備が出来てないのでセレスはびっくりしてしまいますわ」


おい、何でそっちから来てんだよ。心の準備が出来てねぇんだよ、こっち来んなよ。

内心そんなことを思いながら、速くおいでよとか言いながら馬車を開けた婚約者を醒めた目で見る。

うわ、帰りてぇ……セレス実家帰りたい。


「あぁ、セレス!ますます綺麗になったね!今まで見たこと無いくらい綺麗な魔力の流れだ!素晴らしい、薄皮一枚に留めて体表を緩やかに魔力が流れている!あれ、魔法陣だ!透明にしているのか、なんだその技術!周囲に五つ、いや六つほど魔法を使っているのかい?なんだこれ、見たこと無い魔法陣だ!俺でも集中しないと見過ごしちゃうね、そうだ聞いてくれよ地方にある遺跡で」

「…………」


いやぁぁぁぁぁ、関わりたくない。

なんだコイツ、相変わらず魔法キチだな。

私は魔法を使うのは好きだけど、人と喋るのは好きじゃないんだよ。


「おっと、長い話もまずは家に入ってからだね。さぁ、行こうか」

「おほほ、嫌ですわ」

「遠慮しないで、君の新しい家さ。大丈夫、俺と使用人しかいないから誰も邪魔しない。両親も夫婦で生活しなさい、私たちの事は絶対気にするなって言ってるからさ!」


良いです、遠慮します。

あと、爽やかに言ってるけどそれって厄介払いだろ、私たち厄介者扱いされてんだろ。

良く見たら、メイドさん達が誰も目をあわせてくれない。

おい、ルミーナお前はガン見してくんな!求めてない、そういうの!


あれよあれよと引きずり込まれ、テーブルに座らされて強制的な夫婦の時間が始まった。

結局、開放されたのは夕食頃だったぜ。


「あうあうあう」

「セレス様、ローグ様が枕を持って廊下に立ってる」

「お帰り頂け、夜は寝るんだよ!夜更かししないの!」


このままでは身体が持たない、精神的な意味で。

辛い、延々と話しかけられて頷くの辛い。

相槌打たないとループするし、もう嫌だ。

はやくどうにかしなきゃ……


それから連日の突撃、マシンガントークに私の気力と体力はドンドン削れていった。

原因は私以外、話が出来るような奴がいないからなのだと思う。

そう、奴はボッチなのだ。

そんな奴をどうにかしたい、こんなときネットがあれば相談できるのに……


「なければ、造るんだ!」


私は異世界のパソコンを作るぞ!

鏡とタイプライター、そして電波という概念と魔法の融合。

造ると思った瞬間には既に終わっていた、そう呆気なさ過ぎるくらい簡単に出来た。

わずか、三分の出来事であった。

そうして、夫であるローグに私は言った。


「これを量産して売りなさい。これは遠くにいる魔法使いと話せる道具よ」

「なんだこれ!凄いぞ、これがあれば色々な事が出来る!」


魔法キチなだけあってか、一目見ただけでその価値を見抜いたローグは早速王に献上した。

その時点で、ちょ、おまと私は慌てていたが時既に遅く。

遠くの人と意思疎通が出来るという私にとっての当たり前は、この世界では劇的なものだったらしい。

王は、その有用性を知り量産化と研究を国是とした。

知らなかったけど、魔道具ってそんなホイホイ作れるものじゃないらしく凄い研究したんだなみたいな勘違いの元に何故か表彰された私。

そして、何故か呼び出しされて偉いおじいちゃん魔法使い達とパソコン作り。

楽をするためにパソコンを作り、それが基で楽をするために苦労する、創り方を教える私。


そして開放されるまでに一年の月日が経っていた。

えっ、十一歳?今年は忙しすぎてあっという間だったよ。

まぁ、苦労の末あってパソコンは量産化の目処が立ち、魔法使いの下へと売られていくのだった。


「つ、疲れた……」


まぁ、特許で過ごせるようになったし結果オーライだ。

うん、それにしても……


「現代知識チートって軽々しく使うものじゃないね」


自覚しないでまたやらかしませんように。



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