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貝逢わせ

作者: SHORTBREAD

 そういった心算で書いた訳ではありませんが、満員電車での行動は注意しましょう。

 その日は偶々帰宅ラッシュの人波に遭遇したたけだった。連休明けの月曜日、また一週間が始まるとゆう日の帰り道。電車の中はとても混雑していた。

 普段はそんな時間に電車に乗る事は無いのだけれど、都心部に用事があり仕方なく帰りが遅くなってしまった。

「うひゃ~、暑いなぁ」

 初夏とゆうにはまだ早く、外は涼しいくらいだ。それでもこの混雑した車内は暑く感じてしまう。実際暑いのだけれども。

 そんな事を考えながら電車の発車時刻を待つ。発車時間が近づくにつれ、乗車する人も増えていく。

 始めは扉付近に立っていたのだけれど、仕舞いには通路の中央付近に押し出されていく。それに合わせて握っていた吊り革を変えていく。

 車内にアナウンスがあり、降車側の扉が閉まった。もうそろそろ出発の時間らしい。

 まもなく発車いたしますと車内外で案内されている。それに合わせて、とゆう事ではないだろうがさらに車内の密度は上がっていく。仕方なく吊り革を一つ車内側に移す。

 そうこうしている内に扉を閉める音が鳴り、扉が完全に閉まった。



「あと20分近くこのままかぁ」

 最寄の駅まで何も出来ずそのまま立っている事にため息を吐きそうになる。

 そんな事を考えている時だった。

 背中に寄り掛かるような感触があった。

 もちろん混雑している車内なので、そういった事はありえない話ではないのだが何と言うか、妙に心地好いとゆうか。そんな気分にさせられる。

 背中が触れているのが心臓の辺りまでなので、自分よりも背は低いのではないかと思われる。身動きが取れないので相手がどんな人かは分からないけれど。

 電車が揺れる度くっ付いたり離れたりを何度か繰り返す。その度に少し汗ばんだ背中が熱を失い冷やされ、また暖かくなる。目を閉じてしばし揺れに身を任せる。

 だが心地好い時間は長くは続かないもので、電車がまっすぐ進む区間が多くなってきた。しばらくはそう揺れはしないだろう。

 残念な気持ちになるが少し冷静になった頭で考えるに何をしてるんだろうと思ってしまう。混雑時に背中が触れてしまうのは仕方ない事ではあるが、これはちょっと違う気がするし。

 ただ心地好いからと背中を合わせている訳にもいかないだろう。ただの自己満足になるだろうし。

 ぐだぐだと考えていると、また背中が温かくなる。

 電車が揺れた訳でもなかったのだが、それでも背中が触れていた。

 あれ?と思いつつもこの状況を続けてしまう。

 寄り掛かってしまわない様に、背中の相手に負担を掛けない様に注意しながらこの状態を保つ。

 あまり永く触れていると暑くなってしまうので適度に離れて背中を冷やし、恐る々々また背中を合わせる。

 こんなにゆったりした気分になるのは久しぶりだった。それも満員電車の中とゆう、心地好いとゆうにはあまりにかけ離れていそうな場所で。まぁ、満員電車が心地好いと思う人も居るのかもしれないけれど。少なくとも自分はそうは思えないけれど。

 そんな事を考えつつ、またしばし目を閉じる。



 何分経ったか分からないが、気付くと車内アナウンスが流れていた。そろそろ最寄駅に到着するようだ。

 この心地好い時間が終わってしまうのが残念ではあるが、それは仕方ない。

 背中の人にとっても心地好かったのならば良いのだが、それは都合が良すぎる考えとゆうものだろう。罪悪感が心を過ぎる。

 電車が速度を落としてホームに進入していく。まもなく止まると、扉が開き人が流れていく。

 その流れに乗り遅れない様に電車から降り、一心地吐いた。敢えて車内は振り返らず、改札へ向かって移動していく。

 改札を出て階段を下りていく。まだ背中には少し温度が残っていた。

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