王の議決と
「魔術師殿…貴殿の不快は重々承知致します。しかし、 今は会議の結果を話させて頂けないでしょうか?」
あくまで低姿勢であるが、その瞳には有無を言わせない様がありありと浮かび、ローマネも流石に口を閉ざした。
(こういう輩は相手をするのに骨が折れるからのう…。)
そういった胸中はおくびにも出さず、ローマネは小さく笑みを浮かべる。
「構わんよ?王さえ良いと言われればのう。」
えーっと…。
ローマネの視線を受け、一瞬迷うもアルバンドの沈痛な表情を目にし最後は頷く。
「…ええ。今は緊急事態、その話しはまたの機会にでもすれば良いわ。」
安堵したアルバンドの雰囲気を横目に、モリスと視線が交わる。
「それで………
その時、扉が勢い良く開かれた。
入り口で扉に立っていた衛兵が、慌ててその人物を止めようとするが、その人物は全く躊躇い無く入室して来た。
堂々とした立ち居振舞いのその人物は、他には目もくれず紗季の目の前まで来ると軽く会釈をする。
「お初に御目にかかります。…リヴィアット・ケープラナ、ケープラナ国王三番目の娘です。よろしければ、この場に立ち会わせて頂けませんか?」
13、4歳程に見える金色の髪の少女は、気位の高そうな顔立ちとは裏腹にあくまで紗季にへりくだった態度を見せる。
少女を人目みた瞬間、紗季には妙な違和感を感じていた。
…何か似てる気がするな。
んーっと、何だろう?
ふと、数日前夢に現れた人物の面差しと重なる。
思い返せば、少女の自己紹介通りなのだろう。
可愛らしい容姿に似つかわしく無い強い眼差しに、知らず口が動いていた。
「…構わないわ。」
「ありがとうございます。では、失礼致しますわ。」
まるで睨むかの様な視線のまま、紗季の斜め向かいに座る少女。
誰も咎めないのは、彼女が姫であるからか。
それ以前に、アルバンドの表情には戸惑いが浮かんでいる。
…いきなり王女が入ってきたからかな?
僅かの静寂のち、モリスは然り気無くアルバンドの肩に触れた。
気付いたアルバンドは、慌てて政書を開き咳払いする。
「…えー。昨日の話し合いの結果…キリス・トレガー殿の罪は既に罰した。咎めず、と大多数の意見でした。…官吏については、登用したい者をウォーター国王陛下にお選び頂けたらと思います。」
緊張気味だが、ハッキリと言い終えたアルバンドは深く息を吐く。
モリスもハンニエルも特に口出しせずに視線を下げている。
…そっか。
後は私が返事を返すだけ。
自分の一言で、運命が変わるのだ。考えすぎれば胃の中の物がせり上がって来る感覚さえある。
それでも、自分は王なのだ。キリスも取り戻す、官吏も手に入れてみせる。
「そう、分かったわ。…それならば私の答えは一つ。条件を受け入れた貴方方の真摯な態度に免じ、我が国はケープラナの民を受け入れましょう。」
紗季の言葉に、漸く室内の空気が和んだ気配がした。アルバンドは唇を噛みしめ肩を震わせながら、深々と頭を下げた。
これで良いんだよね。
内心鼓動を早めつつモリスと目が合えば、小さく微笑みを返された。
ヤバイ…ときめいた。
息を吐いたその場に、一度落ち着こうと侍女がお茶を淹れてくれる。
ふんわりと香る薫りに目を細めた時、直ぐにそんな空気を破壊する出来事に見舞われたのである。
一瞬、紗季には何が起こったか理解出来なかった。
気付いた時には、吹っ飛んでいた扉。
口を開けて固まるアルバンド、レビュート。
目を見開くローマネ。
口元を引き吊らせるハンニエルと、冷静に扉を見つめるモリス。
「モリス殿ぉおおおおお!!騎士団を暫し借りてもよろしいでしょうか?!」
室内に響き渡る大音量に、やはり反応を返せたのはモリスのみであった。
「…まずは説明を。その前に、此方におられるのはウォーター国王陛下でございます。民の受け入れを引き受けて下さいました。」
モリスの簡潔な説明に、大声の主は寸の間キョトンとするが直ぐに意味を理解したのか喜色を浮かべた。
「…………真か!!!」
声でけええ…。
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