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ウォーター国創世記  作者: 雪香
4章―国造りと花園の国―
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目覚めた13日目


ぼんやりとする視界を辿り、やっと目に入ったのは涙を浮かべる鳥人。


「…良かった、サキ様!今、どなたか…。」


「……セラ?私……ん、着替えたいかも?」


セラの姿に一瞬で状況を思い出し、汗臭い体に顔をしかめる。


「はい、直ぐに!」と笑顔で出ていく鳥人を見送り、動かぬ体に活を入れて窓の方を見る。


日が出てる。どのぐらい立ったんだろう?


バタバタと戻って来たセラから水を飲まして貰い、ゆっくり着替えを行う。そんな最中でも疑問はつきない。


「…ずっと、セラが居てくれたの?ナディアは?」


「サキ様の病は…獣人には移りませんが、人には感染してしまうそうで…ナディアは別の仕事を。」


そう、と頷き考える。王の住む所を内宮として決め、使える様にしておくように言ったから、それを進めているのかな。


黙った紗季に何か勘違いをしたのか、セラは慌てて両手をぎゅっと握り頭を振った。


「大丈夫です!直ぐによくなりますわ。」


す、凄い形相。

必死のセラに知らず笑う。


「ありがとう。貴女の事は本当に信頼してるよ。」


心からの賛辞にセラはポロリと涙を溢す。それを見て、紗季は不思議そうに首を傾げる。


「セラ?」


「…ごめんなさい。私、嬉しいんです。キリス様は大事にして下さったけれど…他の人間は、鳥人の分際でと軽く見てきて…。」


(サキ様は、ただの私自身を見てくれた。何の力も無い私を必要としてくれた。…だから、この方に誠心誠意仕えよう)


「…何言ってるの?鳥人なんてそこらに居るかもしれないけど、セラは一人だけよ?」


はい、とセラは何度も頷き微笑む。


「…そういえば、私どのぐらい寝てた?」


「はい。夜を一度迎えて、日が登った所ですわ。」


良かった…まだ一日か。

祝立日まで体調が落ち着けば良いけど。


この時点では、紗季は沸死病がどれだけ恐ろしい病か知らなかった。いや知っていたとして、大人しく寝られる状況だとは思わないだろう。


「…あ、何か変わった事はあった?」


ケープラナの元大官達も居るし、大きな問題はないだろうが。


「いえ特には…あ、そういえば。」


「何か?」


何か思い付いたか、少し戸惑う様子のセラに続きを促す。


「問題というか…私の耳に入ったのは、宰相とルピアの会話ですけれど…。」


アルバンドとルピア?

その意外な二人の名前に目を瞬かせる。


「はい。建設や、土地の配分を考える民達が、王の姿を見たいと言っていると。」


ん?

紗季の疑問を感じ、セラはあまり深刻そうでは無いかの様に頷く。


「今の国民は、ウォーターに救って貰ったと好意的ですが、移った時から1度も姿を現さないので、気位が高いのではと思われているそうです。…せめて、祝立日には声だけでも聞きたいと。」


「…そうだったんだ。」


本当はアルバンドと話したあと、外に出るつもりだったのになあ…不味いな。


「あれ?病の事は、もしかして知られてない?」


「はい。上級役人で話しあって、伏せたそうですわ?民が不安に思うからと。」


まあ、そっか。

てか…本当にまずいなあ。

体も指先しか動かないし。


溜め息を堪え、もう一つの心配を減らす為にセラに視線を送る。


「あと、キリスとレビュートに伝言お願いしてもいい?」


そう言って伝言を伝えると、首を傾げながらセラは静かに去っていくのだった。


(…フラワ国の使者が来たら、教えて欲しい?何故フラワ国なのでしょう…)


セラが伝言を伝えに行っている最中、紗季の元に新たな訪問者が訪れた。


「やっほ~。サキちゃん、気分はどう?」


相変わらず緩い口調で軽く手を上げた狐人に、紗季も気が抜ける。


「ネルビア。…うん。今は大丈夫。」


寝台の前で膝を着き「良かった」とネルビアは笑みを浮かべる。柔らかなブラウンの髪が揺れ、金の瞳が優しい光を宿す。


大丈夫と言うが、やはり紗季の体はほとんど動かず、ネルビアの眉が下がっていく。


「…今、狼とキリス・トレガーと魚人が治療法を探してる。宰相と他は国を見回って、国造りを進めてる。…だから、君は休んで?」


ゆったりと優しく言われても、紗季は簡単に頷けず小さな溜め息も出てしまう。


「私…死ぬの?」


「………!」


ネルビアが息を呑む。


「…キリスも、セラも治るとしか言わなかった。でも、自分の体だから分かる。…全く、体が動かないの?変だよね。…私、死ぬのかな?」


知らず体が震え、頬を何かが伝う。


それを見たネルビアは紗季が何か言う前に、その舌で水滴を舐め取る。


「…王は、サキちゃんは死なないよ?君の病は沸死病。最悪意識は失うらしいけど、きっと君は死なない。」


さも当然だと言うようにネルビアは、はっきりと告げる。しかし、紗季の顔は晴れないまま。


「…そんなの。分からない。…出来たばかりの国で、王が病に偶然かかったって…馬鹿みたい。…最初の日からずっと寝たきりなんて、おかしいよ?…やっぱり、私…王なんて…」


その後は続けられず、また涙が溢れてくる。


体調が悪いからか、嫌な考えしか浮かばない。ネルビアも災難だろうか…善意でついてきてくれたのに、うるさい愚痴を聞かされて。


そう思っていたのに、ふと背中に腕を差し込まれ起こされ、そのまま抱き締められる。


「…王を辞めたい?」


何の感情も乗らないネルビアの言葉に、紗季は瞬間思考が止まるが感情で返事をしていた。


「辞めない。理想の為に。」


理想…と言ったが、それは何だろう。

獣人が奴隷じゃない国?

モリスの様な官吏を出さない国?

誰もが笑顔で居られる国?


咄嗟の言葉は自分の心から出たものなのに、綺麗過ぎて落ち着かない。


ネルビアの抱く力が強まり、耳元に彼の唇が触れる。


「…それが君の意思なんだね。でも、もしサキちゃんが嫌になったら…いつでも殺してあげる。」


何か、凄い事言われた。


「えーっと。うん。分かった?」


戸惑いつつ言えば、離れたネルビアの嬉しそうな表情を見つめる。


この麗しい狐人は、何か大きなものを抱えていると思う。森で会った時、そんな風に思ったが…やはり。


狐人の生き残り…ネルビアは、どんな思いで生きて来たんだろう?


寝台に横にされ、ふとネルビアが冷たい雰囲気を纏う。


「…誰だ。」


もし1度も殺気を充てられた事が無い者なら、今のネルビアの視線だけで気を失っててもおかしくないだろう。


「失礼する。ウォーター国王陛下が、意識を取り戻したと聞き…少し話しがある。」


銀の鎧に、金髪と銀色の瞳が目に映った。







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