表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウォーター国創世記  作者: 雪香
3章―ケープラナ動乱編―
74/100

ウォーター王とケープラナ側近

「どうぞ?」


扉の音に、ローマネとレビュートも言い合いを止めていた。


「…失礼致します。」


「あ、モリス。」


入って来た人物に目を丸くする。


確か、モリスって王女と一緒にクデルトに行って来たんだっけ?


「…もしよろしければ、少々お話をさせて頂けたら有り難いのですが。」


その場で頭を下げたモリスに、紗季の反応は早かった。


私も話したい事があったしね。


「ええ、構わないわ…レビュート、ローマネ、少し出てて貰える?」


寝台から下りた紗季の言葉に、二人は異論せず頷く。


ケープラナに来てから、レビュート達にとってもモリスの存在は軽くは見れないものだった。


宰相のアルバンドを然り気無く支援し、目立たず見事に采配する姿は明らかである。


扉から出ていった二人を見送ると、紗季は椅子に腰掛けモリスにも促す。


紗季の椅子より固い椅子に座ったモリスは、もう一度頭を下げる。


「…この度は、野獣浸入への収束をご協力頂き真にありがとうございました。多くの民の命が救われる事が出来ました…。」


モリスの口調は静かなものだったが、瞳には紗季への感謝が浮かんでいる。


「…大した事は無いわ。どうせ私の民になるのだし、トレガーも見付けられたもの。」


やっぱり、モリスに誉められると何となく気恥ずかしさがあった。


なんだろ…?

モリスって、何か亡くなったおじいちゃんっぽいんだよな。

本人には失礼だけど。


「…いいえ。貴女様は頑張られました。新国の大事な時期に他国に助力して。」


モリスは瞳を細め、もう一度頭を下げる。


「ケープラナも、初めの一月は慌ただしく過ぎました。多くの者が集まり、また去った。…100年、私と、ハンニエルと、リトニア…キリスの父で国の基盤を造り上げました。」


淡々と語り出すモリスに、紗季は知らず耳を傾ける。


「きっと…」


モリスの視線と紗季のそれが交わった。


「サキ様の、今側に居る者にも居られるでしょう。…共に時間を造り上げる者が。」


初めて相手の口から出た自身の名に、戸惑わないのは彼の穏やかな口調故だろう。


トレガー…

ルピア…

レビュート…

サイラ…


出会った者達を浮かべる。

そうだったら嬉しい。


まだ訪れぬ百年を思う。


「…私に出来ると、思う?」


本当は、選ぶ官吏について相談しようと思っていた。


しかし、モリスの顔を見ていたらそんな言葉が生まれていた。


モリスは微笑を浮かべたまま。


「…どうされたいですか?」


「…え?」


紗季の表情が固まる。


「私は、したいようにされれば良いと思います。好きな事をなさって…もし間違っていれば、止めてくれる者もいるでしょう。そうしたら、一度考えてみる。」


ああ。


「…うん。そっか。」


ふと、目頭が熱くなっていく。


「…サキ様の、今したい事は何ですか?」


「国を、造る事。」


「…本当にしたい事は何ですか?…仰って下さい。」


紗季の中の押し殺していた感情が、次第に込み上がっていく。


今したい事。


体が震え、頬を滴が伝う。


「…言えない。」


言えない。

言ったらいけない。

私は…王だから。


「今は誰も居ません。此処は廃れゆく古国。聴くものもおりません。今だけです。サキ…王では無い貴女のしたい事は何ですか?…国に戻ったらきっと休めぬ日々となるでしょう。…今だけ、仰って下さい。」


紗季の手に大きく少し冷たい手が重なる。


したい事なんて決まってる。


「…っ家に、帰り、たい…」


俯く紗季の頭が撫でられる。


「…………なん、で?王なんて、イヤっ。…帰りたい。…おかあさん、おとうさん…ゆい…!」


時間にすれば、三十分ほど紗季のすすり泣きだけが室内を支配する。


袖で目元を拭った紗季の瞳は痛々しく腫れたが、涼やかな光が生まれた。


「…何だか私、貴方と居ると泣いてばっかりね。」


ふふ、と笑う紗季にモリスは冷静な口調のままである。


「良いのですよ。感情の排出は必要です。相手が年寄で良ければですがね。」


その言葉に、一笑いした紗季は、居住まいを正した。


「…ケープラナ国側近モリス。」


モリスを常の理知的な瞳に、官吏としての気色を浮かべる。


「はい。ウォーター国王陛下。」


「…私は、数日以内に国に戻るわ。」


「ええ。」


「今日、ケープラナから連れて行く官吏を決める。良いわね。」


堂々とした紗季の迷い無い口調に、モリスは肯定を示す。


紗季は静かに神書を取り出したのである。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ