試した魔女は失敗する
着替えを終えた私は、遂に目的地である森に来ていた。
久しぶりに見たな森、木ってこんなに生い茂ってたかな?
っていうか、デカイなおい。
私の目の前にあるそれは、巨木だった。
人間が何十人も横に並んでやっと同じ幅になるくらい大きい木だ。
高さも、数十メートルはあると思われる。
っていうか、これって最早ビルだよ。
「よし、じゃあ姉ちゃんパパッとゴブリン退治してくれ」
「まぁ、出来なくわないけど上手く燃えるかな?」
「おーい、おいおい!ちょっと待てーい!」
何だよ愚弟、私は今忙しいんだが。
右手に炎を灯していざ引火させようとしたら全力で何か止められた。
いや、別に後で雨でも降らして消化すればいいし、火事起こそうよ。
その方がきっと早いよ。
「大事な資源なんだぞ!村人の生活も考えろって!」
「えっ、これ伐採してるの?超デカいよ?」
「取り敢えず、環境に優しい感じで頼むよ!」
なんだよ、環境に優しい感じって……
別に地球環境とか考えなくていいじゃん、ここ地球じゃないし。
しょうがないな、どうやってゴブリンを見つけるか。
「う~ん、こりゃダメだな」
「どうしたの、セレス様?」
「生物を探知したら、反応が多すぎてどれがゴブリンか分からない」
魔力を糸状に伸ばして、手当たり次第に森の中を探索してみたのだが植物以外の生物が多すぎる。
あっちの方とかそっちの方にいるのは分かるんだが、それが何なのかは分からない。
これは森の中に入らないといけないのだろうか。
ルミーナが不思議そうに首を傾げて聞いてきた。
「アレじゃないの?」
「えっ?」
「だから、あそこにいる奴じゃないの?」
ルミーナが森のある場所を指差していた。
いや、何だよ。お前には何が見えてるんだよと、草木にしか見えない一角を見る。
う、動いた!今なんか動いたよ!
「ゴブ!?」
「あっ、ゴブリンだ!」
「ゴブリン!?」
カーマインが一メートルくらい跳躍し、空中から地面に向かって唐竹割りする。
その対象は草木の一角、しかし数秒後にそれは赤い血を噴出して真っ二つに分かれる。
なんと、カーマインの剣が刺さった場所にはゴブリンがいたのだ。
「これが、ゴブリン?」
それは全身が迷彩柄の生き物だった。
緑と茶色い皮膚の猿のような生物、カエルのような緑色の皮膚に蛇のような焦げ茶色、茶色い部分は人間で言うならシミのようなものだろうか。
鋭い爪と牙を持っているそれは、草木に溶け込むように擬態していた。
カーマインが剣で真っ二つにするまで、全然気づかなかった。
「どうしてあんなに近いのに気付かなかったのかなと」
「範囲外だったんだよ!っていうかゴブリン見つけにくいよ」
「ゴブリンは奇襲するために草木に隠れる、常識」
そんな常識知らなかった。
っていうか、ルミーナいつそんなこと勉強したんだよ。
本じゃ、集団で襲い掛かってくる雑魚モンスターとしか書いてなかったぞ。
「もうこんな浅い場所まで来てるのか、急ごう」
「その必要はないわ、ゴブリンが手に入ったもの」
何で、と言った顔で首を傾げるカーマインに私はやれやれだぜと呆れる。
いや、まぁ分からないだろうから説明してやろう。
「これから行うのは呪い、呪術って奴よ」
「呪術?黒魔術とかのアレ?」
「この世界じゃ、黒魔術の中のカテゴリーに入るけど呪術は大きく分けて二つあると思ってくれればいいわ」
此処で言う呪術は二つに分けられる。
類感呪術と感染呪術だ。
類感呪術とは、似た物は互いに影響するという考え方から作られた呪術だ。
物によっては、縁や共通性、相似事項などが関係してると言われるが良く分からないだろうから簡単に言うとだ。
双子の妹が怪我をしたら、姉の方も同じ場所に怪我を負うとかそういうのだ。
感染呪術とは、接触した物や霊魂の痕跡がある物は離れていても影響があるという考え方から作られた呪術だ。
血や髪の毛などの肉体の一部や形見などの思入れのある物体などを使う。
簡単に言えば藁人形に対象の髪の毛を入れてると効果が強まる気がするみたいな感じだ。
「で、今回はこの二つの呪術を両方使ってしまおうと言うお得な魔法を使うよ」
「呪術と魔術って別物なんじゃ……」
「呪術も魔術も大体同じ、魔術も魔法も大体同じ、つまりだいたい何でも魔法って事で良いのだよ」
細かい事は良いんだよ、考えるの面倒だからな。
さて、今回用意しますは新鮮なゴブリンの切り身。
何で俺が、仲間だけズルいみたいな腐った性根の怨念もあるとグッドです。
呪いの対象は同族であるゴブリン、類感呪術としてはソックリなので効果は高いですよ。
次に他のゴブリンが触ってるであろう肉体、正直私も理解力が足りないのであってるか分からないが何か発生してる気配があるので使用できてると思う。
「おいおい姉ちゃん、なんか黒い物が出てるぞ」
「うっさい気が散る、今いい感じなんだから」
「いい感じ、肉が腐って来た、効果ありそう」
ゴブリンの死体がドロドロの液状に溶け、黒い煙が死体から発生しています。
悪臭もあり、意志でも持ったのか黒い煙がどこかへと流れていった。
恐らくですが、巣に向かったのでしょう。
「よし、任務完了」
「本当に効果あるの?」
「ちょっと、疑うなら追っかけなさいよ」
ただし、追っかけたら壮絶な死に様のゴブリン達を見るだろうけどな。
「ゴギャァァァァァァ!」
「グルァァァァァァ!」
「ゴバァァァァァ!」
おい、何か森の中から奇声が聞こえるんですけど。
しかも、輪唱のように徐々に増えてる件。
アレですね、悲鳴のオーケストラですね。
「何か黒い靄が通ったら、枯れてるんだけど」
「初めて使ったから、何が起きるか分かんない」
「えっ、大丈夫かよ?」
何事も試してみることが大事なのです。
理論上は大丈夫なはずだけど、何か変な反応とか起きたら知らねって感じです。
呪いが連鎖して重なって呪怨みたいになったりして、そしたら真っ先に対象が自分になりますけどね。
人を呪わば穴二つ、使った本人に返って来るって決まってるもん。
「あー、やっぱりフラグ建ってたか……」
「姉ちゃん、何だよアレ!?」
私の視界の先で、森に異変がありました。
あの巨木がメキメキ言いながら倒れ始めたのです。
何で倒れたかって?それは森の奥に見える黒い人型が原因でしょう。
あの例の黒い靄が、何と巨人のように固まって此方に向かって来てたんですから。
何だよアレ、祟り神かよ……あの黒いのって触手なの?
「私に良い考えがある」
「何だ姉ちゃん!」
「逃げるんだよー!」
「えー!どうにかしろよ!」
うっさいわ、あんなデカい物どうやって対処すればいいんだよ。
ゴブリンの呪いが相乗効果で増大して変異してるじゃないか、私じゃ対応できる気がしないわ!
これはアレだ、蠱毒に近い奴だ!
最後の一体に怨念が集中して強力な呪いの塊になったんだと思うよ!
冷静に分析してる場合じゃないけどさ!
「なんだか行ける気がする」
「ちょちょちょっと!ルミーナ、逃げるわよ!」
「大丈夫だ、問題ない!」
ルミーナの右肩から黒い翼がバサッと羽ばたきながら現れる。
いや、あれは悪魔さんですね分かります。
おいおい、何する気なんだ?
「食べていいよ」
「ギョォォォォォ!」
悪魔さんが巨大化して、呪いの塊である巨人よりも大きくなる。
なんか黒い鉄球にギザギザの口が付いたみたいな形だ。
捕食モードですか、黒くてゴーヤみたいな形ですね。
それが威嚇する呪いの塊をパクリと噛み千切った。
「く、喰いおった……」
「マジかよ……」
私達は戦慄を、ウチのメイドに抱くのでした。