表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウォーター国創世記  作者: 雪香
4章―国造りと花園の国―
93/100

医師サーキュレの困惑

簡易休養所の臨時所長は、頭を抱えていた。


ケープラナ国の王城医師を勤め早600年。ケープラナが滅び、チェイダー国へ移住が決まっていたが、馬車を間違え新しいウォーター国に来てしまった。


間違えた事を言い逃し、病人や怪我人を看ていた矢先、呼ばれたのはウォーター国城。


恐ろしい顔の獣人に睨まれ連れられたのは、ウォーター王の寝室だった。


息を荒げ苦しむ王に、医師魂に火が点き疑問は消えていた。


普段通りに診察をし、始めは発熱と疲れだろうと考えたが、肌の温度と血抜きにより最悪の病名が浮かび上がる。



「…困った…真に困った……。」


「先生、ネツさましと血えきぞうせいを作りました。」


うろうろと室内を彷徨きながら唸る、見た目は老人の簡易休養所所長…ディエル・サーキュレは、入室してきた少女に気付き動きを止めた。


「…おお、すまんのうココ?早速、城に上がってくるとしようかのう?」


ココと呼ばれた少女は、心配そうに相手を見上げる。


「…王さまは、しんじゃうのですか?」


「!何を言う?誰が聞くかもしれんぞ…滅多なことは口にしてはならん。」


慌てて否定を返し、ココから渡された薬を鞄に詰め込む。


しかし、ココはまだ納得出来ず声を潜め口を開く。


「…でも先生、王さまはフッシ病かもって。」


その言葉にサーキュレは知らず頭を押さえ、溜め息を吐く。


「私の独り言を聞いておったか?」


「…すみません。」


仕方が無い、とサーキュレはココの肩をポンと叩く。


「王が沸死病だとは他言してはならんぞ?…それで、何処まで知っておる?」


城へ向かう最中、医師とココは沸死病の話を続けた。


沸死病…知られているのは、ヨッツア国での大感染。ヨッツア国200年目の時、高熱に倒れた国民3分の1が命を落とした。

その時、理由は知られなかったが、死体の全てに血液が無くなっていたそうだ。


長年研究されてきたその病気は、30年程前にクデルト国で感染が見つかり、やっと詳細が知られてきた。


沸死病と名付けられたこの病は、感染源として野獣と魔獣の血双方が体に入る事である。自由民と獣人、その他種族には耐性があるからか感染しない。


感染した者に発症3日以内に話したり、触れた場合感染する可能性がある。


沸死病の症状は、全身の血液が沸騰し蒸発する。一般の者は、1日持てば良い方。

上級役人、王は不老不死であり感染した場合の前例が無く、知られていない。


その情報を共有しつつ、城内に入りサーキュレは王の元に急ぎ、着くと直ぐに熱冷ましと血液造成剤を投与する。


昨日にあった意識も今日はほとんど見られず、現在は人間以外の看病が求められるので、鳥人のセラが行う。


セラは泣き腫らした目をしつつも、懸命に王の体を冷やし続けている。


サーキュレの処置が終わると、セラは王を見つめ体を震わせた。


「…医師様、陛下は…サキ様は治るのですか?…王は、亡くなる事は無いと、聞きます。…でも、顔は血の抜けた様に白くなって…お体は、温度がどんどん上がって…もう、返事もなさらない…サキ様は、どうなるんです?」


とうとう涙を溢す鳥人に、サーキュレは何も言えず、呼ばれた部屋へ廊下で待っていたココを連れて入った。


「…失礼致します。」


一礼し、促された椅子に腰を下ろし、後ろに立つ少女を手で指す。


「…この娘は、弟子のココリエル・ボックスート・マウンド。ココと呼んでいる者です。」


「その様な事はどうでも良いじゃろう。」


目深にフードを被る人物がピシャリと言い放ち、その隣の黒髪の青年が後を続ける。


「…それで、容態は?」


はあ、とサーキュレは冷や汗を拭い静かに語り出す。


「…さすが一国の主、とお見受けします。薬を服用し、処置を続ければ体を失う事は無いと存じましょう。…しかし、意識を保つ事、体を起こす事はこの先難しいかと。」


上級役人独特の気迫に怖じ気はあるが、医師としてあるがままを伝えるサーキュレである。


宰相アルバンドは思わず手に持つ書物を滑り落とし、キリスは顔から血の気を引かせた。


黙っていた魔術士ローマネは、見える口元だけを歪ませる。


「…やはり、沸死病か?医師よ。」


「…はい。」


聞き慣れぬ病にざわめき戸惑う周囲だが、普段飄々としているローマネの固い声に直ぐに静まる。


「…儂も魔術士の端くれ。思い当たり調べ尽くしたが、治療法は皆無。」


サーキュレも長い髭を忙しなく撫でつつ、ええと頷く。


「ええ。…更に皆様や、民達にも感染が懸念されるかと。」


その言葉に、叫ぶ様な口調で返したのは狼人レビュートである。


「そんな事どうでも良い!!どうせ王が死ねば皆消えんだからな?…それより早く王の治療法を見つけろ!」


激情に吼える狼人に、サーキュレは口をつぐみ恐れ戸惑う。

それに慌ててレビュートを抑え、頭を下げたのは魚人のルピアだ。


「…申し訳ありません。…レビュート殿は側近。誰よりも陛下を心配され、強い物言いになり。…しかし、彼の気持ちは私達皆も同じです。どうか医師様、我が国の陛下をお助けする助力をお願い致します。」


中性的で儚げな容貌の青年だが、不思議とこの魚人が話し出すと皆耳を傾けている。


彼の瞳の真剣さに、サーキュレは医師として、またこの新しい国がケープラナ国をどれだけ助力してくれたかを考え、どうにか助けたいと思う。


暗い思考に陥る医師の後ろで、小さな事が聞こえた。


思考に囚われた室内で、その声は思いの外通った。


「もしかしたら……。」



その小さな声に視線が集まった。







少し注意書を。沸死病は架空の病気ですので、症状や感染方法に矛盾や疑問点が出てくると思います。作者は、医療の専門的知識を深く心得ておりません。もしも、その点でご不快に思われたら申し訳ありません;


ここまでお読み下さりありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ