風呂に入りたい
仮眠を少しとった紗季は、簡単な食事を作った。
不老不死とは言っても、お腹は空くみたいなんだよね。
大怪我をしているトレガーの為に、お粥を作って向かった。
扉を叩き入って行くと、トレガーはすでに起きて窓を見つめていたが、紗季に気付き頭を下げた。
「…おはようございます、ミズハラ様。」
「おはよう、トレガー。ご飯作ったから食べよー。」
紗季の言葉に、トレガーは短く礼を言った。
少し熱めの為、紗季がお粥に息を吹き掛けると、トレガーは慌てた。
「…そのような事までして頂かなくても…;」
えー。
「…まぁ、良いじゃん今は怪我人だもん。直ったらこき使うから、覚悟してね?」
紗季がおどけると、トレガーは少し微笑んだ。
「…はい。是非。」
紗季は食事をしながら、昨夜考えていた事を思い出していた。
「ねぇ、トレガー。」
「はい?」
紗季はじっと見つめた。
「今日、ここの留守を預けても良い?」
は…と言ってトレガーは固まった。
「…俺がですか?」
紗季はあっさりと頷く。
「貴方しかいないでしょ。」
その言葉にトレガーは黙って頷いた。
(…そうか。この国はまだ、俺しかいないんだ。)
それは、臣下も民も溢れ返っていた国から来たトレガーには、不思議に感じた。
特に、側近では無かったトレガーには紗季に直に命を受け、知らず心が躍る事だ。
そんな思いに気付かず、紗季は食事を終えると立ち上がった。
「じゃあ、行って来るね。」
「はい。お気をつけて、お待ちしています。」
トレガーの返事に、紗季は嬉しくなった。
…私は、もう1人じゃないんだ。
扉から出て城を出て行くと、昨日と同じ様に裏の山を目指した。
昨日神を脅して、風呂の事を聞いたのだ。なんと、山奥に天然の温泉があるらしい。
絶対入る!!
はや歩きで行くと昨日よりは早く、50分程で着けた。
茂みをかき分け、山奥に入ると奥から煙が見える。
発見しました!隊長!
温泉を見つけ、紗季は浮き浮きして手を入れた。
「あったかい~。はぁ、めっちゃ嬉しい。」
いそいそと衣服を脱ぎ、温泉に身体を沈めた。
…生き返る~!
ほう…と息を吐いて目を細めた。
しばらくそのままで、ゆっくりと過ごした。
体感時間30分位経った頃、紗季は顔を上げた。
そろそろ出るか。
そう思い、出ようとした時近くの茂みが揺れたのが視界に映る。
紗季が驚いて目を向けると、茂みから人影が飛び出した。
温泉の煙であまり見えなかったが、段々と輪郭がはっきりしてきた。
現れたのは、透けるように白い肌に尖った耳、中性的な美しい容姿の青年だった。
だれ?
てか人間?
つうか…男だよね。
その瞬間紗季は一般女子とは違い、恥じらいより苛立ちが勝った。
「とりあえず、あっち向いてくれませか?」
紗季を見て固まっていた青年は、その言葉に勢い良く後ろを向くのだった。
あー。
めっちゃ耳赤いな。
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