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ウォーター国創世記  作者: 雪香
3章―ケープラナ動乱編―
79/100

王と面談と【下】

お待たせ致しました。

コンコン


「…失礼致します。」


紗季の促しに入ったのは、少し吊った目付きの青年。


固い表情の彼は、静かに椅子に腰を下ろし背筋を伸ばした。


「…ええと、この度は感謝してもしきれない恩を感じております。貴女様のお陰で、多くの民の命が救われました。」


深々と頭を下げた相手に、紗季は今まで閉ざしていた口を開ける。


「アルバンド・ライトーク。」


「っはい。」


感情を込めず名を口にし、淡々と言葉を続ける王の表情は読めない。


「貴方は官吏としての能力があるわ。…宰相以外をして欲しいのだけど、何がしたい?」


アルバンドの口から息が洩れた。


「…それは、ウォーターに俺を望むという事になるのですか?」


微妙な表情の彼は半信半疑な口調だが、王の答えは早い。


「ええ、そうね。それで?…簡潔に答えなさい。」


あくまで機械的な物言いの紗季に、アルバンドは動揺を隠せずにいた。


(…俺を評価?してくれたという事か。だが、多々失礼をしてしまったしあまり良い印象は無いと思うが。…だからこそ、宰相以外…か?)


室内に静寂が訪れ、王はただ青年を見つめ続ける。


俯く青年の表情は、はっきりとは伺えないが、明るいものではないだろう。


「…やはり、信用は頂けませんか?」


ポツリと呟いた音には覇気が無い。


「信用?」


紗季は思わず問い返していた。

ケープラナで最も若いと聞いたアルバンド。宰相以外を薦めれば、簡単に嫌だと言い宰相をしたいとごねると思ったが…。


信用かあ。

信用は出来ないけど、彼の真面目さには好感は持てたのだ。


ただ、両手を広げて宰相になってーとは言えないけれど。


紗季は机に肘をついて、アルバンドをたっぷり観察してみる。


横分けにされた黒髪は生真面目さを感じるし、少しくたびれた官服は気苦労が偲ばれる。


「…じゃあ、貴方が何もない国で宰相ができる人って誰だと思うの?」


思ってもいない問いかけに、アルバンドの手元から政書が滑り落ちた。


「…宰相、ですか?」


「ええ。まっさらなウォーター国に必要な宰相ができる人物は?」


アルバンドは静かに目を伏せ、懐に入っているだろう政書に視線を向ける。

うーんと小さく唸り声を出す。


へえ。

紗季は思わず目を瞬いていた。


なんというか、アルバンドが一番ケープラナで若いからか、表情が読みやすいかも。


ユーチェロ・ノトスはあっけらかんとしてたし、メーリング・グラウンドは小難しそうだし。


モリスとかファウルは、もう世代が上過ぎて一緒に政務をするイメージ湧かない。


アルバンドは一人で頷き、胸中の整理がついたのかすっきりとした表情である。


「…ウォーター国に必要な宰相ですが…」


「ええ。」


「宰相は、必要ないかと。」


…………はい?


怪訝な紗季に構わず、アルバンドは続ける。


「俺は、元宰相とは比べられない程短い期間の職務でした。

…ですが、どれだけ元宰相が造りあげてきた政の礎があり、それを維持していたというのにも関わらず、王の崩御で全て消える。

…王以外の存在は、虚構なのでは?と。」


ポツポツと語る青年の表情に、知らずみいる少女王。


アルバンドは、自分のしてきた事が無駄だったと思ったのだろうか。


「…そうね。国に必要なのは一に王かもしれないわ。」


「……はい。」


ムムと眉を寄せるアルバンド。


「…でも、それは王の居ない国での事でしょ?」


首を傾げる紗季に、あと口を開く。


「王の居る国には町を、村を造る民が必要だわ。王の手足となる官吏が必要だわ。…共に国を導く宰相が必要だわ。」


ゆっくりと、紗季の口元に小さな笑みが浮かぶ。


「今の私には、宰相が必要だわ?」


紗季の向ける笑みに、アルバンドは一度目を閉じて懐の政書を取りだし、それを床に置く。


「…ウォーター国王陛下、俺は経験は浅いですが古今東西の書物は読み漁っております。年嵩の方々の嫌がる様な雑事も喜んで致します。…何より、貴女様の道筋を支えます。」


えーっと、とアルバンドの顔に焦りが生まれ、妙な汗をかいていた。


「…つまり、俺の将来性を見込んで頂けないでしょうか?!」


面白い位に表情を変える

相手を見て、思わず笑いそうになるがなんとか堪え真面目な顔を保つ。


若い宰相って面白いかも。

あーでも、あと一押しかな?


「…つまり?何を言いたいのかしら?」


は、とアルバンドは一瞬固まり、その数秒後には勢い良く素晴らしいお辞儀をする。


「俺に宰相をさせて下さい!!」


とうとう吹き出した紗季だが、内心慌ててい住まいを但す。


「…結果は後程報せましょう。それまでは待機するように。」


「……畏まりました。」

(子どもっぽいと呆れたのだろうか)


気落ちした様に俯き加減で出ていくアルバンドが出ていくと、紗季は一人クスクスと笑ってしまっていた。


「…うん。採用。」




このあと、エリリィア・グラウンドとナント・セクスハイムと面談を行い、紗季は最終的な決断を下すのだった。





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