終焉への足音
自分への報告に対し、ハンニエルは愛らしい容姿を僅かに歪ませた。
「…もう手遅れか。」
報告した官吏は、下げた頭を上げることが出来なかったのだった…。
室内で待つ紗季は、二人にバレないよう深呼吸をした。
…いつになれば、落ち着けるんだろう。
軽く扉が叩かれ、礼をして来る相手に頷く。
固い表情のアルバンドと共に、側近モリスとハンニエルが続いた。
知らず背筋を伸ばし、笑みを消した紗季の雰囲気に室内の空気もピリッと変わる。
魔術師ローマネもその空気を感じ、口端に笑みを掃く。
(…流石は王と言った所か。この場を支配しておる…無意識じゃろうが。)
レビュートはと言うと、常よりは固い表情を浮かべるが卓に肘をついて気取らない態度を取っている。
彼のそんな態度に、紗季の僅かに気を緩ませられているようだ。
紗季の真向かいに腰かけたのはアルバンド、両隣にはハンニエルとモリスが腰を下ろす。
「…昨日は大変申し訳ございませんでした!」
開口一番にアルバンドの口から出たのは、謝罪であった。
額にはうっすらと汗を滲ませ、眉根を強く寄せている。
…昨日の事?
ああ~。もしかして、 モリスが言ってた事かな?気軽に大勢の場所に通したとかを…。
昨夜にモリスから謝罪を受けていた紗季は直ぐに察し、チラリとモリスに目配せを送れば、然り気無い苦笑を返される。
モリスの笑みとアルバンドの態度に少し笑いそうになる紗季だが、レビュートの怪訝そうな様子に笑みを堪えた。
「…昨日?何で謝ってんだよコイツ。」
「っコイツ…………」
レビュートの物言いに苛立ちを浮かべるアルバンドだが、両隣から無言の威圧を受け俯く。
「ライトーク宰相、ウォーター国王陛下、レビュート殿、魔術師殿に説明を。」
物静かな口調だが有無を言わせない口調に、アルバンドも更に顔色を悪くしていく。
それとは反対に、紗季のモリスへの好感度はじわじわと上がった。
…誰しもに少なからず感じたレビュート(獣人)への蔑みは無く、むしろ王の同行者として敬っている様子が伺える。
このアルバンドは心配だな。…だってまずは、王を通したら失礼な場所に通したでしょ?レビュートに対しての雰囲気が良くないみたいだし?
…ケープラナから引き抜くなら、モリスにしたいな。
紗季の思考の中では、そんな思いがじわりと浮かんだ。
思考に耽る紗季の横顔を、ローマネは読めない表情で見つめている。
少しの静寂の後、アルバンドが固い口調で始めた。
「…本来ならば、一国の王へは宰相か王族が個別で対応すべき事柄。…己の力量不足を焦り、王をお連れする様な場所で無い所へ案内し、誠に申し訳ありませんでした。」
紗季にとっては同じ事を言われた為、軽く流そうとするが、聞いたレビュートと意外にもローマネの雰囲気も変わった。
「…なるほどのう?それは此方が何も知らぬ王だと侮った故の失念か?」
…ローマネ?
レビュートも何か言おうとしていたが、ローマネの冷たい雰囲気に不思議そうな視線を向ける。
え?まさかあのローマネが私の為に怒らないよね?
思わずレビュートと視線を交わし合ってしまう。
ローマネの言葉にアルバンドは慌てて頭を振る。
「…決して!侮りなどはありません。むしろ、王気に触れご威光を感じました…。」
真剣な口調で一字一句ハッキリと紡ぐアルバンドに、ローマネは心底感情を向けなかった。
「ほう。それ故の謝罪か。…お主は自国の王が同じ仕打ちで許すのか。お優しい事じゃのう?」
最後にニッコリと笑みを浮かべれば、アルバンドも黙り込んでしまった。
え?ローマネさん?
アルバンドに何か恨みでも?
そんな中、ゆっくり口を開いたのは前宰相であった。
.
次回に取引結果が分かります。




