ルピア視点
待っていた者達は…
ルピアは正直泣きそうになっていた。
ルピアの一日は、作成した地図の見直しから始まる。
侵入者は居るはず無いが、一通り城内を見て回り、サイラと交代で門へ目を向ける。
獣人の狼人サイラとは上手くやれていた。
男らしくさっぱりとしたサイラと、穏やかで物静かなルピアは意外と合ったらしい。
ともかく、ウォーター王ミズハラサキを見送り5日経った現在、ルピアとサイラで王を迎える為に少しずつ出来る事を行っていたのだ。
ルピアは城内の詳細な地図と、湯殿の水の調整を可能に。
サイラは、場外の草花の種別を調べまとめ、広大な土地を測り書き留め。
そんな日々を送る六日目、ルピアの元に一人の兵士が現れ一枚の手紙を持ってきた。
手紙の内容と、兵士の口にした言葉にルピアは固まる事となる。
「…ウォーター国王陛下より、内大臣ルピア様にお手紙をお持ち致しました!」
……ない、だいじん?
恐る恐る手紙を開けば、見覚えのある主君の手蹟。
『ルピアへ
本日中に帰国する予定となっています。
ルピアは内大臣、私と他大臣との連絡役を務めて貰うつもり。サイラには、大蔵大臣を。城内の備品や宝物の管理をして貰おうと思っているわ。
詳しい事は、また着いてから。
因みに、新しい官吏や国民が現在向かっています。
ウォーター国王ミズハラ サキより。
追伸
上級役人の名簿を添付します。』
「……………なっ 。」
ルピアは読み終わると、肩を震わせ血の気の引く顔で駆け出した。
「…っサイラ殿ーーー!」
手紙を渡した兵士は戸惑いつつ、踵を返す。
次第にウォーター国城周辺には、鳥にしては大きな羽音が響き始める。
血相を変えたルピアが持ってきた手紙に目を通し、狼人サイラはうめき声を上げた。
「…嘘だろ?俺が40人を束ねる大臣?サキ一体何があったんだよ!?」
ええ、とルピアも動揺を隠せずにいる。
サイラは深く溜め息を吐くと、頬をポリポリと掻く。
「…それにしても、兄貴が側近ってのも、信じられないよなあ。」
サイラの脳裏には、狐人と火花を散らして、王に嫌悪感をむき出しにしていた兄のレビュートが浮かぶ。
(仲が良くなったとはどうしても思えないな…俺の兄だからか?)
悩むサイラに、ルピアはおろおろと落ち着きが無い。
「…とりあえず、門でお待ちしてた方が良いでしょうか?それとも…」
「んー…そうだなあ…」
サイラは反対に落ち着いており、尻尾をゆらゆらと揺らし、一人頷く。
「…ま、焦っても変わらないしな誰か来るまでいつもの仕事でもしよーぜ。」
ニカッと笑う狼人に、ルピアも少し平静を取り戻し、小さく頷いた。
「…そう、ですね。いつも通りに、陛下をお待ちしていましょう。」
ルピアの頭に、優しく温かな少女の笑顔が浮かぶ。
クデルト国を怖れ一緒に行くと言えず、女一人で行かせてしまった事を何度も悔やんだ。
サイラ殿から、王は怪我を負いながらも、鳥人を助けたという話を聞いた。
何であの方は、強くて優しいのだろう。
でも、と思う。
彼女の、王のキリス・トレガーの消えた部屋を見た悲しげな顔を知っている。
行ってきますと言った、凛とした姿の奥の寂しさを知っている。
待っています。
おかえりなさいと言いたいから。
今度は、絶対に一人で送り出したりしません。
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