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ウォーター国創世記  作者: 雪香
3章―ケープラナ動乱編―
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沈む日

大変お待たせしました。

ご感想、ご意見ありがとうございます。



「キリス様、大丈夫ですか?」


セラからの傷の手当てが終わると、キリスはゆっくりと立ち上がる。


「…ああ。助かった。」


小さく微笑したキリスに、セラもホッと息を吐く。

しかし直ぐ様笑みを引き、自らの主を見つめる。


ウォーター国王水原紗季は、感情の読み取れない表情で騎士団の向かった方向を見つめていた。


ふいに、近くの建物に背を預けていた狐人に声を掛ける。


「…ネルビア、私を国壁まで運んでくれる?」


紗季の予想外の言葉に珍しく表情を崩すネルビアだが、瞬間口元に笑みを浮かべた。


「いーよ。もう行く?」


ええ、と紗季は頷く。


身体を纏った他を威圧する雰囲気は消えたが、未だ表情は鋭いままである。


ネルビアは軽々と紗季の身体を横抱きに持ち上げ、向かう方向へ目を向ける。


「…ミズハラ様、俺も御供をさせて下さい。」


「トレガー。貴方は怪我をしているでしょう?」


紗季は後方からの声に淡々と返すも、キリスは全く引き下がる様子は無い。


「この程度障りはありません。それより、俺は貴女様の側でお力になりたい。」


次第に日が傾いていく。


キリスの顔に影が落ちる。


「…それとも。……先ほどの失態に、役立たずと思われましたか?」


誰が見ても、先の野獣へはあれ以上の対応は出来なかっただろう。

しかし、守るべき王に助けて貰ったキリスは、羞恥と後悔が胸中に生まれていた。


はあ?


紗季の表情に次第に人間味が戻る。


「トレガー。此方に。」


ジロリと音がしそうな視線を向ければ、キリスは反射的にネルビアに抱かれたままの紗季に走り寄る。


「…私がどれだけ時間と労力を使って、貴方を探したと思う?今さら役立たずだから遠ざける、とかすると思うの?」


不機嫌に言い募る紗季とは反対に、キリスの瞳に生気が生まれる。


「…いえ。……俺などを重用して頂き光栄に存じます。」


静かに頭を下げるキリスの空気に、なんとなしに喜びが伺えた。

それに気恥ずかしさを感じた紗季は、キリスから視線をずらす。


「ネルビア、行って。…着いてきたかったら勝手にすれば良いけど。」


目を合わせず投げ掛けた言葉に、キリスの口元が綻ぶ。


「…ッハ。」


ネルビアが大地を蹴ると同時に、キリスは馬の鞍に飛び乗る。

走り際、ネルビアとキリスの視線が交差する。


(サキちゃんは、本当にコイツを…)


(ミズハラ様に密着し過ぎだ…)


一瞬の緊張感にセラも冷や汗が滲むが、間も無く二人の姿は消え去っていた。


少しずつ視界が薄暗くなる中、国壁が近付いて来る。


…疲れた。

眠いし、お腹も空いた。



正直、疲労と緊張感に紗季は疲弊していた。


国壁まで着くと、辺りに転がる野獣の屍に気づく。


「ウォーター国王陛下。」


「…ファウル。」


声を掛けられた紗季は、周囲の惨状に自然と寄る眉間を振り払い、ネルビアから離れ国壁に近付く。


やっぱり。


「魔獣の姿は無いのね?」


ファウルの表情に驚きが混じる。


「…お気付きでしたか!」


まあ、と相槌を打つ。

紗季の感じていた違和感はこれだった。


最初に聞いた野獣や魔獣が町を襲う、という状況が違っていたからだ。


野獣という生き物は凶暴化しており、魔獣の姿は無い。


「…もしかして。魔獣は野獣に襲われたのかしら。」


「否。それはあり得ません。」


脆く崩れる国壁に手で触れる紗季の斜め後ろに、ファウルは隙無く周囲を見張り続ける。


「理由は?」


「…是。魔獣と野獣は相容れぬもの。野獣にとって、楽に捕れるエサ(人間)があるのに魔獣を襲う意味はないでしょう。」


ファウルの言葉に思案する。


うーん。

分からなくなって来た。

結局魔獣はもう居ないの?


それをファウルに問えば、静かに首を振られた。


「野獣が減らされた今、今度は魔獣が国内へ侵入する恐れがありますゆえ。」


安心できないと。


「…でも、魔獣も騎士団の人なら退治できるでしょ?」


サラリとした紗季の口調に、ファウルの表情に苦いものが浮かぶ。


「経験の無いものは難しいでしょうな。武器は武器屋、服は服屋という様に得手不得手がございます。魔獣を上手く扱えるのは、魔族ぐらいでしょう。」


魔族…


紗季の脳裏に黒いローブの人物が浮かぶ。

今回も言わなくても来ると思い、声をかけなかったら来なかった人物。


ケープラナに来てからは、レビュートとローマネが傍らに居たせいか、ローマネの不在に違和感を感じる。


もしかして…もう何処かに消えたのかな?


確かに彼は、どこまで着いて来るか言わなかった。


キリスを失った時と似た感情が込み上げていく。


まだ、魔術師を名乗る意味聞いてないけど。


それに…


『気味が悪いじゃろ?』


あの時の美しい瞳に浮かぶ色を脳裏に描く。


紗季は知らずファウル達から離れ、未だ崩れていない国壁に手を置いた。


「…気持ち悪く無いよ。牢から出してくれてありがとう。城まで一緒に来てくれて心強かった。…会えて良かったよ、ローマネ。」


紗季の呟きが終わり踵を返した時、キリスとネルビアが血相を変えて駆けて来るのが視界に映る。


紗季の視界の端に映る黒。


「…待って!」


反射的にキリス達に掌を向けていた。






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