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ウォーター国創世記  作者: 雪香
3章―ケープラナ動乱編―
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考える10日目


「………んー。ん?」


柔らかな朝日を感じ、ゆっくり脳が覚醒していく。


あと5分…いやいっぷん………………?


ガバッ!!


「…っ今いつ?!」


飛び起きた紗季の目には、ケープラナで寝起きした部屋の光景が映る。


「お?起きたのか…。」


周囲を見渡す紗季に、聞きなれた声が返される。


「レビュート…。」


椅子に座ったまま伸びをするレビュートを眺める。


えーっと?

昨日は何が………

あっ。


「…どうなった、の?」


「あ?何がだ?」


あ、怖い。

でも聞かないと。

やっぱ聞きたくないなあ…。


よし、まずは聞きやすい所から。


「ネルビアと、セラは?」


自然を装う紗季に、レビュートは身体を向けた。


「ああ、狐野郎は匂いがするから近くに居るんだろ。鳥女はキリスって野郎と一緒に居る。」


そっかと頷く。

聞きたい事は山ほどあるのに、中々口が開かない。


「…町は?」


紗季の様子にレビュートは何気無い口調で続ける。


「町の人間は、ほとんどは生き残ったらしいぜ。あの後宰相の奴が来て確認してやがったし。」


宰相…アルバンドか。

政書を持ってるから確認出来るよね。


台に肘を置くレビュートを見つめる。


「…何だ?」


紗季は慌てて頭を振った。


「あ、ううん。えっと、あと…その…」


昨日を思いだし、野獣への恐怖で顔を歪めるが、ローマネとのやり取りが脳裏に浮かび思わず顔の温度が上がる。


それを誤魔化す様に小さく咳をするが、レビュートは見逃してくれなかった。


「…魔族野郎(ローマネ)と何があった?」


レビュートの知っているのは、ローマネが眠る紗季を抱いて戻った事。


何があったか、はっきりと言える者は誰も居なかった。


更にキリス・トレガーの存在はレビュートを苛立たせた。


昨日の夜も、自分が紗季の護衛をすると申し出たが断ってやった。


(サキが許しただろうが、神書に書かれてないで急に出しゃばんな…)


加えて今の紗季の表情、少なくともローマネと何かあったと感じてしまう。


レビュートの苛立ちは募るばかりだ。


紗季もそれを察し、温度を下げようとゆっくり深呼吸する。


「…何も、ないよ?」


だから…気にしないで~!


目線を合わせられない紗季に、レビュートは無言の視線をぶつける。


「……………。」


き、きまずい。

流石に正式な私の官吏で、守ってくれるって言ってくれた相手に悪いよね。


「…えっと、その…」


「…………初めてを貰っただけじゃよ?」


紗季が意を決した時、まるで今まで居たかのように佇む魔術師。


「…魔族野郎。」


驚く紗季とは異なり、レビュートの表情は冷たい物だった。


「初めて、だと?どういう意味だ!」


ギロリと音のしそうな視線にも、ローマネは気にせず紗季の腰掛ける寝台に近付く。


「…言うたらお主に噛み殺されそうじゃな?」


愉しげに笑うローマネを見る紗季は、何とも言えぬ感情が生まれている。


うう…怒りたいような。

流した方が良いような。

でも、レビュートが居るし。

なんか、なんか…


「…ローマネ、今は部屋から出てくれない?あの、後で…。」


戸惑いがちの言葉に、ローマネは色を浮かべた瞳を向け、紗季の手を取り微笑む。


「…そのような寂しい事を仰るな?儂と貴女の仲じゃろう。」


ちょ、ま、待って!?

ヤバイ…あ


フードをずらしたローマネは、自身の容姿を理解した上で活用する。


王としての気概よりも少女の気持ちが浮かび、思わず顔を赤くし固まってしまう。


しかしその空気も、ローマネと紗季の手を乱暴に外した獣人にかき消された。


「……お望みなら噛み殺すぞ糞魔族。」


「お断りするとしようかのう、今は王に用事があるのじゃ。」


レビュートの殺気にローマネは飄々と微笑を浮かべる。


「…用事?」


それに首を傾げる紗季に、ローマネは居住まいを正し膝を着く。


「昨日捧げた真名に偽り無く、儂魔術師ローマネは貴女にこの生を使わせて頂きたいと思う。どうか神書に我が名を加えて貰えぬか?」


頭を下げるローマネに、紗季は冷静になり間を置かず口を開く。


「ええ。貴方を我が国の官吏と認めるわ。」


「…光栄の極み。尽力させて頂こう、我が君よ。」


深々と頭を下げたローマネは、ゆっくり立ち上がった。


静かな静寂の後、レビュートがそれを破る。


「…で?初めてって何だ。」


不機嫌さが上がったレビュートに、紗季は俯きローマネはククッと笑う。


「…しつこい雄じゃのう?もう良いじゃろ?」


「あ?良くねーだろ!」


それを皮切りに言い合いを始めた二人を、紗季は内心呆れたため息を吐くのだった。


そんな中、部屋の扉が叩かれた。




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