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ウォーター国創世記  作者: 雪香
3章―ケープラナ動乱編―
70/100

国境沿いにて

ケープラナの話も終盤に近付いて来ました。

今回は国境に向かったファウル視点です。


将軍ファウルは、崩れ欠けている塀に散らばる部下達に目を向けつつ1つ息を吐く。


キリス・トレガーの心は、既にケープラナから離れているだろう。


ならば、アルバンドもどうにかウォーターに移してやりたい。


あとは、ユーチェロと…。


働きぶりの良い若手の顔を思い浮かべる。


…油断無く塀に意識を向けつつ、これからを思う。


500年前、レイヴィット・ケープラナ陛下に拾われ…モリス宰相や、ハンニエル大官方と国の為駆け抜けて来た。


先ほど、若い騎士団達の自分へ向ける安堵と期待の眼差しを感じていた。


ケープラナを捨てる訳にはいかない。


…実は、ヨッツアとチェイダーからは、拙とハンニエル、モリスと一部の官吏は国へ来ないかと声を掛けられたのだ。


しかし、それを喜ぶには自分は年齢を重ね過ぎていた。


若い部下は?

戸惑う文官は?

自分を頼りにしている血族達は?

何も知らぬ王族達は?


何より、変わらぬ生活を信じる民達をどうする?


政治自体に意欲を示さなくなった陛下だったが、それでも時折街へ出て民達を見て回っていたのは知っていた。


自分の孫を神書に加えて欲しいと進言した時、僅かに微笑んだのを知っている。

リトニア・トレガー様の一人息子を、躊躇い無く上級役人に加えたのを知っている。


陛下は、何より国を愛されていた。

だからこそ、拙は国を見捨てない。


『…そうだ、お前の名はファウルにしよう。』


鮮やかに彩られた思い出。

小汚ない布を身につけた幼子に、手を差し伸べてくれた王。


陛下…何故何も言わず逝ってしまわれましたか?


「…お祖父様!」


ふと、耳に入る聞き慣れた声に、直ぐ馬を走らせる。


側近であり、息子の孫であるメーリングは、普段全く変えない顔色を薄くしている。


「どうしかしたのか?」


仕事中は必ず位で呼ぶ曾孫の異常に、ファウルは眉を寄せる。


「…これを。」


メーリングは手に持つ何かをファウルに差し出す。


「…何だこれは?…………まさかっ!」


受けとるファウルは直ぐに正体に気付かなかったが、次第に理解し声を上げる。


はい、とメーリングの硬い声が返った。


「…あの、野獣もどきの腕です。少し、見てて下さい。」


震える声で言うメーリングは、近くにあった通常の野獣の死体を引きずり、その口をこじ開ける。


ファウルの視線を感じながら、メーリングは自身の腕を短刀で傷付けその口に血液を垂らす。


その瞬間、野獣の体は化け物へ変化していく。


メーリングの額に汗が滲む。


「…中級や下級役人の血では、変わりありませんでした。」


「そうか。」


ファウルは動揺を押し殺し、眉間を押さえた。


これは…早急に城の官吏達、他国にも伝達しなければならない。


「お祖父様。」


「…うむ。野獣もどきの討伐後、直ぐ様対策を練る必要があろうな。」


塀から侵入して来る野獣を躊躇い無く切り捨て、メーリングに返答する。


「…それと、お祖父様。」


「ん?何だ。」


生まじめなメーリングに珍しく、少し口をまごつかせた。


「…少し気になる事が、あります。」


ファウルは不思議に思い、黙って続きを促す。


「侵入して来たのは、初めは野獣と魔獣…と聞きました。何故、野獣しか見ていないのでしょうか?」


その事に始めて気付いたファウルは、みるみる目を見開く。


それと同時に、激しく雨が大地を叩くのだった。












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