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ウォーター国創世記  作者: 雪香
3章―ケープラナ動乱編―
60/100

対話の9日目

意外な展開になりました。




紗季はその瞬間視界が滲み、大声で笑いたいような泣きたい様な思いになった。


思えば初めて会った人物は居なくなり、次の人物は優しいけど何も分からないので頑張って指示をし、次はすがられ、殴られ食われかけ、国に留まれず…。


表面は格好つけてるけど内心余裕なんて欠片も無い。

私昔から顔に出さないの得意だし、ファウルに話される時正直またか…と思った。


アルバンドをウォーター国の官吏にして欲しい…とファウルの目は語っていた。

アルバンドへの期待と、私への無言のプレッシャー。


あーもう無理です。

王が死んだけど、能力が勿体無いから使えって?

おかしいおかしいおかしい!!


私が何も知らないからって押し付けるな!

気付いていないと思う?

上級役人の若い官吏の方が、レビュートを蔑んだ目で見てた事を。


私が、はい良いですって言って若い官吏だけ連れてったらどうなるの?

優しいルピアと真っ直ぐなサイラにあの目を向けるの?


正直言えば、ケープラナで選ぶ気があるのモリスのみだ。

トレガーを拷問まがいした様な武官なんて絶対無いし。


頭の中で色々な感情が溢れた時、レビュートの怒りでスッと冷静になれた。


初めてこの世界で守って貰えた気がした。

レビュートに抱き付く想像をしながら、他の者の手前咳払いしてもう一度ファウルに向く。


「…うちの者が失礼したわ。それで、続きは?」


ファウルは一瞬言葉に詰まるが、直ぐに笑みを浮かべる。


「いえ、ところで彼は貴女様の官吏でよろしいでしょうか?」


ええ、と紗季は即答する。


「レビュートは、ウォーター国の正式な上級役人よ。立場的には貴方との違いは無いわ。」


ケープラナには獣人の官吏は見掛け無かったので、ファウルも納得していなかったのだろう。


紗季の言葉に、ファウルは笑みを止め深く頷く。


「左様でございましたか。ならばお怒りはごもっとも。…もしよろしければ、レビュート殿とお話しする時間を下されませんか?拙の考えをお聞き下さればと。」


なるほど。

まずはレビュートに言って、レビュートが私に伝えるみたいな事かな?


「…そうね。とりあえず、騒動の収拾がついてからでも良いでしょう。」


「是。ありがとうございます。」


深々と礼をしたファウルは、レビュートにも頭を下げてその場から離れた。

遠目に心配しているらしい部下達に、何か話しをしに行ったらしい。



…よし、終わった。


紗季は長い溜め息を吐くと、ずっと不機嫌そうなレビュートの頬を思わず突っついてみた。


「おい、何しやがる?」


「ん?いやー、だってレビュート怒ってるんだもん。」


ムッとレビュートの眉根が寄る。


「怒ってねえ…。」


「わー。説得力なーい。」


気安く笑う紗季の様子にレビュートは毒気を抜かれ、後ろ頭を掻き溜め息を洩らす。


「レビュートさんや、レビュートさん?」


レビュートの肩を紗季の指がツンツンと触れ、からかい口調の相手にレビュートは目だけ向ける。


「…んだよ?」


「うん。……ありがとね。」


言葉と共に、紗季の顔には年相応の笑みが浮かぶ。

思わずその表情に見入り、ポカンとレビュートの口が開く。


「…あはは、変な顔~。」


声を抑えてクスクスと笑う紗季に、レビュートは知らず瞳を細める。


「……………。」

(そーいや、俺最初はコイツを怒らせるか泣かせるかだったか。今思えばスッゲー嫌な奴だったな。)


黙るレビュートに、紗季は次第に不安になってきていた。


「え?レビュート?本当に怒った?レビュートさーん?」


自分を見る紗季の顔を見ていると、思ったままが口から出ていた。


「…お前さ、笑うと可愛いな。」


「え?あー………………………………はぁ?!」



え?頭打ったか?

それとも熱?


思わず相手の額に手を置いても、特に熱はないようである。


という事は貶めてる?

笑った時のみだけだお前は、みたいな。


「えーっと。…普段も可愛いですよーだ。」


「そうだな。」


ふざけた口調に返されたのは、至って真剣な表情。


知らず、紗季の顔の温度が上がり、視線を逸らす。


あれか?

誉めて誉めて落とす鬼畜なのか?


「…手を貸せ。」


「…?うん。」


戸惑う紗季の手を取り、指先に軽く落とされた唇。


思考が止まった紗季の髪を撫で、至近距離で目を合わせる。


「覚えとけよ。…獣人は人間より忠誠心が高い。覚悟しろ。お前が嫌だっつっても、一生守ってやるからな。」


ふと、紗季の視界には朝陽の光が入るが、眠気などとっくに消えていた。


目の前には、今までと違う瞳に柔らかい光を宿す獣人。


私、何処かでスイッチ入れたの?


「返事は?」


「…………はい。」





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