花の涙に銀の鎧
新章の始まりです。今回は短めとなっています。
それは、ウォーターという国が出来る半年前だった。
広く清潔感のある室内にある一人用の寝台には、血の気の一切見られない男性が横たわる。
呼吸は次第にゆっくりと、浅い呼吸に変わっていた。
「…待って、て?きっと、彼が直ぐに治療法を探すから……だから!」
男性の手を取る美しい女性は、ただ涙を流し励ましを送り続ける。
いかないで…
いかないで…
私と、共に生きてくれると…
共に笑い合おうと…
誓い合ったわ
神様?
上級役人は…
死なないのでしょう?
なら、彼は絶対に大丈夫ですよね?
男性は病にかかり、既に
二月近く苦しみ続けている。
早く早く
有能な人物が治療法を探している
早く早く
女性の瞳からただ涙が流れ続ける。
その時、男の口が微かに動く。
「っなあに?何か欲しいの?」
男は窶れた顔に、相手の為の笑みを浮かべた。
「………………」
確かに、音は無い。
しかし、彼女は理解してしまった。
『もういい』と。
男性は気付いていた。
ここ暫く相手が食事を取っていない事。
自分の為に、国費が山のようにつぎ込まれている事。
男性はもう一度笑う。
彼女の覚えている自分が、笑顔であって欲しいから。
『あいしています』
女性の手に握られた厚い書物が揺れる。
その次の日、ある国の上級役人の名が神書から消された。
勿論世界にとって、何の不都合にもなり得ない小さな事である。
ウォーター国王水原紗季は、クデルト国を通過し行きと同様、鳥人セラの背に乗りウォーターへ向かう。
紗季が大地へ足を踏み出すと、セラはまた来た道をとって返す。
次の者を運ぶ為である。
王を安全に運ぶ為に、飛行の早く上手く、同性のセラが選ばれた。
此処まで問題無く、ウォーター国の前の森まで着けた。
後は、他の同行者を待ち、王はゆったり国へ戻るのみである。
この時、セラの飛行能力の高さに他の鳥人と到着時間に差が生まれた。
期せずして、王が一人となる時間が生まれてしまったのである。
此処は、全く手の入っていない新国の森。
餌を狙う一対の瞳が光る。
「……え?」
紗季が気配に振り向いた瞬間、紗季の体が真っ二つに別れた。
…はずだった。
紗季の目に映るのは、緑色の飛び散る液体に、日に輝く銀色。
「…無事か?娘。」
銀色の………鎧?
思わず首を傾げる。
というのも、相手は全身爪先から頭頂部まで鎧に隠されているからだ。
え?鎧?
え?亡霊?
混乱する紗季に、相手は兜を外す。
おおお結構格好いいかも。
金髪と銀色の瞳かあ。
兜を脇に抱える人物は、紗季を心配そうに見つめる。
「大丈夫か?やはり女には、魔獣の血は気分が悪いだろう。…家は何処だ?良ければ送ろう。」
「…魔獣?」
ああ、と相手は頷く。
「このような広く深い森には、魔獣や野獣が居着きやすい。近くに国でもあれば討伐隊が組まれるだろうが。」
ええーマジですか。
てことは、国に戻ったらそれも考えないといけないのか。
物思いする娘に、男はもしやと思う。
(俺はもしかして、怪しいのか?)
そう思い、剣を背中の鞘にしまう。
「…俺が恐いか?心配するな。こう見えて俺は以前ケー「紗季様!」…に勤めていた。」
男の言葉に、彼らの元へ着いた鳥人の声が重なる。
「セラ。」
更に、この場へ多くの足音が近付く。
「「「陛下!!」」」
銀色の瞳が光を帯びたのである。
「…陛下?」
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