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ウォーター国創世記  作者: 雪香
4章―国造りと花園の国―
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白銀の怒り

紗季の元に駆ける多くの官吏達。


「…陛下!」


一際大きく響いた声の主は、紗季の返事を待たずに地面に叩き付けられていた。


え?


紗季は瞬間、視界の状況に混乱する。


目の前には、銀鎧の男に殴り飛ばされ膝を着くキリス・トレガー。


「…お前っよくも、のうのうと生き永らえていたものだな!」


殴られた衝撃で動けぬキリスに、男は更に腕を振りかぶる。


しかし、それは二人の間に滑り込んだ人物により止んだ。


「…メーリング。」


銀色の瞳が細まる。


「どうか、これまでで…。一国の王の御前で暴力沙汰は…。」


年若い副団長は、相手の壮絶な怒りに微かに震えつつ真っ直ぐに視線を向けた。


「王か…。」


男の雰囲気に少し冷静さが生まれる。


男の瞳に、静観な狼人の背に隠される少女が映った。

銀鎧の男を警戒し、ローブで顔を隠す人物と狐人が、なんとなく少女の周囲を囲む様にも感じる。


男と目が合い、紗季は距離を取ったままレビュートを留め、一歩前へ進む。


「…先ほど、私を助けたくれた事は感謝するわ。けれど、どうして我が国の側近キリス・トレガーに手を上げたのか、教えて貰える?」


足を進め、メーリングを後ろを退かせると、キリスの前に立つ。


相手が王と聞いたからか、銀鎧の男は振り上げかけていた手を下げその鋭い視線を向ける。


「王…という事は、噂に聞くウォーター国の国王でしょうか?」


「…ええ。」


その視線を難なく受け止めたのは、ケープラナの並み居る大官と関わってきたからだろうか。


「私の名はセグナ・ブラッド。ケープラナで武官をしていた者です。」


ケープラナで…か

さっきの言葉『よくものうのうと生き永らえていたものだな』って事は。



キリスは立ち上がるも、はっきりと顔は上げずに居る。


「貴方のキリスに対しての対応だけど、悪いけれどそれは結論が出ているの。」


「……?」


セグナの眉が寄る。


「…我がウォーター国とケープラナ国で約定を交わし、民を移住させる条件の内に、キリスの罪を咎めずとあるのよ。」


それは、とセグナの表情が消えていく。


「それは、確かに守られる必要はある事でしょう。」


あれ?あっさり分かってくれた?


「…国同士では、ですが。個人の感情はまた、違う。」


なわけ…無いか。


相手の瞳に宿る暗い炎に、下がりそうな足を留めた。


「そうね、私も個人として、キリスをウォーターに望んだわ。ウォーター国に、彼が必要だから。」


キリスの表情に生まれていた陰が消えるのを、セグナは許さない。


「…国を破滅に導いた男をか?自分が刺される可能性を考慮しても?」


刺すような銀色の光に、王はただ静かに受け止めた。


「…そうね。知っているわ。でも、彼は私に全てを捧げると誓った。だから、私は彼の全てを請け負う。…その咎も。」


きっと、何を口にしたとして、この男には届かないだろうが。


「…甘いな。そんな甘さで国が続くか?ガキのおままごとじゃないんだが?自分に賛同する者を緩し、傍に置き安堵を求め…まるで仲良しごっこだな。」



王に対してのあまりの物言いに、レビュートは殺気を隠せず、ネルビアは武器に手をかけていた。


そんな中、当の紗季だけは、周囲を手を向け制しセグナへ更に近付く。


その距離、紗季の足で三歩程だろうか。


「そうね。もし、お遊びだったら、ケープラナなど放って置いて良かったかもね?」


紗季は口元のみの笑顔を向ける。


「キリスが必要だったのだから、キリスが見つかった時連れて帰って、10年遊んでウォーターで消えて終わり、ってね。」


クスクスと笑い、ふと真顔になった。


「…なわけ無いでしょ?キリスを探すまで、クデルト国で奴隷という人間の悪意を見た。王が居なくなっただけで滅びる国があった。私の一言で、生き永らえた命があった。」



全て、王の存在と意思が根幹にある。


「半端な覚悟で王として、キリスを請け負っては居ない。一人の人生を請け負った以上、彼を守る責任がある。」


だから、キリスから手を引きなさい。


紗季の口が閉ざされ、男の口が開かれる。


「俺は、主君を刺した謀反人を処罰として拷問を行い、山奥へ捨てた。それを拾ったのが、貴女か?」


「…そうね。」


「…そうか。別に、打ち捨てられた塵をどうするか構わないが、俺にも仕えていた者として意地はある。ケープラナは、俺の第二の故郷だった。滅びてはならなかった。」


紗季は、そうと頷く。


「…でも、過ぎた物は戻らない。貴方が求める物は、この世界の何処にも無い。たとえ、キリスを手にかけても。」


銀色の瞳が閉ざされ、男は僅かに視線を下げ踵を返す。


「…その通りだ。…………もう良い。邪魔をした。数数の無礼な言上も悪かった。」


紗季は何も言わず、銀色の鎧を追い抜き歩みを進めた。


次第に周囲も紗季に合わせ、歩き始める。


少し城が見えた頃、紗季はある事に気付く。


隣を歩くレビュートが彼にしては珍しく、小声で耳打ちする。


「…着いて来てるぞ。あの鎧の奴。」


「……うん。」


そうなのだ。

あれですっかり納得したと思ったら、自然と紗季の斜め後方を歩む銀色の鎧。


ケープラナの面々は、関わりづらいのか、気づかぬ振りを通しているが。


え?何処まで来るの?


そう思っている内に、木材や大量の土を運ぶ者すれ違い、城の門へ近付けば紗季にとって懐かしい水色の髪が目に移る。



「……ルピア!」


知らず、駆け出していたのだ。




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