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故に魔女は引きこもる

セレスティーナ=アークライト、それが私の名前であった。

兄が二人いて、双子の弟が一人いる。

両親は伯爵という偉いのか偉くないのか微妙な地位である。

そんな家に生まれた私は齢五歳にして普通ではなかった。

習い事をすれば家庭教師を上回り、大人顔負けな思考で物事を判断していた。

その身は母に似て美しい外見であり、将来が楽しみな容姿をしている。

完璧だった。ある一つの欠点さえなければ完璧な貴族の子女だった。

私は魔法などという貴族の子女らしからぬ物に傾倒していたのだ。


「だってしょうがないじゃない。魔法が楽しいんだもん」


そう、それは仕方のない事だった。

魔法のない世界の記憶を持ち合わせて生まれてきた私は、前世の記憶のせいで魔法がスゴく好きなのだ。

魔力でもって想像した現象を起こす、理論も過程もない不思議な御業に心底魅了されたのだ。


難しい勉強もしないで何となくで何でも出来る魔法は実に便利である。

この世界では才能があれば誰でも出来て、それでいて学問として成立してないためか微妙な特技扱いだけどね。

ピンからキリまで出来ることが違うためか魔法使いの地位は低いしね。

バク転出来るみたいな、ちょっとした特技の扱いだ。

だが、難しい事は必要なくイメージと魔力量次第で何でも出来る魔法は努力するだけ結果が出て楽しいものである。


「あぁ、今日も私は美しいわ」


鏡の前でうっとりと自分自身を見つめて嘯いた。

それも仕方ないこと、前世の記憶は男性の物で大層なロリコンだったのだ。

そんな彼の価値観に影響された私が私を美しいと思うことは仕方ないことだと思うの。

白い肌に金髪、もうこれだけで勝てる。

本当、金髪ロリは最高だぜ。


「セレス、セレスや」

「今、行きますわ」


鏡の前でどの角度が一番可愛いか、可愛らしい仕草は何か研究している私を呼ぶ声があった。

それは我が家の財政を一手に担っているお爺様だ。

私はお爺様に呼ばれて、部屋を出ていく。

私にとって神に等しいお爺様、お爺様が領地経営してくれるお陰で私は習い事と魔法をするだけの生活が送れている。所謂ニート生活を送っているのだ。

そんなお爺様が、何のようだろうと首を傾げる私を前にニコニコした顔で告げた。


「セレスや、お前の婚約者が決まったぞ。儂の後輩での、それはそれは偉い宮廷魔法使いじゃ」

「はぁ?」

「えっ?」


思わず被っていた猫が落ちそうになった。家族すら騙せていた、私の猫かぶりがだ。

今何て言った?宮廷魔法使いって年齢が三十以上しかいない国家公務員みたいな仕事だよね?そこで偉いって、オッサンだよね?私はまだ五歳だよね?

ギルティ!神は私を楽園から追放する気だ!私をロリペド野郎に送る気だ!


「ざけんな!クソジジイ!」

「えっ?」

「男と結婚なんかするか、バーカ!」


貴族らしからぬ走り方で部屋まで私は駆けた。

このままでは幼女大好きなイケナイ魔法使いの所へと連れてかれるからだ。

家族は反抗一つしたことがない私の余りにも粗野な物言いに、驚愕を通り越して固まっていた。

そして、お爺様が倒れた。神は死んだ、いや倒れただけだけどね。


部屋に辿り着いた私は即席のバリケードを作った。

一生懸命、ドアの前に物を置いたのだ。

結婚なんかするものか、私はニート生活をするのだ。

そもそも、この世界の貴族はニートだ。

土地を貸して、趣味に生きて、でも趣味で食べていけるくらいになってはいけない。

基本的になにもしないのが貴族である。

特に女性は男を生むだけの存在、馬鹿で華があって従順であることが求められる存在だ。

貴族の女は何もするなという存在である。


それが当たり前だけど、前世の価値観から感謝して良い子にしていたのになんたる仕打ち。こんな屈辱を味わったのは始めてだ。

もう訳分かんないグレてやる、もう我慢なんかしない。

その日、私は家族の説得を無視して部屋に引き籠った。

二人の兄と双子の弟が心配していたが無視だ。

お爺様が謝ってきたが、大嫌いと言った。お爺様は吐くまで泣いた。

お父さんが物で釣ろうと魔法書を持ってきた。本だけ貰って追い出した。

お母さんがヒステリックに怒鳴るので、魔法を使って前髪を燃やして追い出した。

メイドがご飯を持ってきた。愚痴を言いながら抱っこされた状態でご飯を食べた。


そして私は悟った。

もう頑張らないでいい切っ掛けが出来たなと。

これから、習い事をサボって魔法だけの生活をしても全部お爺様のせいだ。

私は悪くないという訳である、やったね。


それから、私の生活は一変した。

習い事を拒否して、御機嫌取りの本を読みあさり、魔法の修行と開発。

ご飯を食べさせて貰って、メイドさんと添い寝して、絵とか彫刻とか芸術に勤しんでは寝る。

悪くないね、寧ろ今までより最高の生活だ。

御満悦な私がそこにいた。

しかし、そんな私へとマザーの魔の手が迫っていた事に後日気付くのだった。


「杖がないだと!?」


早朝の事だった。

よし、魔法でも使おうかなと思っていた私は大事な物を失った事に気付く。

そう、枕元に置いていた杖がどこを探してもないのだ。

杖、それは魔力発動体とかいう難しい名前の消耗品。

原料は宝石とか魔力の篭った鉱物と木材である。

この世界において魔法を使うのに必須のアイテムだ。

これがないと、なんか魔力が減ってるのに魔法が発生しないという所謂、失敗状態になってしまう。

だから杖がないと魔法が使えないと言うのが常識である。

でも、古い文献に記された賢者という存在は魔法を十全に杖なしで出来たそうである。

まぁ、聖徳太子的扱いである。いるかどうか分からんし実在してるか不明なのだ。

と言う訳で杖を取られると、私は魔法が使えない。


おのれメイド!裏切ったか!

きっと母である、あのババア!

よりにもよって杖を取り上げるなんて、例えるならゲーム機があってもソフトがない状態だ。

何も出来ない、つまらないじゃないか。


「だからって、泣いて詫びると思ったら大間違いですわ!」


こうなったら意地である。

なってやろう、賢者って奴にな。

取り敢えず部屋にある本から関係ありそうな物を読んでおこう。

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