試行する魔女は魔道具を作成する
ゴブリン退治の後、私は愚弟であるカーマインから手に入れたナイフを調べていた。
ナイフはスラリとした細長の刀身、左右対称の両刃で一般的なナイフとは少し違う。どこからでも切れるナイフ、広く長い刀身は其処に文字と魔方陣を書き込む為の工夫なのだろう。柄に装飾はなく至って無駄のないナイフだ。
「なんだろうな、この文字どっかで見たことがあるな」
あぁでもこうでもないと、本棚を崩しては流し読みして乱雑に放っていく。
目当ての本が見つからないからだ。
私の後ろではせっせとルミーナ……の背中の天使と悪魔が顕在化して仕事をしている。
おい、駄メイド働けよ。お前の背中から白いのと黒いのが人型になって働いてるけど、それってお前が働いてるわけじゃないんだぞ。
まぁ、言っても詮無き事だから放置で本を漁り続ける。
ようやくというか、しばらくして私は目当ての本を見つけた。
「あった、あった。ドワーフ文字だ」
それはドワーフの事を書いた旅人の旅行日記。
面白いのは、旅人が独自に解読したドワーフの言葉が記載されていて、旅行日記というよりドワーフ語辞典としての評価が高いということだ。
ドワーフの文字はどっかで見たと思ったら、ルーン文字に似ているんだ。
何かやたらカクカクして曲線がないのが特徴かもしれない。
元は絵から派生したのか、象形文字に近い。
ドワーフが魔法の道具を作る、うん不思議じゃないね。
「えっと、熱、光、暖かく光る物、ほうほうこれ一個で複数の意味があるのか……漢字みたいだな」
文字を解読して読んでみた。
ドワーフの文字はなんというか曖昧なイメージを字にした感じだ。
連想できる要素が一つの文字に含まれていて色々な解釈が出来る作りになっているみたい。
私が呼んだ一文字など連想すれば、太陽、炎、豆電球、なんて感じに当てはまるものが考えられる。
暖かくて光る物、熱と光を持つもの、それらを表す、みたいな感じだろうか。
続く文字は、刺さる、傷、怪我、次は始まり、過去、活動、そして終わり、未来、停滞。
「なんだこれ、連想ゲームかよ」
短剣の能力は発火させること、絶対文字が関わってくると思われる。
なので、三つの候補から炎が適切だろう。
次に、この短剣は無機物に当たろうとも炎が出る。
なので怪我は候補から除外、傷か刺さる。傷は一時的、刺さるは永続的。
刀身が触れている間は引火することからして、文字の意味は刺さる。
刺さることで効果が発動する。
刺さることをきっかけとして、炎が出続ける。
少しながら、使用者の魔力を奪って行くことからして始まりと終わりかな?
炎、刺さる、始まり、終わり。
刺さると魔法を発動して炎が発生、対象に刺さらない間は魔法は発動を終えた状態を維持する。
こんな解釈でいいのだろうか?
「ややこしいな、ドワーフ文字は……いや日本語も単語だけ羅列したらこんな物か」
意外と解釈をザルにしたほうがいいのかもな、そのほうが発展の余地がある。
いや、単に細かく正確な文章にするのが面倒で単語だけにしたとか?
ありえないかもしれないが、メモ書き程度の用途で武器に刻んだら偶然魔法が出来たとか。
あれ、偶然の発見から発明されたとかちょっとありそうじゃね?
「しかし、どうやって作るんだか?そもそも、ドワーフだけしか作れないのかな?」
ドワーフの文字には魔法が宿るとか?いやいや、エルフとかオークとかゴブリンだって知的生命体としてカテゴライズできるはずだよ、なんでドワーフだけ特別なのよ。
そもそも、なんで文字なんだよ。文字ってのは伝達手段だぞ、誰を対象にしてるんだか。
いや、絵でもいいんじゃないか?象形文字だっけ?エジプトの壁画とかそうじゃん。
「文字、魔法……ルーン文字とか?いや、これは日本語TUEEEEという一昔前に流行った日本語チートの可能性も微レ存」
そもそもの原理が不明だけど、これは私が作ろうと思って出来るのか?
とりあえず指を弾いて、私は魔法を発動した。
基本骨子解明、構成材質解明、的なうんたらかんたらを省略して、投影してみた。
でもって、床に突き刺してみる。
「あっ」
「燃えてる、ダメじゃないですか」
「投影したら、出来たな」
後片付けはメイドのルミーナにやらして、私が作っても出来ることを確認した。
でも、これは真似しただけ、贋作だからな。
いや、贋作ですらないね。作ってないもん、これはコピペみたいなものだ。
贋作ってのは、あれだよ剣をグルグルにして矢としてみたり、刀身を大きくして荒ぶる鷹のポーズみたいな。
うん、オリジナルの要素を入れられて初めて贋作じゃないかな、私の中ではな。
「文字のところを日本語にしてみるか」
まるっきり同じ形で、ただし刀身には何も書いてない状態の物を作った。
でもって、こういうのに文字を彫るために朧気な記憶を元に彫刻刀を想像して魔法で作る。
うわ、懐かしいな。こんな感じだったけ。
「何してるの?」
「んー、実験かな?」
無言の作業が数時間続く、疲れたら休憩して気が向いたら文字を彫っていた。
でもって、刀身に斬鉄剣と彫ってみた。
これで切れないものはこんにゃく以外ないはず……実際は切れないものがあるけど関係ない。
「そう、問題なのはこんにゃくが切れるか否か!」
「こんにゃく?」
「これ!」
「これか」
ポンッとこんにゃくを魔法で生み出し、それに向かって私が斬鉄剣と書かれたナイフを振るう。
魔法が発動するならばこんにゃくは切れない、しないなら切れる。
果たして、結果は……
「切れ……ないっ!」
「おぉー?」
「ということは、魔法は発動している!」
「そうなのかー」
わーい、と喜んだ私はポロっとナイフを手から滑らした。
やべっ、飛んでったと思うのも束の間、ナイフは床に柄まで刺さっていた。
うん、すげー切れ味だな!?
「馬鹿な、あっけなさ過ぎる。床が豆腐のように切れるだと!」
ネタに走るくらいに手ごたえがない、スゲー抵抗感がないからスルスル動く。
と、調子に乗っていたら床がボロボロになっていた。
ガッテム、魔法で修理しないといけない。
「とりあえず、私は恐ろしいものを作ってしまった」
「私も作る」
「うん?そうだな、私以外が作れるか実験もしてみよう」
もしこれでルミーナが出来なければ、文字の意味を理解してないと作れないということが判明する。
という訳で準備してやった。
ルミーナは背中から天使と悪魔を顕在させて、せっせと彫って行く。
天使が私の作ったナイフを掲げて、悪魔がせっせと真似ていく。
ちなみにルミーナはその下で本を読んでいた。
「片手間かよっ!」
「ん」
「んじゃねーよ」
まぁ、なんとか完成する魔法のナイフ。
黒い影で出来た上腕二等筋が、ふぅと虚空で汗をぬぐう。
その横で、霞で出来た天使が拍手という動きをしていた。
芸が細かいな、一人二役か。
「悪、即、ざーん」
「あれ?」
「あれ?」
ルミーナがこんにゃくに向けてナイフを振るう。
スパッと切断されたこんにゃく、あれ?
二人して互いに首を傾げる。
試しにルミーナが床に向かって振るうと、ちょっと刺さる。
貫通じゃなくて、ちょっと刺さる。
あれ?魔法が発動していないのか。
「何でだ?」
「さぁ、わからない」
「ルミーナが言葉の意味を理解してないからか?」
うむ、意味を理解してないとやっぱりダメなのかもしれない。
それがなんでかは分からなかった。