表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

一般ファンタジー小説

ねずみのお姫さま

作者: 藍上央理

「ねずみのお姫さま」 

by.日央みつる


 その土地は春には果実が夏には野菜が秋には穀物がたくさん実る、豊かな国でした。

 けれど、冬までどうしてもたくさん実った食糧を蓄えておけませんでした。

 その国の王さまは茶色いねずみでした。王さまは冬の間暮らしていけるように側近たちと一生懸命考えました。

 ちょうど王さまには真っ白いかわいらしい年頃のお姫さまがひとりいました。

 そこで、冬の食料をもたらしてくれるお婿さんを探すことにしたのです。

 いろんな国のねずみの王子さまが自分たちの国の食料を持って求婚しにきました。

 なぜなら、お姫さまがあまりにも真っ白くて美しくて誰もがお姫さまと結婚したがったからです。

 お城は人間の作った納屋でした。だけど、寒い冬には暖かく、人間たちが時々食料を運び入れるので、この国の王さまはとても偉くて賢いとみんなが思っていました。

 しかし、そんな王さまを満足させるような王子さまはひとりもいませんでした。

 お姫さまは王さまの言いつけ通り、冬の食料を持ってきてくれる王子さまを待っていました。けれど、次々と王さまが断っていくので、とうとう悲しくなってきました。

 

 悲しくなって毎晩安全な宮殿から抜け出して、梁を伝って納屋の屋根から夜空を眺めていました。どこかにお姫さまを幸せにしてくれる王子さまがいるのだと信じて。


 冬も間近になりました。納屋に運び込まれた穀物も人間たちが持って行ったりして残り少なくなってきました。

 側近たちは冬の食料がなくなってしまうと慌て始めました。そして、早く冬の食料を用意しなくてはと、王さまにお願いし始めました。

 けれど王さまはとても頑固でした。王子さまの誰一人として、王さまのおめがねにかなうものがいなかったからです。

 干し柿をたくさん持っている王子さまも断りました。王さまは干し柿が嫌いなのです。

 きのこを宮殿で栽培している王子さまがいました。王さまはきのこを食べたことがなかったので断りました。

 砂糖のたくさんある小屋に住んでいる王子さまも断りました。

 欲張りになってしまった王さまは、チーズをたくさん持っている王子さまがいいと言い始めました。

 けれど、冬は間近です。側近たちはやきもきし始めました。そして、王さまの言葉を聴いていたお姫さまは、あまりに王さまが王子様の求婚を断ってしまうのでもう求婚してくれるような王子さまが現れなくなってしまうとがっかりしました。


 お姫さまは毎晩屋根のうえで泣きました。

 これではいつまでたってもこの国も、お姫さま自身も幸せになんかなれないからです。

 すると暗闇のなかにお姫さまみたいに真っ白い毛並みの生き物が現れました。その動物は屋根の縁に座って、しげしげとお姫さまを見つめていました。

 その生き物のなんて優美なことでしょう!

 長い尻尾。ぴんとした耳。はりのあるひげ。雄雄しくすらりした四肢。そしてまるで蜘蛛の糸をより合わせたような美しい毛並み。

 お姫さまは生まれて初めて猫を見たのでした。話しには聞いていたのでしたが、大切に育てられすぎて宮殿から出ることがなかったからでした。

 それなのに、お姫さまは白い猫のことがとても好きになってしまいました。

 お婿さんは絶対にあの白いネコでないといやだと思うようになりました。

 けれど誰にもそんなこといえないのでした。


 いろんな国からいろんな色のねずみの王子さまが集まってきて納屋の宮殿は賑やかになりました。朝から晩までみんなが騒ぐので人間が気づいてしまいましたが、ねずみの王さまは気にしませんでした。なぜなら、これだけねずみがいたら人間などひとひねりでやっつけられると考えたからです。

 王さまがそんな風でしたから、王子さまも安心して宮殿で遊んで暮らしていました。


 そんなある夜、納屋の扉が開き、雷が落っこちてきたみたいな凄まじい音が響き渡りました。大きな動物が跳梁する物音に、ねずみたちは大慌てに慌てて逃げ出しました。

 お姫さまも寝ていたところをうばやに起こされ、宮殿から抜け出しました。

 うばやは目の前の大猫を見るや、きゃーとばかりにお姫さまを放りだし、ひとりで逃げてしまいました。

 お姫さまは怯えながらもいつも自分が伝って行った梁を上って屋根のうえにたどり着きました。

 お月さまが晧々と納屋全体を照らしています。

 お姫さまもお月さまの光に照らされ銀色に輝いていました。

 そして、屋根のむこうがわからあの思い焦がれていた白い猫がゆったりと渡ってきました。白い猫もお姫さまと同じように銀色に輝いていました。

 お姫さまは心のそこから感激して銀色の猫に必死で駆け寄りました。

 猫はお姫さまの身体をやんわりとくわえました。

 ねずみのお姫さまは感激のあまりに気を失ってしまいました。


 気がつくとお姫さまは空中庭園のなかにいました。

 真鍮の鳥かごのなかにお姫さまは入れられていました。やわらかな綿が敷きつめられ、金色の小さな入れ物にはチーズとおかしがありました。お姫さまは、ここはどこかしらと思いました。

 下のほうでは銀色の猫の王子さまがお姫さまを呼んでいます。大きな部屋には人間の子供もいます。お姫さまは猫の王子さまの宮殿に連れてこられたのだと悟りました。

 

 もうお姫さまは茶色いねずみの王さまのことも、いろいろな国からやって来てくれたねずみの王子さまのこともすべて忘れてしまいました。

 真っ白い雪のように美しい、ねずみのお姫さまは、美しい宮殿で幸せに暮らしました。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ