話した夜
※読む方によっては、嫌な言葉も出るかもしれません。
「…申し遅れた。俺はケープラナ国の騎士団長をしていたキリス・トレガーという。」
そう名乗ったトレガーに、紗季は頷いた。
てか、ケープラナ国って何処にあるの?!
てか、騎士団って国に必要なものなの?!
内心混乱しつつ、やっと会えたこの世界の人間と話そうと話題を考えた。
「…私は水原 紗季。一応このウォーター国の王…かな?」
トレガーは目を見張った。
「…ウォーター国?初めて聞く国だな。それに君…いや貴女が王ですか。失礼しました。」
…だって一昨日出来ましたし…。
なんとも言えず息を吐き、トレガーの言葉に首を傾げた。
「…あの、元騎士団長ってどういう意味?」
トレガーは紗季の言葉に黙り、眉を寄せて唇を噛み締める。
「…えっと私何か変な事を?」
困惑した紗季に、トレガーはゆっくり顔を上げて、何か決心した様に口を開いた。
「…国の長である貴女に、頼みたい事があります。」
「…何?」
いや、国って言っても城と土地しかないけどね?
「……俺を、殺して下さい。」
………はい?
紗季は思い切り固まった。
え…聞き間違いだよね?
「………何で?」
頭は混乱しながら、口から出たのは意外に冷静な声だった。
トレガーはなんとか上半身を上げると、紗季を真っ直ぐ見つめた。
「…俺は、国の為とはいえ、してはならない事をしたからです。…知っていたと言うのに。…王の居なくなった国は、一年たたず滅びると。」
…?
…どういう意味?
「…してはならない事?」
トレガーは淡々と続けた。
「俺は、700年続くケープラナ国の王を殺しました。」
紗季は口を閉ざし、目を見張った。
嘘?!
どうして?
という疑問は浮かんだが、相手の顔を見ると実際に聞く気は起きなかった。
その上、紗季にとってはそれは重要な事では無かったのだ。
「…何であそこに倒れていたの?」
紗季から出た言葉に、トレガーは瞠目したがすぐに固い表情に戻った。
「…王を手にかけた後、俺は罪を告白しました。そして、咎めを被った。…拷問のち山奥へ…。獣に食われていてもおかしくなかった。いや、俺の罪はその程度じゃ済まないが…!」
トレガーは初めて声を荒げ、項垂れた。
紗季は静かに聞いていたが、見事に嫌そうに顔を歪めていた。
別に…悪いけど私、ケープラナ知らないからさ…
感情移入出来ないんだよねー。
それより私は…。
紗季は目が据わるのに気付かず、トレガーの頬をぶっ叩いた。
「っざけんな!!…助けた相手に殺してなんて頼むな!」
私は、やっと会えた人間に凄く嬉しかったのに…!
紗季は、目を白黒させるトレガーを見下ろした。
「…言っておくけど、動けないアンタを、生かすも殺すも私次第だから。…例え死にたくても、絶対死なせないから!
私は貴方を生かす!」
その瞬間、紗季の瞳が金色に輝きを放った。
当の本人はそれに気付かず続けた。
「…私は王。貴方が王を失ったのならば、命を与えるわ。キリス・トレガー…貴方は今日から私の《側近》だから、死ぬのは許さない。」
その言葉に、トレガーは身震いして唾を飲み込み、表情を無くして紗季を見据えた。
「…俺は人殺しですよ?その上、王を殺している…。」
紗季は心底興味無さそうに、眉を寄せた。
「…だから?良いから返事をしてくれる?」
ちょっと眠くなってきたし…。
トレガーは戸惑いながらも、身体が歓喜に震えた事に気付いた。
「…あの時、山奥に棄てられたと同時に、俺は死んだと思っていました。しかし、見つけて下さったのは貴女だ。
…時間を頂きたい。」
へ?
「時間?」
トレガーは深く頷いた。
「…身体が回復したら、すぐに正式な礼をさせて頂きます。それまでの、時間を頂きたいのです。」
紗季はそれほど深く受け止めず、あっさり頷いた。
「別に良いけど。…とゆうことは、それまで仮側近って事で良い?」
トレガーは静かに目を伏せた。
「…逆に、俺などでよろしいのですか?」
紗季は自然に微笑んだ。
「うん。初めて会ったのが貴方だし。…なんか、運命なのかなって?」
紗季の優しい笑みに、トレガーは胸を押さえた。
「…光栄…です。」
(…落ち着け。これ以上思ってはいけない…二の舞にはしたくない。)
.