水国宰相と花国宰相
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祝立日を明日に控えたウォーター国、国民の意欲は高く続々と臨時の住居を建て、土地を耕して行く。
官吏達は寝込む王の為にと、国づくりを進めていた。変わったと言えば、官吏でもない銀鎧の騎士が武官達を手伝っているそうだ。
勿論王の許しを得ており、まだ出来たばかりの騎士団は助かっているらしい。
そんな中、城内には他国からの一人の 客人を迎えていた。
「お初にお目にかかります。フラワ国、宰相がブレンと申します。」
それに続け、護衛の二人も静かに頭を下げる。
事情を知らぬ者なら、祝立日の為に来たのかと思うかもしれない。
しかし、彼らは違う。
昨日、医師サーキュレの弟子ココの話を聞いたウォーター国上級官吏は、直ぐに動いた。
ココが口にしたのは「フラワ国の官吏に、沸死病の克服方法を知っている者が居るかもしれない」という事だった。
幼い子どもの出任せか?いや、この場で言うにはあまりにもリスクが高過ぎる。
結果、藁にも過がる思いでフラワ国に飛んで行った数名。
雄の鳥人に乗り、アルバンドと事情を知るココ、キリスが向かったのだ。
フラワ国に着いた一向は、アルバンドの端的な説明で意外にも門番に直ぐに受け入れられた。
というのも、ケープラナ国の元宰相モリスの弟子という認識をされたからなのだが…。
(偶然にも、モリス様がフラワ国に恩を売っていたお陰だ。あくまで、俺に力は無い…。)
その間、キリスはアルバンドの後ろに控えて口出しをしない。この緊急時だからこそ、アルバンド対応を任せなければならない。
対外的に、ウォーターの宰相がアルバンドと見せる為に。
その時、フラワ国でも何やら問題が起こっていたらしく落ち着かない要するにであった。
それでも『沸死病』の名を出した途端に、城内から一人?の官吏が飛んできたのだ。
その官吏に、事情を話せば何やら思案しながらも2つ返事でウォーターに行くことを了承してくれた。
官吏は、少量の荷物と二人の護衛のみを連れて、有り得ない早さで鳥人に共に乗ってくれたのだ。
「あの、本当に感謝致します。私はウォーター国宰相アルバンドと申します。」
鳥人に乗り、とって返す最中にやっとアルバンドが礼を述べる。
官吏はただ頭を横に振る。
「…いや、一国の王の危機に否はありません。」
アルバンドとフラワ国官吏の会話に、キリスは胸の内を隠す。
どう見ても一言問いたい風貌だが、それを聞いて気分を害されても困る。
もしも、ウォーター国王だったらこう言っただろう。
『何で貴方、熊の毛皮を丸ごと着ているの?』と。
フラワ国宰相ブレンの名乗りに、彼の姿に呆気に取られていた者達は慌てて簡単な挨拶を交わす。
「申し訳ありません、一刻を争うのでお聞きしますが…ブレン殿は、沸死病の治療法をご存知なのですね?」
熊の毛皮に、顔も熊の顔を被っており表情は分からない。だが、ルピアの真剣な眼差しに、ブレンの声がハッキリと響く。
「ええ。副作用も無い。上手く行けば、一時間程で回復されるだろう。」
「なんと!一体どのように?!」
「良いから早く治療に入れ!」
ブレンの確信を持った物言いに目を見張るウォーター国の官吏達。
不治の病が回復すると言う相手に、信じられない医師サーキュレは詰め寄るが、それを押し退けるレビュート。
「勿論。では、ウォーター国王陛下の元に案内をお願いしたい。」
冷静なブレンに、その場も多少の落ち着きを取り戻す。
セラとレビュート、医師サーキュレ。感染があるからと止められたものの、アルバンドが共に続く。
部屋の外にレビュートとアルバンドが待たされ、中にサーキュレ、セラ、ブレンが入る。
ウォーター王の顔色はまるで血の気は失せているのに、手に触れれば沸騰する様に熱い。
「…サキ様。」
涙を溢し、枕元に取り付く鳥人を視界に入れ、ブレンが懐から何かを取り出す。
医師サーキュレはそれをじっと見つめていた。
本当に助ける方法などあるのか?他国の王をわざわざ救う義理も無いだろうに。
ブレンの手には、小さな瓶が乗る。中には桃色の液体が揺れ、慎重に蓋が開かれた。
「失礼。」
開かれた瓶を傾け、ウォーター王の僅かに開いた口に数滴滑り落ちる。
ごくり、と無意識にウォーター王の喉が動いた。
固唾を飲んで見守るほんの刹那、カッと寝台上の王の瞳が見開いた。
「っきゃああああああああああ?!」
上半身が飛び起きた紗季の悲鳴に、扉が蹴破られレビュートが転がり込む。
「サキ!」
「…っ?」
直ぐ様王の体を抱き寄せ、疑い無くブレンを鋭く睨み付ける。
「…てめえ、何しやがった?」
「…え?え?え?何…これ、これ、どういう状況?」
紗季自身は悲鳴を上げた事すら分かっておらず、レビュートに抱き締められたまま混乱し周りを見渡す。
この場で唯一冷静なブレンは、獣人の睨みも気にせずウォーター王紗季に目を向けた。
「ウォーター国王陛下。ご気分はいかがですか?」
「…え?ええと、あれ?体がスゴく軽い、けど…スッゴク寒い?」
人より体温の高いレビュートに抱かれても震える体が寒さを訴えているが、それ以外の変化は無さそうだ。
レビュートも、やっと紗季がごく普通に話すのに気付き、マジマジと見つめる。
「…ならば、暫く体を暖められて安静にすれば、直ぐに良くなるかと。それでは、これで。」
破壊された扉からそのまま出ていくブレンを放り、室内ではレビュートが涙混じりに紗季を強くかき抱いた。
セラが喜びに泣き、悲鳴を聞いて飛んできた面々が驚きと、直ぐに喜びに沸く。
そんな中、去ろうとするブレンを呼び止めたのは、意外な人物だった。
「…お待ち下さい。もしや、このまま帰られるつもりですか?」
「む?役目は終わったかと思うが。」
若き宰相…アルバンドはそれをよしとしなかった。
「とんでもありません!どうかお礼をさせて頂きたく思います。どうぞ一晩このまま…。」
「…いや、私も忙しい身なので、気になさらずに。」
「いいえ。このままお帰り致したのならば、我が国の名折れ。どうか、此処は一晩だけ。」
深々と頭を下げる青年に、ブレンも何か思う所はあったのだろう。
「…分かった。此処は貴殿の顔を立てて、有り難く礼を受け取らせて頂こう。」
アルバンドは「ありがとうございます」ともう一度頭を下げたのだった。
その様子を影から見ていた宰相輔佐シュラは、黙ってその場を跡にした。
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