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ウォーター国創世記  作者: 雪香
4章―国造りと花園の国―
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ウォーター王帰国

駆け出した先の相手の手を取り、涙を堪え笑顔を向ける。


「…っただいま。」


少し尖った耳をピクリと動かし、水色の髪を揺らした魚人の青年は微笑む。


「おかえりなさいませ、陛下。ご苦労様でした。少し、お痩せになりましたか?」


目を細めて、何も聞かず労る相手に、小さく頭を振った。


「ルピアこそ、留守を守ってくれてありがとう。あ、サイラも元気?」


サイラという言葉に、少し離れて待っていたレビュートも寄って来る。


狼人でサイラより近寄りがたい雰囲気のレビュートに、ルピアも少し緊張するが紗季の変わらぬ対応に気を取り直す。


「はい。サイラ殿とは共に協力して、出来る事を行っておりました。」


そう…と頷くと、供に城内へ足を踏み出す。


城内では忙しく駆け回る人々。


うう…これから大変だなあ。



日も暮れ始めた城外には、テントの様な物がみるみると張られていく。


そういえば、町は直ぐに出来ないから生活の支援もしていかないと。


軽く米神を押さえ、内心溜め息を洩らす。


改めて背負う物の大きさを実感する。


そんな紗季に、ルピアが声を掛ける。


「…陛下、少しお話ししたい事があります。」


控えめな物言いに、思考を戻した紗季は直ぐに目を向けた。


「分かったわ。…では、内大臣と話をするので各々持ち場へ。」


紗季の言葉でそれぞれが別れ、キリスは下官に呼ばれ、レビュートは女官のナディアに呼ばれ離れた。


扉の外にはメーリングが控え、ルピアと紗季は近くの部屋へと入る。


その頃には銀の鎧は、紗季の視界より消え失せていた。


「……はあ、疲れた。それで?はなしって?」


椅子に深く腰掛け、気を弛めたのは帰国出来た事と、気心しれたルピアと二人だからか。


茶器を紗季の前に置き、ルピアもちょこんと椅子に座る。


「…いえ、実は大した話しではなくて…。」


眉を下げて苦笑するルピアに、紗季は勘づき笑みを浮かべた。


「ふふ。休憩させてくれたんだ?」


「…はい。勝手ながら。」


茶器に口付け、一口口に含み呑み込む。


「ありがと。…私、ね、クデルトに行ったよ?」


ルピアの瞳が揺れ、王を見つめる。


「ルピアの嫌がっていたのが分かったわ…人間以外への強い侮蔑と嫌悪。貴方が来なくて良かったと思った。」


陛下、と魚人が呟く。


「でもね、それでもクデルトは゛生きている国″だった。それはね、ケープラナに行ったから。」


紗季は強く拳を握る。


「ケープラナは終わっていた。入って直ぐに感じてしまったの。活気のある民の陰り、堅固な建物の僅かな綻び…。」


紗季の見つめるのは、窓の外の忙しなく動く民達。


「…それが王の存在一人のせいなら、私は自覚しなければって。自分の手足としての側近、頭脳としての宰相…。」


椅子から立ち上がり、ルピアの手を取る。


「私と官吏達と繋ぐ存在が必要だって。…勿論私が心から信頼する者。初めて神書に書いた優しい人。」



ルピアは俯き、紗季の手を震えながら握り返す。


「私は、何も出来ません…力もありません。書も読めません。」


ルピアの不安だった事。

多くのケープラナの官吏がウォーターに入り、自分は用無しになるのではと。


「…何にも出来なくて良いよ。待っててくれただけで良い。」


キリスが居なくなった時、心が折れなかったのはルピアが居たからだ。

「貴方は私の内大臣だわ、ルピア。」


ルピアは瞳から真珠の様な涙を落とす。


「…仰せのままに。陛下…。」


紗季は知らない。


この世界初、魚人の官吏がウォーター国初だという事を。






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