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第一話 第三章

「ふあぁ。ん?どこだ、ここ?」

俺は大きなあくびを一つして目を覚ました。

辺りを見回すと見知らぬ風景が広がっていた。高そうな壺、豪華なシャンデリア、天蓋付きのふかふかなベッド。それら全てが、明らかに俺の自室でないことを物語っていた。

「痛くねぇ。」

ふと気づいたが、どういうことだ?いかにも重症な怪我を負っていたのに、あざ一つも無いぞ。体も軽いし、とてもあんな戦闘をした後だとは思えないぞ。

「すぅ、すぅ。」

何か聞こえると横を見ると何故今まで気づかなかったのかと思うほど近くに姫が椅子にもたれかかって寝ていた。

長いまつ毛の瞳は閉ざされていて、リップも塗っていないのにツヤツヤしている唇からは甘い吐息が溢れている。

まるで天使のような出で立ちに、俺の心臓は早鐘を打っている。

「ん~~、あっ!そうだ。」

この状況を何とかするために考えついた結論は、ズバリ起こす。単純明快だが、それだけじゃあつまらない。

「という訳でイタズラして起こしてやろう。」

天使の表情を崩すのは惜しいが、このままでは気まずすぎる。

ぷにっと姫の両頬をつまみ、伸ばし、伸ばす、そして伸ばす。

「ふぇっ!は、ひゃにぃ!?」

思ってたよりも、大きなリアクションをしてくれたので、俺は大満足だった。

「くくくっ、おはよう姫。」

「・・・」

ん?顔を赤くして、プルプル震えているが一体どうしたんだ?

「・・・な!なな!何するのよ!!」

怒り狂った姫は、勾玉に霊力を込め、武神を顕現させて・・・。

「あっ!ああっ!あああぁぁ!」


ゴッ!


「すみませんでした。」

頭に巨大なたんこぶを作りながら、土下座して謝るが、

「和也くん三日間もずっと寝てて私、とっても心配していたのに、これじゃあ私がバカみたいじゃない。」

まぁ、案の定怒られましたね。って、

「何?俺、三日も寝ていたのかよ?」


「そうですよ、それともう一つ言うならばこの三日間、その方はほとんど寝ないであなたの看病をしていたのですよ。」


急に第三者が会話に加わってきたので、その声のする方を向くと、そこにはエルフィアさんが立っていた。

「すみません。ノックしたのですが返答が無く、怒鳴り声が聞こえていたので入って来てしまいました。」

勝手に入って来てしまった事については何の問題も無いが、それよりも重要な事を聞いちまったぞ。

「三日間看病してくれたって本当なのか、姫?」

「もう、エルフィアさん!余分な事言わないでくださいよ!」

どうやら、こんな態度をしていることから本当のようだな。

「そっか、サンキューな姫。」

俺が素直な感謝の気持ちを込めて、満面の笑顔でお礼を言うと、

「・・・う、うん。」

なんて、また顔を真っ赤にして、今度はおとなしくなっちまった。まったく、熱でもあるのか?

「さて、お二人共。そろそろ、本題に移らせて貰おうと思います。」

俺達の話がひと段落付いたのを見計らって、エルフィアさんが話を持ち出してきた。

「本題って、この世界について話して貰う件についてか?」

「はい、お約束させていただいた、この世界について、全てお話いたしましょう。」

ようやく、この世界に呼ばれた理由などかが分かるな。

「まずは、自己紹介をいたしましょうか。窮地を救ってくださった、英雄の名をお聞かせください。」

そういえば、こっちは馴れ馴れしく、エルフィアさんなんて呼んでいたけど、俺達はまだ名を名乗っていなかったんだよな。

「オッケー。俺は白刀流剣士、白刀和也だ。」

「えっと、今更ですけど、はじめましてエルフィアさん。私は八雲神社の巫女、八雲姫です。」

「カズヤにヒメですか。今更ですが、私はこの世界、シンフォニアの王女、エルフィア・シンフォニアです。先代の方々からは、エルフィの愛称で呼ばれてきたので、できればそちらでお呼びください。」

そういうことなら、これからはエルフィと呼ばせてもらおうかな。

「それでは、次にこの世界の話をしましょうか。ここは、カズヤ達の住んでいる世界の間近にある、けれど決して交わることのない場所に位置する、シンフォニアという名の異世界なのです。」

異世界ねぇ、とてもじゃ無いが信じられないね。といっても、俺がここに居てあんな物と戦っていた時点で信じるしか無いがね。

「そして、このシンフォニアには魔法というものが日常的に使用されているのです。」

「魔法って、エルフィさんが私を守る為に使ったあれですか。」

あの、雷を纏った槍の事か。魔法なんて、ゲームでしかありえないものだと思っていたが、本物を見れる時が来るとは驚きだったぜ。

「ええ、そうです。そして昔、魔法を作ったとされる人々がその力を使い、争いを始めてしまい、争いに勝つためにもっと強い魔法を作っていきました。末に、神具という魔法の髄を集めた強力な魔法具まで作られました。カズヤの白百合、ヒメの八尺瓊勾玉やさかにのまがたまが神具にあたります。」

白百合が神具ねぇ、白刀流の型が強くなっていたのはそのおかげか?

「へぇー、この勾玉に名前って付いていたのね。」

お前が思うところはそこなのかよ。

「・・・それで、その魔法使い達はどうなったんだ。」

「全員戦死してしまいました。結果、大量の死人を出し軍事利用された魔法と神具だけが残りました。」

まるで、俺達の世界であった戦争だな。敵国に勝つために様々な武器を作り出して戦い、残るのは勝者と敗者、そして死者だけだ。どちらの世界でも戦争ってあるんだな、なんか悲しいぜ。

「それで、エルフィさん。それからはどうなったのですか?」

「それはですね、戦争の後から平和の為と、シンフォニアの王女には世界に散らばっている神具を回収し保管する、そしてシンフォニアの人々に神具を使わせないという、使命が課せられました。」

戦争に使われた道具なんだから相当の力が宿っているのだろう。その行動はいい判断だと、部外者の俺でも思うぜ。

「ですが、シンフォニアにはまだ発見されていない神具もあり、それを一人の人間が発見してしまいました。しかも、その神具は自らを悪魔にするというとても危険な神具でした。」

エルフィは急に表情を暗くして、話しだした。しかし、自らを悪魔に。なんていう恐ろしい神具だろう。

「それで、そいつは?」

「人間としての意識を完全に失い、完全なる悪魔、サタンと名乗りその意思は、破壊の限りを尽くしています。」

たまたま見つけてしまった神具で悪魔になって意識もない、かわいそうすぎるだろ。

「そして、今では破壊衝動がどんどん高まり、シンフォニアをも破壊しようとしているのです。そのためには、力が必要と悟り、強力な神具を探し求めているのです。」

「それじゃあ、なんで狙う必要のないこの城をあいつらは襲ってくるんだ?」

神具が欲しいなら、このシンフォニアの大地のどこかに眠っているんだろ?それを探し出せばいいだろうに。

「それは、このフェルニア城の地下に先代の王女達から集められた神具が大量に保管されているからでしょう。大地を駆け回って見つけるより、簡単に神具が手に入りますからね。」

なるほどな、これで大体シンフォニアの全貌が見えてきたぞ。だけど一つだけわからないことがある。

「なぁ、エルフィ。最後に聞きたいんだけどさ、なんで異世界人の俺達が神具を持っていて、シンフォニアを救う助け人なんだ?」

「それはですね、私の代から、保管されている神具をカズヤ達の世界の、信頼できる人を見つけて事情を全て話した上で保管、そして本当に必要な時に使ってもらうという事で預けたのです。」

それが、俺達の先祖に渡されて俺まで受け継がれてきたのか。

「そして、なぜあなた達をお呼びしたかと言いますと、先程も言いましたように、サタンがシンフォニアを破壊しようとしていると申し上げましたよね?」

「ああ、そのために神具が必要って言ってたんだろ。」

「はい、それがですね、シンフォニアが壊されるとカズヤ達の世界も壊れてしまうのです。」

「は?」

今なんて言った?俺達の世界も壊れる?コワレル?

「ちょ、ちょっと待ってよ!何でそんな事がわかるの?」

「シンフォニアがあなた達の世界の間近にあると言いましたが、間近というのが実は、同じ星なんです。ですが、次元が少しズレているので世界どうしが干渉することはありません。」

「え?それじゃあさっきと言っていることが違うじゃないですか。」

「確かにそこが難しい所なのですが、同じ星であることは変わらないみたいなので、どちらかの世界の地形などが大きく変われば、もう片方の世界にも同じく影響があるのです。」

っていうことは、この前の戦いで負けてたらシンフォニアが壊されて、ついでみたいに俺達の世界も終わっていたのかよ!?

「逆に、地形を大きく変えないように、私達がカズヤ達の戦争に赴いた事もありましたよ。」

まじか、もしエルフィが居なければ戦争の被害がもっと大きかったかもしれないのか。でも、これじゃ、

「つまりは、等価交換か?自分達の使えない神具を異世界の住人に渡して、あなたの世界を救うから、私達の世界を救ってと?」

脅しとなんら変わらないじゃないか。

「ちょっと、和也くん!そんな言い方、無いじゃない!」

話に横槍を入れるなと、目で姫に訴えかける。

「どうなんだ?」

俺はこの話を聞く限りでは、俺が戦うのが取引みたいだったから、ちょっとカチンときているんだ。

「・・・そう、言われても仕方ありませんね。」

エルフィはバツが悪そうに暗い表情で答えたが、

「ですが、そんな気持ち抜きで、カズヤ達の世界を救いたいと思って今まで行動してきたのです!どうかそれだけは、ご理解してください!」

次には、深々とおじぎをしてきた。これだけでも、俺たちの世界を大切に思ってくれているのだろうが、

「エルフィ。俺の目を見てくれ。」

人の心は目を見ればわかる、そう思いエルフィに目を見るように告げた。

「・・・はい。」

「・・・」

数十秒、もしくは数分見つめ合っていただろうか?そのおかげで、エルフィアの気持ちが痛いほど伝わってきた。この人は本当に心の底から、自分の世界、そして俺たちの世界まで、とても大切に思ってくれている。だったら、言うことは一つだ。

「・・・わかった。この白刀和也、世界を守る為に人肌脱ごうじゃないか。」

「・・・え?」

まるで、鳩が機関銃で撃たれたかのような、困惑の表情でエルフィは戸惑っている。

「だから、戦ってやるって言ってるんだよ。」

「ほ、本当ですか!」

俺は、ベットから出てエルフィに近づき、右手を差し出した。

「これからよろしくな、エルフィ!」

「はい!よろしくお願いします!」

エルフィと固く握手を交わし、これから助け人として戦っていくことを決心した。

おっと、そういえばもう一人の事を忘れていたぜ。

「姫、お前はどうする?はっきり言って、あまりお前を危険な目に合わせたくないんだが。」

今回の戦いでは、姫を巻き込んじまったけど、今度からは戦うか選べるんだ。俺的には、姫の分も俺が戦ってやりたいんだがな。

「・・・やるよ、私も戦う。戦いは怖いけど、何のせずに世界が壊れちゃうくらいなら恐怖に打ち勝って戦うよ。」

「ヒメも、ありがとうございます!」

これで、話はまとまったかな。へ、へっ!これからは刺激的な日常が待っているぜ。


コンコン。


話し終わった、タイミングでドアがノックされた。どうやら誰か来たみたいだ。

「入りなさい。」

エルフィがそれを王女の風格むき出しで答えた。入ってきたのは、騎士のひとりらしく鎧を纏っていた。

「はっ。王女、民衆をフェルニア城前に召集し終わりいたしました。」

「分かりました。下がりなさい。」

言い放つと、気配が一瞬の内に消え去るように騎士は部屋を出で行った。

「お二人共、御手数ですが少し付き合ってもらえますか?」

俺達は顔を見合わせたが流されるままに、エルフィに連れて行かれたどり着いたのはかなり高所に設置されたテラスだった。

「こちらへ。」

エルフィアに促されて、テラスの真ん中に立つとそこから見えた風景には、人がいた。ただし想像もつかないほどの大人数。そして耳を立てると、


「シンフォニアを救ってくれてありがとう!」

「おっ、新人か!頑張ってくれよ。」

「これからも、よろしくお願いします!」


様々な、感謝の言葉が飛んで来た。

「こんなに感謝されると。」

「ふふ、照れくさいね。」

姫も同じ気持ちだったらしく、二人共苦笑いをこぼした。

「カズヤ、ヒメ、シンフォニアの代表としてお礼を言います。本当にありがとうございました。」

振り返ると、エルフィが何度目かの腰まで折ってのお辞儀をしながらのお礼をしていた。

「もう、いいって。これから何度も助けに来るんだろうから、そういうのはなしで行こう。」

「でも、やはりこれは礼儀ですから・・・」

「はい、ストップ。ねぇ、エルフィさん?もっと、フレンドリーにいきましょうよ。」

二人から押されて、観念したようだ。

「わ、わかりました。ふれんどりーですね?」

あ、でもやっぱりわかって無さそうだ。まぁ、でもだんだんと親しくなっていけばいいか。

「こほん、それではお二人共、そろそろ時間です。」

急にエルフィが話題を変えてきたが、時間って何のことだ?

「そこに描かれた、魔法陣にお乗りください。そうすれば、お二人の世界に戻れます。」

そっか、もう一時的だけどシンフォニアの危機は去ったんだよな。だとすれば俺達がこの世界に留まっている理由は無いのか。

「帰るか、姫。」

「うん、帰ろう。私達の世界に。」

なんだかんだで、もう帰るのか。もっとゆっくりして行きたかったけどな。

「シェティ、お二人の荷物を。」

「はい。」

シェティと呼ばれたエルフィの従者と思われる、メイドさんから綺麗に仕立て直された制服と白百合を手渡された。

そして、俺と姫は、ためらうことなく魔法陣へ乗った。すると、シンフォニアに呼ばれた時と同じく、体が光りだした。

「さよならとは言わないぜ・・・またな。」

「エルフィさん、またいつでも呼んでください。そして、今度は沢山お話しましょう。」

俺達は最後だけど、最後じゃ無い別れの挨拶をした。


「そうですね、また今度。」


エルフィの美しいハニカミ顔と言葉を最後に、光の本流に身を任せ俺と姫はこの世界からその姿を消した。


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