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ウォーター国創世記  作者: 雪香
3章―ケープラナ動乱編―
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リヴィアットの苛立ち

リヴィアット・ケープラナ視点です。


なあに、あの女…

一月足らずの国の王のくせに、偉そうに!


私は700年の国の王女よ?

なのに、ただの成り上がりの小国の下官風情も馬鹿にして!


兄上や母上だって

何故官吏たちの好きにさせているの?


父上が亡くなったのなら、最も才高い私を王に据えれば良いでしょうに。

王の崩御した国は1年で滅びる?


それって、次の王を直ぐに決めれば収まるのじゃなくて?


私は300年生きた王女よ。

700年のケープラナ王に最も愛された存在だわ。


あんな冴えない娘に官吏も民も取られてなるものですか。


あの小うるさい側近も、やかましい武官も辞めさせてあげるわ。


ああ…でも、キリスは特別に許してあげても良いけども。

ふふ、と可愛らしく笑む。


精悍で、好ましい容姿の騎士団団長。


私の国だもの、ねえ。


翡翠の瞳、紅の混じる金色の髪は私の自慢。

父に最も似た容姿は、兄上や姉上も羨んだわ。


ああ、そういえば幾千年前には、王の子が神に選ばれた例もあったわね。


ならば、私が王となれば良い。


獣人などを優遇する者など、きっと直ぐに民にも見捨てられるでしょう。


うふふ。


嘲笑を溢し、音のする扉に目を向け入る様に促す。


「…シュラ・シークラッツ。」


赤い瞳に、藍色の長い前髪を持つ官吏と目を合わせた。


彼は父を敬い、私の命にも常に答えてくれていた。

リヴィアットは、愛らしく小首を傾げ身に付けていた白い手袋を外し足下に落とす。


「落ちてしまったわ?拾いなさい。」


こどもの時からの遊び。

いつもしゃがんで拾ってくれて、冷たい顔立ちに甘い笑みを作ってくれていた。


あら?

なぜ動かないの?

なぜ、膝をついていないの?


眉さえ動かない相手に次第に苛立つ。


「シュラ?聞こえているの!」


リヴィアットの高くなる声に、シュラは腕さえ組み深い溜め息を洩らした。


「…な、なあに?」


「リヴィア王女、いえ…ケープラナ第三王女。」


上背のある彼が立ったままでは、妙な迫力がある。


「先ほど、ウォーター国王陛下に拝謁致しまして、日が傾く頃特定の者は広間に集まり発表を聞く予定でございます。」


「…発表?何の?」


リヴィアットの柳眉が寄り、思わず腰かけていた椅子から立ち上がる。


官吏で数少ない顔見知りであるシュラの変化に、何故か嫌な予感がしてしまう。


「…私を、宰相補佐にする予定だと仰っておりました。」



な、とリヴィアットは絶句するが、シュラの顔色は全く変わらなかった。


「貴方、勿論断ったのでしょう?」


「いえ、勿論お引き受け致しました。」


シュラの淡々とした言葉にリヴィアットの顔色は無くなり、呆然と床に座り込んだ。

次第に眉を吊り上げ、相手に鋭い視線を向ける。


「ケープラナを裏切るというの!?あのような新国の小娘に従うと!!」


シュラは静かに口を開く。


「…新国の小娘にすがった国の王女は何方でございましたか?」


「っそれは」


それと、とシュラの言は緩やかに紡がれていく。


「勘違いをなさらないで頂きたいが、私の従うのは《王》という存在のみ。王の喪われた亡国に何の価値が?」


貴女は、陛下が崩御された後、国の為に何をなされましたか?

王族に指示を仰いだ我らに何と仰られましたか?


それは、とリヴィアットの唇が震える。


13才程度にしか見えぬ王女も、キリス・トレガーやメーリング・グラウンドより遥かに年嵩である。


リヴィアットは思い返す。


父が崩御した直後、官吏達は葬儀もそこそこに何故か他国へ慌ただしく散って行った。


なんと忠義の無い冷たい家臣だと思ったわ。


そういえば、幾人かの官吏は私の元にも来たかしら。


なんだったかしら…


『王女、どうか此方に調印をっ』


それは確か、ヨッツアに救済を求める書簡。

どうかしてるの?

父を喪った次の日よ、と思い『何と思いやりの無い人なの。父を喪った娘から哀しむ時間を奪うつもり?』


その後、その官吏は二度と私の元に現れなかったわ。


ふと、その出来事が脳裏に過るがそれよりも、自分の正当性を捜す。


「…私は、クデルトへ交渉に出向いたわ!」


「ええ。一人では行けず多忙なモリス様の手を煩わせておりましたな。」


「…けれども、他国へ出向いた王族は私だけだわ!」


はあ、とシュラの溜め息が洩れる。


「出向くならば、ヨッツアかチェイダーが宜しゅうございましたな。あの小さな国では、ケープラナの民は入り切れないでしょう。それに、遅すぎた。…国壁で、随分な被害が出てしまいました。」


呆れる様な口調で紡がれた言葉に、リヴィアットはとうとう甲高い声で上擦った叫びを上げていた。


「私のせいだと言うの?!王の居なくなっただけで崩れた国壁のせいでしょう?!それに民を守るのは官吏の仕事だわ!私達王族には関係なっ…」


ハッとリヴィアットは口を手で覆った。


無言の相手を伺えば、既に扉に手をかけていた。


「…最も陛下に似ていらっしゃると思っていた貴女だから、最後に会いに参りました。貴重なご意見伺えもう充分でございます故、退出致します。」


確かに、もう関係なかろうなと呟き、シュラ・シークラッツは静かに部屋を出るのであった。








どこに入れようか悩んでいた話ですが、結局間に入れました。


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