表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウォーター国創世記  作者: 雪香
3章―ケープラナ動乱編―
68/100

始まる闘い



鼻を突く血の臭い。

騎士団で町民を逃がす者も多少は居たが、どれだけ避難できたのだろうか。


この町に来た若い騎士団の少数は上級役人、他は全て下級、中級役人のみである。


上級役人はどのような怪我でも死ぬことはないが、中級以下は別である。


それを知っていても逃げずに立ち向かい、ある者は若い身を散らし、ある者は亡骸から貰った剣を振るう。


上級役人だとて死なないと言え、痛みも感じるし、重い怪我になれば回復も遅くなる。


紗季は少しケープラナの官吏へ認識を改めていた。


自尊心は高いが、それ以上の愛国心を持っていると。


馬の振動を肌で感じ、前に向く。

紗季を守るキリスは、野人の集団では無く少し離れた場所に居るものを集中し狙う。


キリスの見立てでは、30~40ほどの筈である。

騎士団の数は減ってしまったが、相手の数も随分減っている。


そう思う間に、一匹切り伏せる。


よし、あと十ほどだろうか。

キリスが更に剣を強く握り締めたのと、紗季が不可解な場面を見たのは同時だった。


…なに、あれ?


崩れ欠けた塀から浸入する数匹の野獣は、一匹の野人に促されるままある官吏の死体に近付く。


ふと妙な胸騒ぎがし、意識を向ける。

目の前に居る野人に向かって行くキリスに言う余裕は無く、一瞬目を閉じ次に開けた時戦慄が走る。


不快な音を響かせ、野獣だったもの達は野人へと変貌していたのだ。


「…うそ?」


つまり、官吏の死体を口にした野獣が野人になったという事である。


「…キリスっ!」


「…ミズハラ様?」


目の前の野人を切り伏せたキリスは肩で呼吸し、表情の変わる紗季に目を向ける。


「あれを見て…。」


震える身体を叱咤し、視線の先を見るように促せば、キリスの顔から色が消える。


「…!そんな…増えて、いる?」


驚愕に変わるキリスの表情に、紗季も視線を変えないまま妙に落ち着いた口調で続けた。


「ええ。…アイツ等は死んだ官吏の死体を食べて、体が変わったみたいに見えたわ…。」


キリスが息を呑む。


「…つまり、野獣をこの国に入れてはならない…。」


紗季の漏らした呟きに、キリスは戦慄が走る。

息つく間も無く、視界に入る騎士団を指揮する者へ声を張り上げていた。


「…ファウルさ、ファウル将軍! こいつらは官吏の体を取り入れ、変化したようです!これ以上国に入れてはいけない…!」


顔色を変えず野人と相対していたファウルは、初めて眉を寄せ動きを止める。


「……キリス!!」


「っは!」


よく通るファウルの声が響き渡る。


「ウォーター国王陛下を守りながら、この場を頼めるか?拙は手勢のみ連れ国境を見張ろう!」


ファウルの強い視線に、キリスの芽生えていた不安は直ぐに吹き飛ぶ。


「承知致しました!」


小さく口角を上げたファウルは紗季に礼をし、近くの部下のみ連れ駆け出した。


既に激減していた騎士団の者達へ視線を巡らすと、覚悟を決めた紗季と視線を交わす。


転がる死体に、気分の悪くなる野人の臭い。


紗季は込み上げる物を堪え、半ば睨み付ける様にキリスを見上げた。


「さっさとやっちゃって頂戴?」


頷き返すキリスは、直ぐ様騎士団員の配置を考え、声を掛けていく。


(うまくいけば、被害も少ないだろう。しかし…もう少し戦力があれば良かったが。いや、考えても仕方がない…)


「…キリス様!ご無事ですか?!」「セラ?!何をしてる、戻れ。」


上方から聞こえる声に、馬上の二人はハッとして顔を上げる。


「…でも、心配で…」


今にも泣きそうなセラだが、紗季はあまり焦りは感じなかった。


まあ、空に居れば大丈夫だよね。


キリスもそう思ったのか、セラに動かない様に言うと野人に剣を構えた。


紗季は残る野人を胸中で数え出す。


その時、一匹の野人が後ろ足を開き深く腰を落とす。

不可解な行動に構えた騎士団には振り向きもせず、野人は足に力を入れる。


まさか…


紗季がその可能性に思い至ったのと、野人が強く跳躍したのは同時だった。


「…セラァァ

ーーーーーー!!!」


叫ぶ間に、野人に羽を掴まれ地上に引きづり下ろされたセラ。


声なき声を上げるセラに、紗季も馬から落ちんばかりに身を乗り出す。


「…トレガー!早くセラを…」


「っは、い!」


しかし、運悪く二匹の野人が向かって来てしまう。

ファウルのお陰か増加は防げているか、騎士団には自分の闘いで余裕は全く無い。


野人のギョロリと動く目に見つめられ、セラは身をすくませ抵抗という抵抗も出来ずにいた。

野人の前足がセラの羽を毟る様に鷲塚む。


「…いやああああ?!」


セラ!





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ